今年の夏も熱かった。
彼らは、日々練習をする。
本業が終わったあとに、体力の限り。地道なトレーニングで基礎体力をつけ、自分の動きを録画したものを見直す。基本のフォームに乱れがないか。インパクトの瞬間はどうか。
時には完全に肉体改造を図る者もいる。
試行錯誤を繰り返す。ライバルたちと切磋琢磨しながら。
夜行バスで遠方の県に出向き、練習試合をして、また反省する。
もうダメかもしれないと呟いた夜もあったね。何も言葉をかけられなかった。
7月になり、いよいよ地区予選。
固唾をのんで見守った。仲間と共に。
そして、3年越しの悲願。全国大会への出場が決まった。


そう。
今年、彼はついに、3年ぶりにエアギター日本決勝大会へと駒を進めたのだ。


え?高校野球じゃありませんよ。某ドラマで主役の副社長の趣味として設定されているエアギターです。
エア(架空)なギターをかき鳴らす、あの「エアギター」です。先日、その日本決勝大会が東京で開催されました。

持ち時間は1人1分。1分に編集した音楽に合わせて、エアなギターを弾く。大会で使うエアギターは、エアギター協会の方でも用意してくれていて、レスポール、テレキャス、グレッチ、使いたい放題。ビンテージモデルも、多分、事前に言っておけば準備してくれるんじゃないかな。エアギター協会さん、太っ腹。

リアルギタリストでもある友人のプレイスタイルは、バンドのライブに限りなく近い。背が高く、腕も脚も長いから、振り上げる拳は天井に届きそうだし(実際のライブで天井のライトに手が当たって割ってしまったこともある)、客席の最前列にある太い仕切りに足をかけられると、頭を軽く超えていくんじゃないかと錯覚する。本人が見ないだろうと決め込んで書いているが、もし見られたらかなりこっぱずかしい。それぐらいの熱量で彼のことはかっこいいと思っている。
ただし、エアギターとリアル楽器バンドのライブとで、大きく違う点がある。音を出さなくていいことだ。(音は出さないけど、「エアネス」(これがないとエアギターは鳴らないようです。筆者もまだ未知の領域)を放出してるんだよ!)
その分、無駄に長時間ポーズを決めたりすることができるのがエアギターの特性でもある。
また、伝説のギタリストたちがするような、「歯で弾く」「ブリッジして弾く」「ギターを上に放り投げてキャッチする」などという事も、楽々できる。
つまり、「リアルギタリストにはできないこと、難しいこと」がエアギターのステージは可能になる。
そして今年は「ギターを弾く」ことを最大限に忘れて、彼はプレイをすることにしたようだった。細長い手足をこれでもかと伸ばし、ステージを駆け抜ける。天井に届くほどに拳を突き上げる。
これは世界に行けるんじゃないか。期待が膨らむ。

もう一度いうが、3年ぶりなのだ。
これが何を意味するか。考えてみてほしい。
社会的にある程度の地位のある、大人の男が!
架空のギターをかき鳴らす競技に!
全力で!
少なくとも3年も取り組み続けているということを!
どう考える!?
某ドラマで、あの某事務所のイケメンがやったら、テレビの前のみなさんが「えええええ!!!!??」となったエアギターに!
そして、彼女にその趣味がバレるかどうかがツイッターで話題になる、そんな恥ずかしい競技に!(ごめん、知り合いのエアギタリストさんたち。愛してる)

実は、筆者は高校野球に何も感動できない、心のすさんだ人間だ。球の投げ合い打ち合いを見る楽しさが理解できなかった。
だが、エアギターが教えてくれた。
彼らの努力と涙の結晶である1つ1つのステージで、ともに緊張し心を動かし、その結果に、狂喜乱舞する時もあれば泣きたいほど悔しい時もある。
こんなにも応援する側にもドラマをくれるものがあったなんて!
音楽に合わせて腕振ってるだけでしょ?
そう思うなら一度見てみてほしい。

今年、一人のエアギタリストを1ファンとして追ってみて、何故大人が高校野球に心惹かれるのかが分かった。きっと大人たちは、彼らの努力のまばゆさと、結果じゃない部分の美しさに、何かを取り戻そうとしているんだろう。

8月7日。迎えた日本決勝大会 at 新宿Zirco
結果は1回戦敗退だった。
俺たちの夏は終わった。
全ての試合が終わった後には、エアギタリスト同士がお互いを称えあう。悔しさを抱えながらも世界大会へ日本チャンピオンを送り出す姿もまた。

ずっと日陰を歩いてきた。彼もそうだったと言う。
彼はかっこいい大人になった。僕はどうだ。

2016年エアギター世界大会は、8月26日フィンランドはオウル市にて。日本時間は深夜ですが、要チェックです!
※エアギター協会さんからは、一切、何ものも何事もいただいておりません。ただのファンです。

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