世界一長い物語「非現実の王国で」

「非現実の王国で」

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プルーストの「失われた時を求めて」、栗本薫の「グインサーガシリーズ」、トールキンの「指輪物語」など壮大な長さとスケールで描かれた物語は世に多くあります。
日本の大御所作家では京極夏彦の長編推理小説などもボリューミーで読み応え抜群ですよね。
そんな長大小説は数あれど、世界で一番長い物語とは何か知っていますか?しかもその物語はあまりの長さから現在まで一度も全編が出版化されていないという幻の物語となっています。
その物語の名前は
“非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語”
通称を
「非現実の王国で」です。
この世界一長い小説はどのようにうまれたのでしょうか。

生涯を夢の世界に費やした雑役係

ヘンリー・ダーガー

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「非現実の王国で」の作者、ヘンリー・ダーガーは伝えられているところでは19歳の時からこの物語の執筆と挿絵の制作に取り掛かり、その後約60年もの歳月をかけて彼が無くなるまでの生涯のすべてを物語に費やしました。

ヘンリー・ダーガーは1892年にシカゴに生まれ、幼いうちに両親と死別、生別し学校も退学するという困難な人生をスタートさせます。
12歳の時に感情障害の傾向があるとされて当時の知的障害者の施設に入ることになりました。しかしその施設を16歳の時に単身脱走し、生まれ故郷であるシカゴに自力で戻ってきて地元の病院の雑役係として働くようになりました。

そのころから「非現実の王国で」の執筆が始まったと考えられていますが、ダーガー自身の生活は全くもって孤独そのもので、仕事と教会のミサに出かける以外はほとんど誰とも会うことなくただただ一人創作の世界に没頭していたようです。

実に60年間。
ただただ自分の創作にだけ打ち込む人生とはいったいどんなものだったのでしょうか。

「非現実の王国で」は300ページの挿絵と15000ページにも及ぶテキストからなる歴史的超大作ですが、物語の存在自体は彼の死後アパートの管理人によって持ち物が片付けられようとしていた時にようやく発見され、世に知られることとなりました。

知的障害者、精神障害者の描いた絵画や小説などのアート作品をアウトサイダーアートと呼びますが、ダーガーは現在アウトサイダーアートの第一人者として世界中に根強いファンを獲得しています。

孤独のうちに自分の信念を貫く

自分の夢を描き続けるために、他の何もかもを犠牲にし、ただ孤独に過ごす。
こんな人生はなかなかできることではありません。我々は生きていくために仕事をしなくてはなりませんし、その際に様々なコミュニケーションを人と交わさなくてはなりません。

ヘンリー・ダーガーは人とのコミュニケーションが苦手だったが故に孤独の世界へ没頭していったとも言われています。
しかしどんな孤独の世界に生きていても、そこに自分の思い描く夢が確かに存在しそれに没頭していくことですべての苦労や悲しみが解消されていく。それは日常に疲弊している我々の目にはとても魅力的に映ります。

こうした生き方を、自分勝手とか傲慢という言い方をすることができるかもしれません。しかし不必要な欲求や、あるいは単に生活のためというだけで貴重な時間を日々消費し続けている我々には、一方ではうらやましさを感じさせるエピソードです。
そして何より生涯をかけて完成させたかった夢をもっていたこと自体が驚嘆に値することでしょう。

自分の信じた夢を貫くために孤独に生きることを選ぶ。ダーガーは現在に生きる我々とは違う価値観を持った、充実した人生を送った人物なのかも知れません。

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