記事提供:サイゾーウーマン

太田啓子弁護士。

芸能人の強姦事件から職場のセクハラまで、女性の性的な被害が話題にならない日はない。なぜ被害はなくならないのか?セクシャルハラスメントの問題に詳しい太田啓子弁護士に話を聞く。

今回は、今年6月に不起訴になった、茨城県八千代町の大久保司(まもる)町長の「セクシャルハラスメント疑惑」を解説してもらった。

■人前で他人の胸をもんでも不起訴!

――現在でも毎日のように女性の性的な被害が報じられています。なぜセクハラの被害はなくならないのでしょう?

太田啓子弁護士(以下、太田) 理由はいくつもあると思いますし、男性が被害者の場合もありますが、やはり大きく言うと、「男女差別構造」と「男女の認識の差」の存在です。

最近特に覚えているひどい例として、茨城県八千代町の大久保司町長の「セクシャルハラスメント疑惑」がありました。

町長が加害者として告訴・告発されたのは2件です。

2014年夏に、八千代町内の温泉施設で行われた歌謡ショーで、客席にいた50代の女性の胸をつかんだというのが1件目で、15年4月に歌謡ショーのステージ上で、出演者の60代の女性歌手の胸元に手を入れたというのが2件目の疑惑です。

警察は、1件目は「強制わいせつ罪」、2件目は「県迷惑防止条例違反の疑い」として書類送検したのですが、検察は嫌疑不十分として不起訴にしました。

特に驚いたのは2件目なのです。2件目はステージ上で大勢の観客の前で行われたもので、目撃者は多数いますし、その場面の写真もあるんですね。

町長が女性歌手の着物の胸元を手で開いているような画像が、被害者とされる女性の提供としてテレビに流れ、インターネットで今でも見られます。その女性によると、着物の胸元に紙幣をねじ込むようなことをされたそうなのです。

――なぜ不起訴になったのですか?

太田 まず1件目ですが、現行の刑法の強制わいせつ罪(第176条)は、「13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」としています。

16年6月8日付茨城新聞によると、1件目のケースに関して水戸地検の竹中理比古(よしひこ)次席検事は、「事実を認定するに足る証拠が得られなかった」と述べたそうです。

これだけでは、どの事実の存在を認定できなかったのか、はっきりはわかりませんね。

13歳以上の男女に対する「強制わいせつ罪」が成立するためには、(1)「暴行又は脅迫」の存在(2)「わいせつな行為」の2つの条件を充足する必要がありまして、(2)はあっても(1)がないと、犯罪は成立しないのです。

ですから、実務では、被害者から見たら性的被害自体はあったとしても、「それでは強制わいせつ罪でいうところの『暴行又は脅迫』があったとはいえないんじゃないか」ということで(1)を満たさず嫌疑不十分、ということもあり得ます。

本件もそうであった可能性があるかもしれませんが、情報が乏しく、これ以上はわからないですね。

つまり、「暴行又は脅迫」を手段にしないで、違う手段を利用して「わいせつな行為」をしたとしても、それは現行法では「強制わいせつ罪」には問われないのです。

フランスの刑法には「性的攻撃罪」というのがあるそうなのですが、その定義は「暴力、強制、脅迫又は不意打ちをもって行うすべての性的侵害」だそうです。

これを見て、ああ、そうそう、「不意打ち」を利用する性的加害っていうのもあるよね、こうでなくては、と思いました。

被害者の意思に反して体に性的に接触するなんて、それ自体が被害者の性的尊厳を傷つけるものですよね。

「暴行又は脅迫」を手段にしなくても、そういう性的接触は可能なわけです。たとえば「不意打ち」でやるとか、人間関係上優位にあることを利用するとか。

そういう実態を踏まえていない今の刑法では、「暴行又は脅迫」を手段にしない性的加害は「強制わいせつ罪」に該当しないことになってしまっている。つまりは「暴行又は脅迫」を手段にするもののみに限定している法律に不備があるのです。

刑法の性犯罪関連規定の改正案が、来年通常国会に提出される予定で、十分ではなさそうですけれども、でも、少しはよくなることを期待しています。

■おばさんの胸を触っても、わいせつではない?

――2件目については、どうして不起訴になったのでしょうか?

太田 茨城県の「公衆に著しく迷惑をかける行為の防止に関する条例」2条には、公共の場所で、「人を著しく羞恥させ、又は人に著しく嫌悪の情を催させるような方法で」「衣服等の上から、又は直接他人の身体に接触」してはならない、という規定がありまして、電車内の痴漢もこれに該当する立件が多いですけど、2件目もこの規定に該当するのではないかということで警察は書類送検しました。

ところが検察は不起訴にし、その理由を報道で見て、ひどいと思いました。

前出の茨城新聞によると、竹中次席検事は「外形的事実は認められるが、ステージ上、大勢の観客の面前で行われ、性的色彩は薄く、被害者を著しく羞恥させ、著しく嫌悪の情を催させると評価するのは困難」と述べたそうです。

――「外形的事実は認めた」ということは、町長が女性の胸を触ったという事実があったことは検察も認めたのですよね?

