友人から突然のLINE

「ぜひ紹介したい人がいるんだけど」。ある日、アラサー筆者のスマホに女友達からLINEのメッセージが届きました。なんだろう…! と好奇心をふくらませていると、紹介されたのは某保険会社の営業担当者でした。

そこで勧誘を受けたのが米ドル建ての保険。なんでも、今のうちから毎月一定額を積み立てておけば、60歳になったとき、積み立てたお金が1.3倍になって返ってくるとのこと。

すごくおトクに聞こえるけれど、本当にこれは大丈夫なものなの? 何か落とし穴があるんじゃない? 本当にコレは自分にとって必要なものなの?? ……不安に思ったので、思い切って保険の専門家に聞いてみました。

お話を伺ったのは、「保険マニア」のこの方!

今回、お話を伺ったのはファイナンシャル・プランナー(AFP)であり、出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出した経験のある長尾義弘さん。

自称「保険マニア」でもあり、保険に関する著書も豊富です。DAILY ANDSでもこれまでに、

を執筆いただいています。

DAILY ANDS編集部(以下、DA編集部)「こんにちは、今日はよろしくお願いします」

長尾「よろしくお願いします」

DA編集部「早速なんですけど、こちらの保険の商品を見てもらってもいいでしょうか。私はいま保険の勧誘を受けていまして、老後の資金のためにとこの商品を紹介されたんです」

長尾「P社の養老保険(年金型の保険のこと)ですね。こちらの営業マンは説明が上手ですよね」

DA編集部「はい。私は持っているお金のほとんどが銀行預金なんです。営業の方からは、いま、銀行の金利はものすごく低いので、保険にも一部の資産を預けてみませんか? っていう提案をされました。老後に向けて、今のうちから月々積み立てておいた方がいいですよと。そんな話の中で設計書がでてきたんです」

……ここで、長尾さんに保険の設計書をお見せします。現在28歳の筆者が勧誘されたのは、29歳から31年間、一定額を積み立てておくと、60歳以降、積み立てたお金が130%になって年金としてもらえるというものです。

積立額は3パターンあり、米ドルで月120ドル、480ドルのほか、年間9000ドルというパターンもありました。

積み立てている間に死亡した場合は死亡保障がついています。途中で解約したとしても、45歳以降であれば元本割れはしないという内容です。


DA編集部「さすがに月々480ドル(約5万円)、年間9000ドル(約100万円)は生活が苦しくなるので無理かなとは思っています……。

ただ、結構びっくりしたのは、60歳になったときに戻ってくるお金が126%〜133%とすごく高いんですよね。これは確かに友人が勧めるのも無理ないな、と思いました。でも、今までいろんなお話をお聞きしてきたので、何かあるんじゃないかなって」

長尾「そうですね。実は、この商品、悪くはないんです」

DA編集部「えっ!」

長尾「というのも実は、僕も入っているんです」

DA編集部「えーっ!?本当ですか?」

長尾「はい。P社の場合、社員も加入しているケースが結構多いんですよ」

DA編集部「なんと……!(さすがは保険マニア、裏事情もよく知っていますね!)じゃあ、やっぱり加入した方がいいんでしょうか」

長尾「でも、突っ込みどころはあります」

保険の「突っ込みどころ」って?

DA編集部「突っ込みどころってどこですか?」

長尾「まず、『返戻率』ではなく『年利』で見る、ということが一つポイントになります」

DA編集部「なぜですか?」

長尾「ほかの金融商品と比較するためです。たとえば銀行の定期預金の利率は0.01%といわれていますが、この数字は1年間でどれくらいの利益があるかを示したものです。一方、返戻率の方の120%や130%は、積み立てを開始してから30年後どうなっているかを見るものなので比較しづらいんです」

DA編集部「なるほど。それで言うと、営業の方は年利も教えてくれましたよ。今回は確か2.75%でした」

長尾「ここで、もう一つこの保険を見るポイントがあります。それは、米ドルではなく日本円で計算し直すということです」

DA編集部「どういうことですか?」

長尾「ドル建ての保険料を払うには、円を米ドルに替える必要がありますよね。ここで、手数料がかかるんです。正確に言うと、保険金を払うときと、年金を受取るときの2回、通貨を変えないといけませんので、往復で為替の手数料がかかるんです。それを加味すると、実際の利率はもう少し低くなります。どれくらいなのか。ちょっと計算してきてみました」

