みなさんは、犬を飼っていますか?

最近、犬の介護に関する話題が、よくメディアに取り上げられるようになりました。

犬の平均寿命は近年飛躍的に伸び、更に近年は動物医療の進歩により、これまで不治とされてきた病にまで、治療の道が拓かれつつあります。

愛犬家にとってこの変化は、歓迎すべきことと言って間違いありません。しかしながら同時にそこには、愛犬の終末期の長期化という、新たな課題も潜んでいます。
犬を飼い始めた当初には、考えもしなかった愛犬の介護が、最早全ての飼い主にとって避けられない現実になっているのです。

今回はこの愛犬の介護に真正面から、前向きに取り組んだ、一人の飼い主さんの手記をご紹介したいと思います。

実話手記|ラフと歩く日々

出典撮影:ラフmom

『ラフと歩く日々』と題された、8500文字ほどのその手記は、ホームセンターのペット売り場の端っこで、売れ残っていた雄のゴールデン・レトリーバーと、それを飼う事になった一家の、絆を描いた実話です。

ラフと名付けられたその犬は、犬好きな4人家族の新たな一員となります。
愛情の中で、伸び伸びと育って行くラフ。

しかし、その一家の幸せには、やがて不穏な影が忍び寄ってきます。


以下に、四話構成となっていその手記を、作者であるラフmomさんへの独自インタビューと共に、辿っていきます。

第一話 サンタの後釜は突然に

出典撮影:ラフmom

第一話は、作者の一家が、先代犬だったゴールデン・レトリバーの”サンタ”を、熱中症で失ったところから始まります。

悲観に暮れる作者。そして家族。

それから5年が経ったある日、作者が外出から家に帰った時――
家の中で家族に囲まれていたのが、この手記の主人公となる”ラフ”でした。

Q 先代犬の”サンタ”を失くされて、ずいぶんと悲しい思いをされたのですね。それ以後は、新しい犬を飼うことを考えなかったのですか?

「死なせてしまった、という後悔が、私のココロの片隅にいつも重く残っていました。家族では、しばらく犬の話をしなくなっていましたね。けれど主人と息子達は、ずっと犬を飼いたいと思っていたのかもしれません。今思えば、犬を飼うことから目を背けていたのは、私だけだったような気がします」

Q その後、突然に”ラフ”が家にやってきます。ご家族は、すぐに新しい愛犬になじむことはできましたか?

「私以外は、すんなりとラフを受け入れていましたが、私は少し時間がかかりました。
 そういえば、ラフがうちに来た数日後、散歩の時にラフが突然走って逃げたことがありました。早朝で道路には車がおらず、幸いにも助かりましたが、危うく轢かれてしまうところ。私がぼんやりしていたのがいけないのですが。ラフは私に馴染めず、逃げようとしたのでしょうね。突然のことに驚いて、泣きながら単身赴任先の主人に電話をした記憶があります。
 それからは、気合いを入れてラフに向き合いました。サンタよりずっと手のかからない子でしたので、いけないことは、何度か注意するとやらなくなりました。逃げたのは、あの一度だけでした。」

第二話 永遠の別れ

出典撮影:ラフmom

第二話では、作者のご主人を、突然の病魔が襲います。

ご主人の闘病を見守りながら、”ラフ”の世話を続ける作者。しかし、ご主人の病気は段々と悪化していきます。

意識が混濁しながらも、大好きな”ラフ”の事だけは、決して忘れないご主人。
しかし、別れは突然にやってきます。

Q 体調を崩されたご主人に、重い病気が発見されますね。闘病中のご主人ににとって、”ラフ”はどんな存在だったのでしょう?

「主人にとって、ラフは息子達と同じような位置づけだったと思います。無償の愛を注ぐ存在。息子達は大きくなって、主人に反抗することもありましたが、ラフはとにかく主人にべったりでしたので、可愛くて仕方なかったでしょうね。
 病気になって入院した時も、『ラフに会いたい』としつこく言うので、病院の正面玄関前まで、私がラフを連れてお散歩に行ったこともあるんです。
 たった1カ月ほどの入院だったのに。退院して自宅療養になってからは、ラフは私とのお散歩以外は、常に主人のそばにいましたね。ラフは主人の最高の癒しであり、生きる力だったのかもしれません」

Q その後、ご闘病にも関わらず、ご主人は亡くなられてしまいます。ご家族と”ラフ”との関係に、変化はありましたか? 

