私が言うのもなんだけど

蓮舫民進党代表の二重国籍問題で私が一番驚くのは、「台湾の国籍」などという極めて政治的な立場の扱いの軽さだ。

蓮舫さんが今まで国会議員をしながら、日本と台湾の二つの国籍を平気で持っていられたのは、「日中有事」とか、「中台有事」を本気で想定しなかったからなんじゃないだろうか。日本と中国、あるいは中国と台湾が一瞬即発の緊張状態に入ったとき、彼女自身がどういう政治的立場をとろうと、人々は彼女の中華系の出自を思い出すに違いないのに。別に国会議員じゃなくても、「二つの祖国」に引き裂かれるのは有事の時だということくらい想像する。ごくごく当たり前の、個人の生存戦略のためのリスク管理のレベルの話だ。日本の政治家である以上は、そういう事態にならないように考えて欲しいわけだけど、「有事を本気で想定しない」、つまりはシュミレーションしないまま、政策論議とか政策決定とかされていたら不安に思う。どこまで信念をもって魂とか情熱を傾けたところで、外交関係からゲーム性を排することはできないだろうから、あらゆる展開をシュミレーションしておくのは普通の事じゃないだろうか。別に「仮想敵国として対策を用意している」などと相手に知らせる必要はないわけだし、万が一の時の対応要領を用意すること自体が、国家間の背信行為とは言えないだろう、だって相手は外国なんだから。

私は中国人と結婚して娘を産んだけど、中国は二重国籍を認めていないから、日本人の私が日本で出産し出生届を出した瞬間に、娘は日本人となり中国国籍を得るチャンスを永遠に失った。詳しく書かないけど抜け道はあって、実際中国と日本の二つの国籍を持っている子ども達はいる。ポイントは中国国内での出産だ。もちろん二つの国籍を持つ方法は私も知っていたけど、始めから検討事項にもならなかった。だって違法だし。単純に個人の生存戦略として、娘は日本国民として育てる方が断然有利だと判断した。古い話ではあるけれど、日本政府は人の命は地球より重いとか口走ったことさえあるのだ。私たちの子どもは邦人保護の対象となる日本人として生きる。これは夫にも夫の家族にも簡単に合意されたことだし、中国に住むにしても「中国人の父を持つ日本人」で十分だ。少なくとも平時においては、中国人は父系の血を大切に考えてくれる。

日中両方の国籍を持つことを選択する人たちの考えるメリットは、渡航や在留手続きの簡便さとか、事業をする上での税金の扱いのようだけど、そんなことより政治的な立場の危うさの方が私たちには重大だ。日中どちらで活動するにしても、立場が明確でないことの政治的な不安定さは免れない。そんなリスクを背負うとか小心な私たちには全くありえない。ちなみに、夫の友人の多くが外国籍(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなんかの)を持っていて、それは自由な表現活動を担保するのと身の安全のためだと思うけど、夫も日本人と結婚したからには当然日本国籍を取ると思われていた節がある。だけど、中国社会を批判し芸術活動を通して現地で思想的に影響したいと望む夫が、中国人以外の何者かになったら表現に説得力がなくなってしまう。そうは言っても命の危険を感じるような場合には、ドラスティックに身の安全を選択して欲しいわけだけど、いくら夫婦でも一個の人格を持つ相手にそんな失礼な事は言えない。少なくともその時が来るまではそんなことを話題にはできない。

まあ、こういうのが私たちが国籍について考える場合の普通の感覚かな。

私ごときが台湾を語るのは間違っているとはいえ

国としてさえ認められていない台湾の国籍を持っていられるというのは、よほどの主義主張があるか、国籍というものに対して恐ろしく無神経かのどちらかだとしか考えられない。二重国籍がどうこうという前に、台湾の国籍をそう軽く扱える政治センスに震撼する。

台湾人という立場は好むと好まざるとにかかわらず、政治的に複雑なアイデンティティーから逃れられない運命を背負う。台湾政府とは中華民国政府であり、中華民国とは1912年に孫文が清朝を倒して中国大陸で樹立した中国大陸初の近代国家である。第二次世界大戦においては連合国の一員として戦ったし、1971年までは国連の常任理事国だった由緒正しい国なのである。それが今では、国際的には中華人民共和国の一部である「地域」として扱われており、日本も国家としては承認していない。オリンピックに参加するにもチャイニーズ台北とか訳の分からない名称の使用を余儀なくされ、香港と同じように国旗の代わりにシンボルマークを掲げざるを得ないのである。台湾国籍であるということは、国連加盟国でさえない中華民国の国民であるということだ。度重なる中国からの経済的、外交的、軍事的圧力を受けながら、なおも独立を保とうとしている強烈な人々の生きる場所、それが台湾だ。蓮舫さんが能天気に21世紀の地球市民感覚で、台湾国籍と日本国籍の両方を大した自覚もなく保持していたとしたら、人ととしての政治的センスをかなり疑う。