長尾さんはここで、keisanという、計算サイトの用紙を見せてくださいました。

長尾「1ドルあたり50銭の手数料がかかると考えると、お金を積み立てている間の年間の利回りは1.41%になるんです」

DA編集部「あれ? 意外と普通、というか低いですね…」

長尾「外貨建ての保険を正しく見るためには、いったん円で計算し直すことが大切なんです」

DA編集部「これ、もし自分で計算できなかったらどうしたらいいんでしょうか?」

長尾「優秀な営業マンなら計算できます。なので、『円に直した時、月々の積立額はいくらで、円換算で年利はどれくらいですか』と質問したら良いと思います。もし営業マンが計算できないのであれば、保険に詳しいファイナンシャル・プランナーに相談するのが良いかと思います」

この商品の一番のキモは為替リスク

DA編集部「円で計算しなおした場合、返戻率はどれくらいになりますか?」

長尾「この商品は120%くらいにはなります」

DA編集部「おお、やっぱりすごい」

長尾「ここでもう一つ気を付けたいのは為替リスクです。つまり、年金を受け取るときに円高になると損をするということです」

2016年8月18日時点で、1ドルあたり約100円です。もしこれが30年後、1ドルあたり70円になっていたとすると、受け取る金額が結果として少なくなってしまう、ということだそうです。

DA編集部「なるほど…。積み立てた金額が120%になっても、ドル円の相場が円高に変わっちゃうと帳消しになっちゃうってことですね。そういえば、ついこの間まで1ドル120円だったのが今は100円になっているわけですから、結構微妙ですね」

長尾「為替は20%や30%ぐらいすぐ変わっちゃうんですよ。

つまり、この保険はリスクのある『金融商品』と思った方がいいんです。金融商品に死亡保障がくっついている、と考えてください。その上で、為替リスクをどうとらえるか、という問題だと思いますよ」

DA編集部「保険っていうのは万が一のことがあったときにお金で自分の身を守るもの、だと思っていました。なので、こういう貯蓄ができる商品があると、良いのか悪いのかわからなかったんですが、これは比較対象は投資商品なのですね」

長尾「そうです、これは『金融商品』だと思ってください。それに死亡保障がついている、ということです。

返戻率じゃなくて、やっぱり、年間の利回りで一回計算してみることが大切。これ学資保険にもいえますね。学資保険も同じことなんですよ。パンフレットには返戻率ばかり強調されていますが、まず利回りを計算してみることです」

保険会社はどうやってもうけているの?

DA編集部「ところで、保険会社側はどうやってもうけているんですかね?

たとえば、この商品は死亡保障はついているし、最終的に120%もお金が返ってきます。私はトクをすることになりますが、保険会社は損をするんじゃないかと思うんですけど……」

長尾「これくらいの利率であれば、米国の30年国債で十分まかなっていると思いますよ。」

DA編集部「保険会社っててっきり、保険金でもうけているのかと思ったら、意外とそうではないのですね」

長尾「はい。保険会社は顧客から預かった資産を運用して儲けています。今回の商品は利率が良いので問題ないのですが、他社の保険では、金融機関側の”サヤ抜き”がすごく大きいものもありますので注意してくださいね。

ちなみに、保険を1本売ると、営業マンに保険金の20%くらいの報酬が入るんですよね。つまり、それくらい保険会社は運用でもうけているということです」

為替リスクはどう考えたら良い?

DA編集部「今回の保険では、為替リスクをどう考えるか、がものすごく重要ということが分かりました。

ちなみにYahoo!知恵袋で『これから為替は円高になりますか』という質問がありまして、ベストアンサーに選ばれていた回答は、日本は少子高齢化社会なので、デフレになりやすく、デフレになったら円高になる、と言っていました。実際どうなんでしょう」

長尾「それがわかれば、もう誰も苦労しませんよ(笑)。日本の少子高齢化だけが為替に影響するわけではなくて、もっとたくさん為替を動かす要因はあります。米国の状況にもよりますし、これだけは分かりません。プロでも無理ですし、僕もわかりません。予想するのはまず無理と思った方がいいでしょう」