太田 そうです。

――それなのに、どうして嫌疑不十分ということになったのでしょうか?

太田「ステージ上、大勢の観客の面前で行われ、性的色彩は薄く、被害者を著しく羞恥させ、著しく嫌悪の情を催させると評価するのは困難」と検察は説明していますね。

これを聞くと、「ステージ上、大勢の観客の面前で行われた」ことが「性的色彩は薄く被害者を著しく羞恥させ」たとはいえないことの理由になっています。

いや、逆でしょう。大勢の人の前で胸元に手を入れられたなんて、むしろ被害者の羞恥心は強い理由になるはずです。いったいどういう思考回路なんでしょうか?

検察は大勢の人の前で女性の胸を触ったことを認定したのに、そして触られた被害者は刑事処罰を求めたのに、それでもなんの犯罪も成立しないと検察としては考えました――なんて、おかしすぎるでしょう。

――たぶん加害者としては、加害の意識はなく、「ふざけただけ」ということなんですよね。被害者も60代なので、「おばさんの胸だし、いいじゃん」というようなところがあったのかと思います。

太田 そうですね。実際、一般的に「若くはない」女性の性被害も結構あるわけですが、そういう場合、加害者は「もうおばさんなんだから、いいじゃん別に」みたいに思ってるんだなと感じることも結構あるんです。

本件でも、そこのところ、加害者の言い分に、検察がそのまま乗ってしまったんじゃないのかという気がしています。

もし相手の女性が「ミス茨城」「ミス八千代」みたいな、若くきれいな女性だったら、町長は同じことをしていたでしょうか?

少なくとも、全く同じことはしなかったんじゃないかという気がするんです。また、検察も、その行為は「性的色彩は薄い」と判断したでしょうか?

その女性のことを「おばさん」だと思ってたから、加害者はこの行為に及んだし、検察も「まあ、性的色彩は薄いよね」と考えたんじゃないでしょうか?

つまり「人前で、もう若くないおばさんの胸を触ったって、誰もわいせつだなんて思わない」みたいな発想が、加害者にはあったでしょうし、あろうことか、検察もそう考えたから「性的色彩は薄い」なんて言えたんじゃないでしょうか。

言葉ではっきりはもちろん出てきませんでしたけど、「若い女の子の胸しか、俺らの性的欲求の対象にはならないし」というのを、加害者と検察が暗黙に共有してたんじゃないかという気がしました。

■法律のあり方が、性暴力の実態からかけ離れている

――本件で「性的色彩は薄い」というのは、本当によくわかりません

太田 「ステージ上、大勢の観客の面前で行われ」たから「性的色彩は薄い」って、「ショー的だった」ということなのかなと思うんですが、そんな「ショー」に女性は同意なんてしておらず、いきなり触られたわけです。

それなのに「性的色彩は薄い」とは、ちょっと信じがたい発想ですね。

あまりに信じがたいので、被疑者が町長という立場にあったことに「配慮」したのかなと思ってしまいますね。そういうのも、少しあったのかもしれません。あってはならないことですが。

いずれにせよ、本当に被害者本位の法律運用ではないとも感じました。何歳になったって、いきなり人前で胸を触られるなんて、嫌に決まってるじゃないですか。

やはり法律運用者が十分に性暴力の本質を理解しなければ、きちんと性暴力を裁くことはできないと、つくづく思いました。

――そもそも、2件目は「強制わいせつ罪」ではなく「迷惑防止条例違反」の容疑だったというのも、考えてみたら、よくわからないのですが。

太田 強制わいせつ罪の成立要件である「暴行又は脅迫」が認められないから、ということではないかと思います。

2件目は、突然胸元に手を入れるという、まさに「不意打ち」で性的接触をしたということではないかと思うのですが、そういうのを「暴行又は脅迫」がないから「強制わいせつ罪」にはそもそも該当しない、という法律のあり方が、性暴力の実態からかけ離れていると考えています。

(第2回につづく)

太田啓子(おおた・けいこ)

国際基督教大学卒業、2002年に弁護士登録。「神奈川県弁護士会」「明日の自由を守る若手弁護士の会」所属。主に家族関係、雇用関係、セクハラ、性犯罪問題などを取り扱う。

「怒れる女子会」や「憲法カフェ」などの活動を通じて、セクハラや憲法改正についての問題提起も続ける。

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