「主人が病気になるまでは、ラフが飼い主と認めていたのは、主人1人だけだったような気がします。
 しかし、主人の病気が進行してラフの世話が出来なくなると、主人のポジションは否応なく私と息子達に引き継がれていきました。ラフにもその変化が、徐々に浸透していきました。
 作品にも書いた事ですが、主人の闘病中に、私がラフに噛まれたのは、その変化に対するラフの最後の足掻きで、諦めのサインだったように感じます。ラフも、日に日に弱っていく主人を見て、この先いなくなるかもしれないと感じていたのかもしれませんね。
 私たちは主人と言う、かけがいのない存在を失くしてしまった同志であり、それによって紛れもない家族になりました。あの悲しみをどうにか乗り越えられたのは、息子達とラフが居てくれたからで、どちらが欠けても無理だったろうなと思います」

第三話 透明じゃない涙って?

出典撮影:ラフmom

第三話では、ご主人に先立たれた作者の心境や葛藤が、愛犬”ラフ”との散歩を通して切々と語られます。

そして、ご主人を看取った作者の心の痛手が、ようやく癒えてきた頃のこと。なんと愛する”ラフ”にも病気がみつかります。
小さなイボを切除するため、”ラフ”を動物病院に預けた作者に対し、医師からその病名が告げられたのです。

Q ご主人との別れに続いて、”ラフ”の腎不全が明らかになりますね。余命の告知までされてしまうわけですが、ずいぶんと辛かったのではないですか?

「そうですね、かなりの衝撃でした。腎不全という病気について無知でしたし、ラフが病気になるという発想はまるでありませんでした。
 病気が判った時点では、ラフには何の症状もく元気でしたから、いなくなるということ自体が、想像出来ませんでした。」

Q 飼主の心情として、「血の涙」という表現が使われていますね。”ラフ”の闘病(看病)の方が、ご主人の時よりも精神的にキツかったと言う事でしょうか?

「どちらの闘病も本当に大変で、違いはありません。ただ、病気を受け入れるという行為のしんどさは、ラフの時の方が大きかったんです。それは、やはりラフの気持ちがわからないからでしょうね。どこが痛いのか、どうツライのか、わかってあげられない。
 病気が判って私が最初にした事は、私と同じように愛犬と闘病している飼い主さんの、ブログを探すことでした。腎不全という病気を知るほどに、焦りは大きくなりましたし、闘病している愛犬と飼い主さんがどんな風に生活しているのか、とにかくそれを知りたかったんです。
 そしてしばらく経った頃、いつもブログで見ていた、ある闘病中のワンちゃんの具合が悪くなりました。その時に、どうにか自分の応援する気持ちを伝えたい。助かって欲しいと願う気持ちを伝えたい。そう思って、コメント欄につい書き込んだのが、「血の涙」という言葉でした。
 表現としては重いものですが、その頃の私の心情を、一番表してくれる言葉だったのでしょうね」

第四話 いつでもそこに

出典撮影:ラフmom

第四話は、主治医から”ラフ”の安楽死という選択肢を提案された作者の、迷いや悩みが語られます。

陽気な”ラフ”と向き合いながら、揺れ続ける作者の心。
一体作者は、どんな結論を出すのでしょうか?

Q だんだんと、”ラフ”の状態が悪くなっていきますね。受け入れることはできましたか?

「はじめのうちは苦しかったです。しかし、ラフと生きていく毎日を大切にしようと思えてからは、徐々に病気が進行していくことも、冷静に受け入れることが出来るようになりました」

Q 気持の立て直しはどういう風になさったのですか?

「愛犬の闘病ブログを読んだり、それを書かれているブロガーさんと、やり取りをしている中で、様々な影響を受けて、やがて闘病さえ、も楽しもうという気持ちになれました。どうせ闘病するなら笑いながらやっていきたいなと。
 犬は常に前だけを見て生きています。ラフがひたむきに生きようとする姿が、背中を押してくれました」

介護を必要としている犬はどれくらいいるの?

Licensed by gettyimages ®

ラフmomさんが記された”ラフ”との闘病生活は、決して特別なものではありません。ほんの少しだけ視野を広げて見れば、意外に多くの飼い主達が、愛犬とともに闘っていることが分かってきます。

それでは今、介護を必要としている犬は、一体何頭くらいいるのでしょうか?