しかも「台湾」というのは島の名前であって、中華民国政府与党の国民党が中国共産党との内戦に敗れて落ち延びてくる前から、そこには多くの人々が暮らしていたのである。中華民族の国際社会との関わりにおいては由緒正しき中華民国も、日本の領土であった台湾にもとからいた大多数の内省人(台湾人)からしてみれば、少数派の外省人(中国人)が統治のために持ち込んだものに過ぎない。中国では中国語を「漢語」というけれど、台湾で中は「国語」というし、中国語の方言の一種である台湾の言葉は中国においては「ビン南語」であるが、台湾の人々は「台語」という。中には台湾なまりの中国語をこれぞ我らが言葉という感覚で「台語」と呼ぶ人さえいる。何にしても台湾人には強大な中国との緊張関係から生まれる強烈なアイデンティティーがある。台湾国籍を持ちながら、中国本土との一体化を目指す統一派か、台湾を一個の国家として中国とは別の道を歩きたい独立派か、そんな立場も明確にしないまま隣国で政治に関わるとかありえないと思う。(まあ、逆に台湾の職業政治家なら公の席では明確にできない場面もあるだろうけどさ)。

二重国籍なんて国際的に見れば珍しくもないけど、台湾国籍は気楽に持っていられるようなものじゃないだろう

蓮舫さんは自分には日本人としての自覚しかないと言う。そうだろう、国籍などというものを超えたグローバルな感性の方が、今の日本では格好いいしリベラルな感じさえする。国籍に政治的立場がもれなくついてくるなどと考えないのは、とても日本人的で平和な感性だ。日本人として日本の国益だけを命がけで考えながら、日本が承認さえしないまま友好関係を大切に維持している、東アジアのホットスポット「台湾」の「国籍」を忘れていられるなんて、平和ボケの現実逃避かとクラクラする。私にはこんな不安定な立場をなんの明確な意図も主義主張もないまま放置できたというのが信じられない、その図太い神経が本当にわからない。逆に、国籍なんかこえた人間的心情から推し量れば、台湾国籍をもつ日本の政治家でありながら、台湾のためにその立場を最大限に利用して働いてこなかったなんて、地球市民としてのセンスを疑う。日本の政治家になったのは台湾を外から守るためであり、自分は日本の国益をだけを考えてきたのではないというならば、逆に理解しやすいくらいだ。

そういう意味で二重国籍をグローバル感覚を示すアクセサリーのように扱った挙句、「私は日本人です」と断言できる蓮舫という政治家は、父の国が抱えのたうつ矛盾などに全く影響されることのない、平和ボケした「日本人の代表」としてふさわしいのだろう。あるいは、台湾国籍をちらつかせながら陰で中国共産党政府と渡りあってきたのなら、日本人らしからぬ剛腕の政治家なのかもしれない。なんにしても、国籍についての感性が私とはあまりにも違う。ただ、私の国籍に対する感性もたいがい標準的な日本人のそれとはズレているのだろうし、それでも日本の政治政党の党首に成れてしまうんだから、やっぱり蓮舫さんこそが日本人的なのかもしれない。

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中高不登校で大検から大学進学。大学卒業後、中国、英国留学を経て外務省、NPOなどで働き、現在は生命保険代理店として活躍中(?)。中国人の夫は活動系アーティストで家に帰ってくるのは年に2~3度。大事な娘をファザコンにしてしまう格好いいだけの男。彼も間違いなく発達障害だと思う。発達障害で学習障害の娘を小学校へ行かせずに家庭で独自の子育てに邁進。アスペな娘はすくすくと育ち、中学校は1学年数人という超小規模校へ進学。自身も発達障害で学習障害、現在はうつ+ADHDの診断がついてますが、仕事に子育てに少しは介護というかなり多忙な日々を送っています。
今では浅はかでバカっぽい私ではありますが、命を懸けて精神的苦痛と闘っていた頃もあるので、同じようなタイプで今を苦しんでる人たちに、自分の言葉を届けたいと思って。

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