「詩人の眼は鋭い」「詩人の眼は未来を見ている。最先端にいる」と、よく言われます。

詩人の眼は内部を見つめます。そう、詩人のレンズは表面上のものではなく、その奥に隠されている真実を見逃さずとらえます。

詩人の眼は、いったいどんな世界を見つめているのでしょうか?

詩人が見つめているものを、詩人というフィルターを通してその詩の世界を見ていきたいと思います。きっと、ハッとする表現に出会うことでしょう。

出典湖衣所蔵品


  ベロニカ

           大籠康敬


私は彼女に呼びかける
ベロニカ!
しなやかな美しさをどうひきだすか
写真を撮りながら
思わず貴方の笑顔は素晴らしいと私は言った
すると彼女は私に言ったのだ

アリガトウ!
デモ私 透明人間ナノ アメリカデハ
ワカル?
私ノ心トテモ暗イ
私の笑顔 ホントニ美シイデスカ
ドウカ悲シミ撮ッテクダサイ

たどたどしい彼女の言葉が
今でも
錨のように私の舟を悲しみの海に泊まらせる
あれから二〇年
微笑に隠された人間の悲しみを
いまだに私は撮れない

出典大籠康敬作品集『川の畔で』(待望社・2005年11月29日発行)

大籠さんは、日本大学芸術学部で写真を学んだプロのカメラマンでもありました。作品集には、その「ベロニカ」という少女の写真が掲載されています。

「デモ私 透明人間ナノ アメリカデハ」

詩の中に記されているベロニカの言葉です。そこから、ベロニカという少女のことが想像できるかと思いますが、彼女は黒人です。

しかし、人間誰しも人生において仮面をつけるか、透明人間になるしかない時があります。社会の中で生きるという<悲しみ>、そこに人間の本質があるのかもしれません。

写真が写すのはその人の人生のほんの一瞬、点です。しかも、表面だけです。映像とは違い、その被写体の前後関係など全くわかりません。

写真には写しきれないもの、それが人の心、悲しみなのかもしれません。大籠さんの眼はその悲しみを見つめ、詩の世界に反映されています。

出典湖衣所蔵品


 花がうつくしいのは

            くにさだきみ


花が

うつくしいのは
からだじゅうの
愛を
お日さまにむけ
ひらいているから

おしべよ
めしべよ
だれにむけて
なににむけて
こんなにも
美しく
愛をひらくことが
できるだろう

ひとは

出典詩集『くにさだきみ詩選集一三〇篇』(コールサック社・2010年2月24日発行)

「花がうつくしいのは」という詩は、第五詩集『貘の餌箱』(1983年)からの作品です。くにさださんの詩の多くは、時代の盲点や落とし穴など鋭い視点で書かれています。抵抗とアイロニー、そして時には拒絶……。

そういう批判精神多い作品群中で、「花がうつくしいのは」という詩は人の世の醜さと相反する自然の美しさが、難しい言葉を使わず素直に感動したものをそのまま描かれているように思われます。

太古の人たちは、花のように美しく生きていたのでしょうか?

ふとそんなことを思ってしまいました。おそらく花の愛は無償の愛、それと同時にあるめしべへの愛であり、あるおしべへの無限の愛。

花は自分のために精一杯開き生きているということ、すべては生命という輝きなのだと思います。精一杯生きることを、くにさださんは花に仮託しながら詩に表現されています。

出典湖衣所蔵品


 海域

         柳原省三

  

めずらしく
波を忘れた海は
黒潮の紺青もうららかに霞み
あの目の奥を射る
光のぞめきも今はない

沖縄には
台風十六号がいて
暴風が吹き荒れているはずなのに
ほんの少し離れてしまうと
まるでもうこんな具合なのだ

嵐の前の静けさという言葉は
ここから生まれたのに違いないが
ぼくらの船は遠ざかる
嵐の傍の静けさというべきか

だかはるかにはるかに遠く
朝も夜も
陽炎の立ちのぼるあの海域には
今もなお深い静かな嵐が
ぼくらを待ち受けているのだろう

出典詩集『海賊海域』(土曜美術社出版販売・2004年6月15日発行)

柳原さんは、遠洋航路のエンジニア・クルーでした。船乗りの詩は、実体験を詩的に変換する独特の視点で書かれています。

こういう詩は、やはり柳原さんにしか書けない世界が広がっていると思います。平静に語り口調で、心が表現されています。

「もう何日も同じような景色を眺めています。あまりにも単調過ぎて・・・・・・。」というような、手紙の言葉がふと思い出されます。何ヶ月にも及ぶ海上生活、常に危険と隣り合わせだったと思われます。

そういう苦難を乗り越えてきた精神が、暗くない空間的世界を作り上げ詩に表現されているように思います。   


 緑なるあなた


           横尾湖衣



花が大地に 咲きあふれる

草原に吹く 夏色の風
違う時違う場所で 生まれた二人
どうして出会ったの あなたとわたし
なぜ なぜ 空は青いの 
ねぇ あなた
なぜ なぜ 海は深いの 
ねぇ あなた

白い木の花 雪のように
緑の大地 夏草茂る
違う文字違う言葉 使う二人
どうして気持ちが 通じ合ったの
なぜ なぜ 空の向こうに 
ねぇ あなた
なに なに があるというの 
ねぇ あなた

人は生まれて 巡り会うの
出会わなくては 愛し合えない
そう出会った 人としか
愛し合えないの それは確か

もし もし 愛がないなら
ねぇ あなた
どう どう なるのでしょうか
ねぇ あなた

……緑なる あなた

出典未発表作品(2012年作)

この世は不思議でいっぱいです。わたしの頭の中は、はてな?でいっぱいです。

花が咲くこと、風が吹くこと、出会うこと、海や空が青色でなければいけないことなど・・・・・・。

この詩は、恋愛をテーマにした詩群の一篇です。

それぞれご紹介させていただいた詩人と作品、詩人の眼から見た世界はいかがでしょたでしょうか?鋭い視点から、思想や立場から、独自の世界観が作品に広がっています。

尚、引用掲載した詩集及び詩作品は、以前ブログでご紹介させていただいたものの中から選出しました。少しでも多くの方に、ステキな詩を知っていただけたらと思います。

詩友として感謝とお礼を込めながら、執筆させていただきました。最後までご覧くださり、どうもありがとうございます。

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短歌などを入れた記事を書いています♪日本短歌協会会員。専門分野は和歌文学。研究書『式子内親王研究』(万葉書房)。詩誌「玉鬘」、短歌誌「ひとひらの雲」発行。ブログ→http://ameblo.jp/koi-haru/

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