”介護”という言葉は、非常に曖昧なものですが、ここでは、介護=終末段階を迎えた犬に対する、看病や介助であると定義して、大ざっぱにその数を求めてみましょう。

親交のある獣医に取材をしたところ、終末医療という観点から見ると、犬の最末期の闘病は、大体2週間から1か月の間なのだそうです。そこで、その中間値の3週間を、介護の期間であるとして計算してみます。

尚、母数となる犬の頭数と、犬の平均寿命は、一般社団法人 ペットフード協会の『平成27年(2015年)全国犬猫飼育実態調査 結果』に示された、下記の数字を用いることにします。

平成27年(2015年)全国犬猫飼育実態調査 結果
一般社団法人 ペットフード協会

犬の飼育頭数 9,917(単位:千)
犬の平均寿命 14.85歳

出典 http://www.petfood.or.jp

寿命の中で、最後の1年を迎えている犬の頭数を類推
 9,917,000頭 ÷ 14.85 = 666,811頭

更にその中で、終末期の3週間を迎えた犬の頭数を類推
 666,811頭 × (21日(3週間)/365日) = 38,422頭

この計算によると、日本中では常に38,422頭もの犬が、終末期の介護を必要としていると推定されます。そしてそれは同時に、その犬と同数の世帯が、愛犬の臨終に向き合おうとしていることをも示します。

愛犬の介護は、その実態がなかなか伺えないことから、ともすれば飼い主は孤独感を抱えがちです。しかしこの数を見れば、それが決して特殊なものではなく、今この瞬間にも多くの仲間たちが、献身的に愛犬と向き合っているであろう姿が、浮かびあがってきます。介護とは、決して孤独なものではないのです。

今や介護は、犬を飼う者ならば、いつかは必ず通る道と言っても良いでしょう。初めて犬を飼い始めた、愛犬家初心者の方々にとっても、それは例外ではありません。

作者からのメッセージ

出典撮影:ラフmom

『ラフと歩く日々』を読まれた方は、作品に書かれた「闘病は決して悲しいことでも、大変なことでもないんだよ」という作者の言葉に、きっと心を動かされるのではないでしょうか?

この作品に寄せられた感想からも、それを伺う事ができます。

★★★ 心が震えました
淡々と綴られた文面を読み進めると、次々とエピソードが脳内で映像となり、まるでそこで見ているかのような気分になる。

★★★ 家族として迎える
以前 私も雑種ですが犬を飼っていたことがあります。
この作品の方や他の犬を心から愛する方々と比べると とても大事にしてあげてたとは言えない飼い方でしたけど…。

★★★ 犬、人の純粋な心が印象に残る作品です
ペットショップの売れ残りのラフ君との出会いが、とても素敵な出会い感じられました。ラフ君は来るべくしてこのお宅にやっていたのだと思います。

★★★ 犬を飼うこと、ともに生きること
盲導犬協会の富士山の裾野にある施設に行きました。そこには、訓練を受ける若い犬たちの他、リタイアした老犬たちもいました。 彼らは余生を静かに過ごしていました。

出典 https://kakuyomu.jp

おすすめレビューより抜粋

『ラフと歩く日々』は、その題名に示されているように、最後まで”ラフ”と歩くことを決めた作者の決意とともに、爽やかに締めくくられます。

みなさんは、この『ラフと歩く日々』に、何を感じられるでしょうか?


最後に、この作品を書かれたラフmomさんに、これから愛犬の介護にのぞまれる方々に、メッセージをいただきました。それをご紹介して、本文の了といたします。

愛犬の介護をなさる方へ

犬と暮らす幸せは、経験したことのある人にしかわからない貴重なものだと思います。私も、主人と結婚しなければ、犬と暮らすことはなかったでしょう。

大切な存在である愛犬が病気になる苦しみは、身を切られるようなものです。しかし、どんな時でも、犬は前だけを向いて歩きます。

飼主に寄り添って、飼い主の信じる道をいくことが犬の幸せなのだと、私は考えます。
どうか愛犬との時間を大切にして下さい。頑張り過ぎずに、力を抜いていきましょう。愛犬と共に病気と闘う飼い主さんを、いつも応援したいと心から思っています。

                               ラフmom

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某大学工学部を卒業後、当時黎明期だったビデオゲーム業界に。エンジニアを希望するが、配属先は企画。結局在籍中はデザイナーとして過ごす。退職後はデザインツールの開発、CGの技術開発、TVアニメの企画など。目下の興味の中心は”犬との生活”。14歳のミニチュア・ブルテリア、ピーチーが相棒。

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