2016年9月10日~9月16日は、自殺予防週間です。

涙活って。

都内某所に20代から60代の老若男女、社会人、主婦、学生など20人が集まった。参加者全員が、何かしら死にたいという願望を持っている。

ここで行われる涙活(るいかつ)とは、能動的に涙を流すことによって日ごろのストレスを発散させようという活動だ。

まず最初に参加者には長くても5分程度の短い感動的な動画を数本鑑賞して泣いてもらう。 涙を流すことによって、人間の自律神経が、緊張や興奮を促す交感神経から、脳がリラックスした状態である副交感神経が優位な状態に切り替わるのだという。 

動画上映後、吉田さんの泣きの効用についての講義があり、そのあとで泣き言セラピーというワークショップへと移る。

涙の効用についてレクチャー

ここでは参加者は各々"泣き言"と呼ばれる思い悩んでいることを涙レターという涙の形をした用紙に匿名で記入して涙千箱(るいせんばこ)という小さな箱に入れていく。

「泣き言セラピーは、モヤモヤとした感情(ストレス)を言葉にすることで、そのモヤモヤが整理されます。また、書き出すことで、‟あー、私は、今、こんなことで、疲れてるんだなあ、悩んでいるんだなあ、しんどいんだなあ”等々、自己を対象化することができます」と吉田さんは語る。

自分の見方・感じ方は、普通の状態では振り返る機会がない。それを、いわば自分から切り離し、見つめなおすことで対象化するのだという。
そうすることで、意識しなかった自分の見方・考え方の癖に気づいたり、自分を縛っている考え方の枠組みに気づくことになり、今までと違う見方・考え方をするきっかけにもなるというのだ。 

参加者から集められた泣き言は、吉田さんが涙千箱から取り出し、読み上げながらひとつひとつ丁寧にアドバイスを送る。

毎年9月10日から一週間は、自殺予防週間だ。国や地方公共団体が連携して、自殺について誤解や偏見をなくし、正しい知識を普及啓発する取り組みがなされている。 

その初日である9月10日は、世界自殺予防デーでもある。世界自殺予防デーは自殺に対する注意・関心を喚起し自殺防止のための行動を促進することを目的にしている。

そのような日に、涙活という手法で、自殺防止に取り組む人がいる。 感涙療法士の吉田英史さんだ。

参加者の”泣き言”を読み上げ、具体的にアドバイスを。

「匿名で記入された泣き言をみなさんの前で声に出して読むことで、参加者の方が、‟あー、私以外にも、同じ悩みを持っている人がいるんだぁ” ‟みんな必死な思いをして生きているんだなあ” ‟自分はひとりじゃないんだ” と、感じてもらうことができます。それにも大きな癒し効果があります」(同上)

次々と泣き言が読まれていくたびにみんなが悩みを共有していく。職場で人間関係がうまくいかない、親の介護で苦しい、生きる希望がない等々、読まれるたびに、参加者は熱心に聞ききいりながら大きく頷くのだ。

”泣き言”と涙千箱

その次に涙友タイムという時間が設けられる。ここでは参加者間の交流が行なわれる。

「‟類は友を呼ぶ”という諺の、類(るい)を涙(るい)と、もじって、‟涙は友を呼ぶ”。同じ場所で、泣きの体験を共有した人同士で、交流してもらいます」(同上)

参加者それぞれ映像を見て、どういうところで泣けたのか、なぜ泣いたのか、あるいは泣けなかったのかなど、意見交換をする。上映された映像は、家族愛や人間の生死などに留まらない。
人間の持つ強さや優しさ、温かさとは何かを問うものもある。どの映像も考えさせられるものばかりだ。その映像が、何か今の自分のあり方を考えさせる契機になりえたり、意外な気づきを得ることにつながるはずだ。

涙友と話すと、「あー、この人は、こういうところで泣いたんだあ」「なるほどー、そこで泣いたのはそんな理由があったんだあ」「えっ、この人はそんなところで泣いたの!なんで?」と思うこともあるでしょう。
涙友と話すことで自分を相対化する、つまり、固定観念を捨て、色々な物事を、あくまで選択肢の一つとして考えられるようになることにつながるかもしれません。涙友タイムには人を多様に触発させるパワーがあると考えています」(同上)

最初は、発言することを躊躇してしまい物静かだった参加者が次第に打ち解け合い饒舌に語り合うのようになるのには驚かされた。

「泣き言セラピーも涙友タイムも、泣いたあとにやるのですが、これにも深い意味があります。人は涙を流すことで、素直になり、思いを吐露しやすくなるんです」(同上)

静岡県から参加された会社員の熊野忠司さん(35)は言う。
「他人の悩みを聞くことで自分自身の悩みにもしっかりと向き合うことになりました。他人の悩みに耳を傾けて、一緒に解決法を考えてあげることが、自然に自分自身の抱えている悩みに対する解決にも役立っているのだと痛感しました」

最後に吉田さんこう締めくくる。

「私は、この涙活イベント、つまり、泣く場所を、社会のここかしこに、つくっていくことが、このせわしない現代社会、それは、人と人との関係性が分断されている社会といってもいいかもしれませんが、そこで、求められていることではないのかと考えるようになりました。

この活動をやっていて、現代人は、泣く場所(弱音を吐く場所)を探しているとさえ、思うようになりましたね。 「泣いたっていいんだよ。」ときに、「弱音(泣き言)を吐いたっていいんだよ」と言ってあげられる社会になれば良いと考えています」

泣いたっていいんだよ。ときに、弱音を吐いたっていいんだよ。

日本は先進国のなかでも高い自殺率をキープし続けてしまっている。その背景には人間関係が希薄になり悩みを相談することも難しくなっている現実がある。
競争社会のなかで誰しもが虚勢を張って生きていかなくてはならず、頑張れと言ってくれる人はいても弱いままで良いんだよと言ってくれる人は誰もいない。

涙活では泣くという自分の1番弱い姿を見せ合うことによって心の壁を乗り越え、お互いの悩みに寄り添う。こんな地道な活動が誰かの命を救うこともあるのではないか。見知らぬ他人同士だからこそ、一緒に涙を流しながら語り合おうではないか。

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出版社に勤務後、二児の父として子育て中。趣味はバイク。日本全国を、絶賛ツーリング中。

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