今から2年ほど前に、メディアで話題となった一人の殺人犯と自閉症の少年のストーリー。覚えている方もいるかも知れません。

第2級殺人罪で起訴され禁固48年を言い渡されたクリス・ヴォート

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1998年に第二級殺人罪で起訴されたクリス・ヴォート。米コロラド刑務所で禁固48年の実刑判決を受けました。人を殺めた罪は重く、塀の中で長い人生を過ごして行かなければいけないクリスに与えられた使命は、捨てられ、シェルター(動物保護施設)にいた犬を訓練して新しい生活を与えてやることでした。

犬の訓練にあたる囚人たち

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アメリカではこのようにシェルターから引き取られた犬が刑務所内で囚人に訓練を受けるのは珍しいことではありません。犬の新しい飼い主が決まるまでの間、囚人たちは割り当てられた犬を24時間体制で世話します。

罪を犯した人間と、人間に虐待され捨てられた犬たち。最初、囚人たちに会う犬はほとんどが臆病で恐怖心の塊だそう。満足に訓練も受けずに育って来た犬たちにあるのは尖った神経ばかり…。そんな犬の心をほぐし時に絆を深めていくことで、囚人たちにとっても訓練はセラピーとなるのです。

クリスも訓練の中で犬との絆を深めて行った…

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コロラド刑務所では、2002年から囚人に犬の訓練をさせるシステムを導入。クリスはこれまで数匹の犬の訓練を経験して来ました。大抵の犬は目や耳の不自由な人たちの救助犬として訓練されています。そんな中、クリスは一匹の犬を自閉症の子供へのサービスドッグとして訓練しました。

9歳の自閉症の少年に、殺人犯と一匹の犬が対面

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当時9歳だったザッカリー・タッカー君は重度の自閉症を患っていました。学校の担任によると、ザッカリー君は極度の社会恐怖症でありとにかく人に触られることを恐れ、話すこともせず、時に授業中であろうとも教室の床にボールのように丸くなって蹲ってしまうことがあったそう。

両親のアーサーさんとスージーさんはそんな息子の将来を心配し、どうにかして少しでも自閉症を克服できる方法はないかと悩んでいました。そんな時、コロラド刑務所のことを知ったのです。息子を車に乗せて両親はクリスのいる刑務所へ向かいました。

ザッカリー君は、殺人犯であるクリスとチョコレート色のサービスドッグ、クライドと初対面しました。クリスが誠心誠意でもって訓練したクライドとザッカリー君は気が合った様子。その後も、彼の自閉症の症状はどんどん良くなっていったのだそう。

成績も上がり、学校では「ザッカリーとクライド」のコンビはちょっとした人気者となりました。ほんの少しの自信が湧けば、後はもう大丈夫。クライドのサポートとザッカリー君の勇気ある精神でもって自閉症をほとんど克服することができたのです。これは、両親にとっても本人のザッカリー君にとっても最も大きな意味のあることでしょう。

人に触れられるのが嫌だったザッカリー君が、クリスとハグを交わした!

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暫くして両親と一緒にクリスに会いに行ったザッカリー君。以前からは考えられないほど成長したザッカリー君を見て、クリスは心から喜びました。人に触れられることが心身ともに嫌だったザッカリー君でしたが、クリスとハグを交わせるまでになったのです。

「70%は克服したと思うんだ」

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自身の自閉症について「今は長い時間、友達と過ごせるようになったんだ。恐怖症も70パーセントは克服できたと思う。」と語ったザッカリー君。重い自閉症だったザッカリー君をここまで立ち直らせたのはもちろんサービスドッグ、クライドの存在が大きいでしょう。そしてそのクライドを訓練したクリスも、また人として大きな意味があることを成し遂げたのではないでしょうか。

「人としても更生できる何かを形に残すことができたら」

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殺人という罪は、クリスの中でももちろん被害に遭った家族の中でも一生消えることはないでしょう。刑務所の中で何十年過ごしたとしても、クリスによって失われた大切な家族を思うと、遺族の立場としては「それで罪が消えるわけではない」と思うかも知れません。

でも、「人は変えられない何かを一生背負うこともあるし、人として変わることもできるのだ」ということを私たちはクリスを通して知ることができるのではないでしょうか。

殺人犯であるクリスと、自閉症の子供たちという接点は普通ではあり得ないこと。でもクリスがこのような形で、過去に犯した罪の償いと自身への更生、更には自閉症の子供たちのサポートとなる犬を訓練することで彼らの人生が大きく変わることに貢献するなら、「セカンドチャンス」を与えられるべき価値があるのではないかという声もあるようです。

犬を訓練していくことで、労りや思いやりの心も培われるでしょう。そしてザッカリー君のように自閉症を克服することができる子供が増えるなら、殺人犯の人生にも生き甲斐が見つけることができるのではないでしょうか。

囚人の中には、捨てられた犬と似たような状況でこれまでの人生を歩んできた者もいるということで、訓練している犬との間にはかけがえのない絆が生まれることもあるそう。そんな絆はザッカリー君のような子供だけではなく、囚人の人生をも救うきっかけになるといえるでしょう。心が救われれば、更生する道が開けます。クリスだけでなく、囚人のほとんどが訓練をしている犬と深い絆で結ばれているようです。

クリスとザッカリー君のストーリーにはもちろん賛否両論の意見がありました。「犬を訓練したからといって殺人の罪が消えるわけではない」というもっともな意見や「それでも、セカンドチャンスを与えてあげたいと思ってしまう」「彼は十分償っている。人には人生のやり直しが与えられるべきなんだ」「早く刑期を終えて、誰かのために助ける人になってほしい」という意見もありました。

罪を犯したことの償いに対しては、もちろん一生背負っていくべきことでしょう。でも、クリスのように殺人犯でありながらも他の人を助けるために今を生きているのだとしたら、もう二度と、人を傷つけるようなことだけはして欲しくないと思う筆者。そして、これからもザッカリー君のような自閉症の子供を救う、素晴らしいサービスドッグを育てる人として頑張って欲しいですね。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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