美しい男二人が交わす約束

「美しい演技の向こう側はどうでしたか?」
「もう少し。また、質問してください。」


二人のメダリストのやりとりに、また、追求を止まない、闘う美しい男たちの交わす
約束に、ファンならずとも清々しさの中のその深みに陶酔する感覚があったのでは
ないか。とある芸人が僕らで言うところの爆笑の向こう側だと、会話に混ざったが芸
というものの深さを知れば知るほど中毒的になりそら恐ろしくもなる、そんな古い
時代の芸人であれば爆笑の向こう側を知っていたのかもしれない。

高橋大輔は現役時代、追求者であった。その研ぎ澄ました繊細な感性から音楽に心
を寄せて滑る。そして天性の演者気質ゆえに、観客を連れながら自身を昇華させるのだ。まるでロックスターのようにリンクを熱くし、悲哀と官能を交互にとめどなく溢れさせ。靭帯断裂という大怪我からの復帰と技術と芸術の融合のために高難度ジャンプをプログラムに組み込む姿勢は闘う者として真摯過ぎるほどであり、追求者としては特級の頑固さであった。だからこそ彼はリンクからエネルギーを、人間というエネルギーの温もりを放てたのだろう。真摯なほどに挑み、特級の拘りゆえの追求、キングと呼ばれる内村航平は、自己を信頼することが最上の結果を生み出すことを知っているのだ。この強さ、気持ちが揺れた時の軌道修正の絶妙さは心が天才であることを裏付けている。ならば、闘う者、追求する者は優しさ、温かさ、素朴さを持って過酷な航海を続けて行けるのか。それはジャンプ、スピン、宙返り、ひねりなどの、それを創り出す姿勢の美、指先、脚先、鍛錬された筋肉、今と少し先を果てなき先をも見据える瞳が映し出す。

美しい演技の向こう側、それは虹の彼方か。
あらゆる感情を乗り越えた美の結晶。


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篠井 蓮弥 このユーザーの他の記事を見る

片隅の物書き。しかし、言葉は自身である。
ゆえに美しく言葉を育みたい。
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