DA編集部「確かに、そうですよね。……ということを考えると、なぜ長尾さんはこの保険に加入したんですか?」

長尾「まずは営業マンがよかったというのはあります。あとですね、たぶん見たらビックリしますよ……」

20年前の「お宝保険」

DA編集部「長尾さんの保険はどうなっているんですか?」

長尾「私のはもうこれ、円建てで予定利率が3.75%あるので返戻率は145%です。年金の受け取り方によっては200%を超えますね」

DA編集部「えっ、2倍ですか!? 私の保険よりも高い! なぜ???」

長尾「これはいわゆるお宝保険ってやつですね。加入したのが1995年、金利のよかった時代だからなんです」

DA編集部「確かに、利率も高いし、為替リスクもありませんよね。悔しいなぁ。なんだか、それを見た後だと、自分の保険はすごく損をした気分になります…」

長尾「ですよね。これくらいの利率があって、なおかつ為替リスクがないなら迷いなく加入できるとは思いますが、今の利率だとちょっと……という気はしますね」

年金の受け取り方はどう考えたら良い?

DA編集部「ちなみに年金の受け取り方が、いろいろあって、これもよくわからないんです」

長尾「『一括受け取り』は、60歳のときにドンと一括で受け取るという方法。『確定年金』というのは、年金を受け取る期間をたとえば5年間だけと決めて、分割して受け取るタイプのことです。

『保証期間付終身年金』というのは、生きている限りずーっと年金を受け取るということなんですが、もしかしたら、65歳とかで死んじゃうこともありますよね。でも、10年保証期間付きの場合、65歳で死んでも10年間は年金を受け取れますよ、というものです」

DA編集部「『一括受け取り』よりも『確定年金』の方が、『確定年金』よりも『保証期間付き終身年金』の方が返戻率がいいのはなぜですか?」

長尾「保険会社にしてみると、お金を運用できる期間が長くなるからです。また『保証期間付き終身年金』の場合、長生きすると得ですが、早死すると受け取る金額は少なくなります」

ストックとフロー、どっちを重視しますか?

長尾「僕の場合、保障期間なしの終身年金にします。あえて確定年金にするんじゃなくて、僕は早死すると自分が損をすることにします。長生きに対して、得するようにしているというか」

DA編集部「それはなぜですか?」

長尾「これは人それぞれだと思いますけど、ストックとフローでいうとフローを重視しているからです。

こんな話、知っていますか。1億円ある人でも、老後を不安に思う人っているんですよ。なんでかっていうと、お金がどんどん減っちゃうから不安になっちゃう。

ところが、フローのキャッシュをつくると安心するんですよ。つまり、貯金がなくても、毎月入ってくるお金がある方が安心する、ということです」

DA編集部「なるほど。それはなんとなく分かる気がします」

長尾「もし、老後は10年間遊びまくって、その後は細く生きたいというのであれば、確定年金でボンとお金をもらったほうがいいです。

でも僕は、フローを重視する方なんで、死んだらしょうがないやと思っています。死んだら損をするけれど、それは運用の読みが悪かったということです」

DA編集部「もし終身年金にした場合、受け取る年金の額が、それまでに積み立てた金額を下回るということもあり得ますよね?」

長尾「早死したら下回りますね。でも僕はあえて、ずーっと一生涯生きている限りもらえる金額の方を手厚くしているんです」

老後の資金、3000万円必要って言われたけれど…

DA編集部「うーん、いろいろ考えると本当にこの保険は自分に必要かどうか悩んできました。

実は今回、保険の勧誘を受けるときに老後にいくら必要か計算してもらったんです。毎月の生活費を考えたときに、私の場合、ざっと3000万円くらいは65歳までに貯めておかないといけない計算になりました」

長尾「もし老後のお金、つまり老後資金を得ようと思うんだったら、確定拠出年金でいいと思いますよ」

知らない方のためにご説明しますと、確定拠出年金(かくていきょしゅつねんきん)とは、老後のために月々一定額を積み立てておくと、所得税や住民税の金額が減らすことができ、結果としておトクになる仕組みのことです。

