アントワープのルーベンスの終の住処“ルーベンスの家”

『ルーベンス晩年の秀作』Peter Paul Rubens in Antwerpen

《ルーベンスもミケランジェロやジュリオ・ロマーノのマニエリスムに魅入られた画家の一人》

中世、ルネサンス革命の真っ只中のイタリアに1601年から1608年まで滞在したルーベンスは、当時23歳という若さで大きな権力を持っていた北イタリアのマントヴァ公の元で1ヶ月ほど過ごした後、そのままマントヴァ公国の宮廷画家となります。もちろん、ベルギーのアントワープを出たその時は、既に画家としてその名を馳せていましたが、本場イタリアのバロックを学びながらも惜しみなくその力を発揮したことで、宮廷画家という名誉ある職に就くことが出来たのだと思います。その後、ジェノバ、そして、ローマなどで画家として活躍しながら約7年間のイタリア留学期間を貪欲に過ごすのです。

滞在期間中、16世紀のイタリア美術がルーベンスに及ぼした影響は大きく、ミケランジェロのマニエリスムはもちろんのこと、マントヴァに生きた幻想的、官能的なマニエリスム芸術を得意とするジュリオ・ロマーノGiulio Romano(1499年~1546年11月1日)によるものも大きくあったのです。

★ローマで生まれラファエロの工房で修業を積んだジュリオ・ロマーノは、ルーベンスが訪れた頃には既にこの世を去っていましたが、ルーベンスはジュリオ・ロマーノがミケランジェロのマニエリスムに大きく影響された建築家・画家であることを知っていましたから、彼がマントヴァのゴンザーガ家に招かれ、夏の離宮であるパラッツォ・デル・テ(Palazzo del Te)の建築家に任命された1524年のその頃の作品を見たときの感動は大きく、また、あまりの印象深い作風に驚きを隠せなったことは確かでした。ですからルーベンスはマントヴァに滞在中は、毎日のように彼の作品の観賞を怠らなかったのです。もちろん、かなりの量の模写もしたと伝えられます。(ジュリオ・ロマーノの作品はいずれ紹介致します)

その後、ローマに移ったルーベンスはカラヴァッジョが提唱した革新的な画法バロックの真髄を学び、それを基盤にして自分なりのバロック画法を生み出すのです。

ルーベンスの円熟期とされる1636年の作品「ゴルゴダの丘に登る」

ルーベンスは独自のバロック画法を手にイタリア留学から故郷アントワープに戻る》

イタリアで約7年間活動した後、1608年に故郷のアントワープに戻り、1610年、33歳という若さで街の一等地に邸宅を購入して工房を開いたルーベンスは、本格的に画家としての一歩を歩み始めます。

写真はルーベンスがバロックの巨匠として大成し、円熟期とされる1636年の作品「ゴルゴダの丘に登る」です。

彼が没する4年前に完成したものですが、112枚の装飾画の注文をスペインのフィリップ4世から受ける直前の作品で、この作品で自身の絶頂期を迎えたと伝えられています。それは信仰の世界の威厳を鮮やかに表現し、光りの明暗を鮮明にしてキリストの苦悩が全能の神に勝利を告げる、その高揚感をバロックの手法で以って構成し描いている、という完成度の高い作品に仕上がっているからです。左手の女神像は愛する妻の顔に相似して描いているのも心憎い演出です。

★ちなみにスペイン王室から注文依頼のあった112点の絵画はフィリップ4世がマドリッド郊外に建立した狩小屋を飾るためのもので、ルーベンスはその主題をスペインの詩人オヴィドの「変容」から着想しています。それら一連の絵画は40の油絵と50の素描が残されていますが、112枚の内の最終的なものは助手だったヨルダーンスに預けられ、完成を見ずに天国へと旅立って逝きました。現在はこの作品は彼の持ち得たすべての技法、手法の集大成とも言われ、ルーベンスの重要な遺作として大切に保存されています。

後日、ルーベンスに師事を受け、助手となったヨルダーンスについてもお話をさせて頂きますが、当時、画家の多くがバロックの発祥の地イタリアに留学したにもかかわらず、ヨルダーンスはイタリアよりもこのベルギーに於いて学び、外に出ることなくバロックの巨匠として晩年を迎えています。

ヨルダーンスがその選択をしたのは、師匠ルーベンスの尽力あってのものだったと思いますが、彼に追随してアンソニー・ヴァン・ダイクなどを輩出したアントワープという街あってのことだったとも言えるのではないでしょうか。

それはベルギーという国、そして、アントワープという街に芸術家たちを育てる土壌が用意されていたからです。ベルギーという国と各街にその風土が植え付けられ、育っていたから。そう思います。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手したその他の資料、ウィキペディアなど参考にさせて頂いています》

(旅行ジャーナリスト・作家 市川昭子著)

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★旅行ジャーナリストとして長い間、公私共に海外の国々を訪れ取材し滞在。美術館巡りが好きで「ヨーロッパの美術館」など著書も出版。海外ガイドブック30冊以上(フランス、イタリア、イギリス、ベルギー、オランダ、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ハワイ、アメリカ、香港、韓国、グアム、サイパンなどなど十数カ国のガイドブック)を取材し出版。★小説【あなたが生きた街】を出版。

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