内容紹介

解剖を通して死体と向き合っていると、もの言わぬ死体が「先生、私は自殺とされていますが、本当は死ぬしかないところまで追い詰められたのです。どうかこの無念をわかってください」と語りかける言葉が聞こえてくる。(本文より)

著者の上野正彦は監察医としてかつて2万体の検死を行ってきた。
一言も言葉を発しない死体の声を聴き、死に隠された真相を解き明かしていく……
それが監察医の仕事である。
もの言わぬ死体を検死している監察医からすれば、死体でさえあれほど多くのことを語っているのに生きている子どもたちを見ていていじめの実態がわからないはずがない。
自我の確立のない子どもが果たして自殺するであろうか。
「自殺は他殺である」ということを、もっと広く世間に訴えていく必要がある。

大ベストセラー『死体は語る』の上野正彦による、最後の提言ともいえる本作。
弱者が疎外され、孤立していく社会の闇、警察や学校、教師の怠慢、自己中心的な考えになっていく若者たちの姿に憂いを感じている著者が、年間3万人の自殺者を出す“自殺大国”となった日本の現状に警鐘を鳴らす――。

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2014年12月に発行されて以来ずっと気になっており、ようやく手に取った本書は現代の日本社会の闇を浮き彫りにしていて、暗澹たる思いで読み終えました。

老人の自殺

最も衝撃的だったのは、自殺者の4割を占める60歳以上の高齢者の、真の動機です。
表向きは病苦がトップになっていますが、調査の結果、独り暮らしの老人より家族と同居している老人のほうが自殺率が高く、動機は家族から厄介者として疎外されている「孤独」であったそうです。
皆遺書に恨みつらみを書くことはせず、立派に「長いこと世話になりました」との一言だけを残されるのだそうですが、人生の荒波を乗り越えて60年、70年と生きてこられた人たちがこんな悲しい事情でわびしく命を絶ってしまうだなんて、胸が痛みました。

いじめ自殺

いじめ自殺の被害者はいじめっ子によって殺されたに等しい、と著者は主張します。加害者の人権やプライバシーと比較して、あまりにも自殺者の人権が軽んじられている、と。
学校もダメ、教育委員会もダメ、警察もダメでは、自殺した子は浮かばれない。いじめはやった者勝ちで、自殺した者は死に損…。残念ながら、現在の日本ではそうした不正義がまかり通ってしまっている。(本文より)

ある分析によると、いじめられっ子の特徴は昔から変わらず、身体が小さい、おとなしく自己主張が苦手、作業や運動能力で他の子より劣る、(女の子の場合はこれに可愛い、成績優秀が加わる)などの傾向が多く見られるようです。
興味深いのは、これに対していじめっ子の特徴がいかにも現代的で、甘やかされていて自尊心が強い、家庭内に問題や不満がある、夢や目標がない、などの傾向が多い事です。

いじめは飛び抜けて偏差値の高い学校や、いわゆるお坊っちゃま、お嬢様学校でさえも存在します。
どんな学校でも起こり得るのですから、著者の主張のように、いかに教員らが真摯にいじめを解決指導したのかが評価される時代になって欲しいと思います。

監察医の不足

監察医を志す医師は稀であるようです。
死体を相手にする上に、収入も臨床医より少ないという決定的な要因があり、監察医制度が整備されているのは現在東京を筆頭とする5大都市だけだそうです。
よって地方では他殺を自殺や病死と判断して見逃されてしまうケースが相当数あるという一文を読み、背筋が寒くなりました。これでは社会の秩序は保たれません。

1568億円超(会計検査院による2015年度の報告)もの税金を無駄遣いするくらいだったら、監察医制度の充実や人材の育成など、治安維持に関わる重要な課題に対して費やしてほしいものです。

30年間にわたって様々な理由で亡くなった人たちの代弁者として死者の人権を守ってこられた上野医師には、心から拍手を送りたいです。

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