確定拠出年金は、節税効果が高いことなどから、ファイナンシャル・プランナーの多くの方が「老後の自分年金づくり」としておススメしています。企業で実施している場合もありますし、企業が実施していないときは個人で金融機関に申し込むこともできます。

長尾「確定拠出年金をおススメする理由は節税効果がとても高いことです。また、確定拠出年金の中で米ドル建ての商品に投資をすることもできるので、同じもので運用するなら、節税メリットが得られる方がいいのではないかと考えています」

確定拠出年金を増額することもできます

DA編集部「実は、確定拠出年金はすでにやっているんです」

長尾「もうすでに確定拠出年金をされているのであれば、『企業型』の場合はマッチング拠出という増額制度を使えば良いですし、『個人型』の場合も増額することをおススメします。

あとは、確定拠出年金とこの保険の違いは死亡保障が付いているかどうか、というところですね。確定拠出年金だったら死亡保障はなくて、もし途中で亡くなった場合は積み立てたお金が戻ってくるだけなので、死亡保障がほしいなら、保険に加入するのもアリだとは思います」

確定拠出年金だけでは老後が不安です

DA編集部「死亡保障は今の段階だと独身なので要らないかな…。

あと、不安なのは確定拠出年金は月々2万3000円積み立てているのですが、このままだと60歳までに1000万円にしかなりません。残りの2000万円はどうしたらいいんだろうって考えたときに、この保険の話になったんですよ」

長尾「ぶっちゃけ、3000万円くらい、貯金できますよ」

DA編集部「どういうことですか!?」

長尾「考え方次第なんですけどね、これから先、30代、40代となったとき年収アップする可能性ありますよね。年収アップするともっと貯められる可能性があるわけです。僕だってガーンと貯めたのは後半ですからね」

DA編集部「後半っていうと?」

長尾「家を買って、ローンをなくしてからですね。僕の場合、40代前半に家を買って、5年でローンを返済しまして、そのあと、ローン返済に月々かけていたのと同じ金額をそのまま投資に回しました」

DA編集部「そうだったんですね! じゃあ、今から焦らなくてもいいのかな?」

20、30代のうちは無理して保険に入らない方がいい?

長尾「編集部さんの場合、これから子育てや住宅購入など、お金がかかるライフイベントで何があるかわかりません。あんまり無理して固定的に貯めるのもどうかなと思いますよ。

僕は、20代、30代の女性たちは、あんまり無理して保険に加入しないほうがいいんじゃないかなと思っています。少し余裕があるんだったら、確定拠出年金をやればいいんです。確定拠出年金の場合、お金が足りなくなったら月々の積立額を減らせばいいですから。あとは、投資ですね。個別株やETFをやるほうが良いのではないかと思います。保険は解約すると、損をする可能性もありますからね」

DA編集部「確かに、今回の保険は45歳までの間に解約をすると、損をしてしまいます」

長尾「でしたら、あまり無理しない方がいいかなと思いますね。その分、違うところで頑張りましょう。つまり自己投資です。そのほうが、将来収入が増えて絶対にいいでしょ。

収入が増えるのが一番投資に向くというか、貯蓄に向きますよね。収入が変わらないとき貯蓄を増やそうとすると、どこで削るかという問題になりますが、そうじゃなくてそもそも収入を大きくすればいくらでもお金は回せるのではないかと思います」

DA編集部「なるほど、そういう考え方もあるんですね」

長尾「不安な気持ちはすごくわかります。ただ、20代、30代のうちは自分に投資した方が将来の年収増えるのではないでしょうか。30年後、何があるかなんて分かりませんからね」

DA編集部「すごく勉強になりました!ありがとうございます!」

長尾さんのお話を聞いていると、将来のために今お金を貯めることだけでなく、子育て・住宅購入などに備えて家計に余裕を持っておくことや、収入を増やすために自己投資していくこともかなり重要なのではないか、と思えてきました。

お金を貯めるよりも、未来のためにきちんとお金を使っていく、つまりは投資していく方法をもっと考えたい、と思ったのでした。(「保険マニア」にとことん聞く!、おわり)

written by
くすい ともこ
DAILY ANDS編集長。北陸の地方紙で5年間記者として勤務後、Web編集者に。「無理のない範囲でコツコツ」をモットーにインデックス投資を実施中。

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