その夜。いつものように悪夢にうなされていた僕は、枕元に置いていた携帯の着信音で目を覚ましました。寝惚け眼で捉えた画面にLINEのメッセージが表示されていました。背中にびっちょり嫌な汗をかいていて、薄い敷布団は不快に湿り、不吉な予感が空間に漂っています。

差出人は友人のKでした。かれこれ十年来の付き合いの彼は、意図せず三十路過ぎまで独身を貫く、僕とほぼ同じ境遇の異性にまるでモテない、哀愁漂う男です。

「相席行ってきた。そのままナースの子の部屋に泊まった!」

僕は目を疑いました。夜中に、がば、と起き上がり反射的に大きな声を上げてしまいます。馬鹿な、嘘だ、僕の頭は混乱し疑念が渦を巻きました。誰と相席バーに行ったのか、そのナースは可愛いのか、ブスなのか、てかヤったのか、ヤってないのか、文面からヒントは少なく、一体何があったのか詳細は不明です。

そう、つい先日、僕はKを誘って相席バーへ出掛けたばかりだったのです。その相席バーの位置する場所柄、若い子が多いに違いない、三十路のおっさんは恥ずかしい、そう駄々をこねるKを必死になだめすかし、説得し何とか連れ出したのです。案の定、何の収穫も無く、すごすごと決して安くない料金を払って退散した僕らは、惨めな敗残日本兵でした。

(あの野郎。抜け駆けしやがって)

殺意が芽生え始めるのを全身に感じました。今度会ったらただじゃ済まねえ、僕の心を鬼が支配し、真っ赤に燃え上がった視界に、怒りの炎が揺れていました。

しかし後日、Kと会い、事の顛末をよくよく聞いてみると、話は意外な方向に展開していくのでした…。

Kの話

一度は何の収穫も無かった相席バーに、懲りずにKが再び行ったのは、周囲のテーブル席を見渡すと、そこになかなか粒ぞろいの女性たちが多かったのを覚えていたから、でした。そしてKは、戦力として期待できない僕に見切りをつけ、別の男性、職場の後輩たるまだ二十代前半の爽やかイケメンを誘ったのです。

Kと後輩があてがわれたのは、同じ病院で働く23歳のナース二人組でした。どちらも美人とは呼びがたく、まあ普通、厳しく判定すれば中の下、地味でおとなしい雰囲気です。彼女たちは先に別の男性と飲んでいたらしく、顔を赤くして、センスの欠片もないKのつまらない冗談に大きな声で大げさな笑い声を上げ、すでに出来上がっているようでした。

「いまからカラオケ行こう!」

相席バーは基本的に女性は飲み食い無料ですが、男性はただ座って女性と話しているだけで10分ごとに600円金がかかります。Kとしては、金銭的な事情もあり、さっさと別の場所に移動したかったのです。

Kの提案をナース二人組は気楽な感じで軽く承諾し、四人はカラオケボックスへ向かいました。

ドエロ

「急に、またがってきて、キスしてきて…」

そのナースがくっそエロくて…、少し照れ臭そうにKは僕に告げました。痴女じゃないですか、世の中に、そんな女が本当にいるのか、スポーツ新聞のエロ記事欄にだけ存在するファンタジーじゃないのか、大丈夫か我が祖国、日本、僕の頭に様々な想いが去来します。率直に言うと、超羨ましい、その一言に尽きます。

カラオケボックスの中で、Kは歌を歌わずに、唐突に膝に乗ってきたナースの口を吸い、胸をまさぐり、いちゃいちゃ、欲望の赴くまま、ちちくりあっていたのです。もう一人の女性は慣れているのか、友達の暴走を特に咎める事も無く、イケメンとカラオケに興じていました。

ヤれる、絶対にヤれる、確信を得たKはエロナースの耳元でそっと囁きました。もう終電無理やし、家に帰れねえ、と。

「じゃあ、みんなでわたしの部屋に泊まろう」

四人を乗せたタクシーは、ナースが暮らすマンションに着きました。四人でマリオカートで盛り上がっていると、いつの間にかKは眠ってしまったのです。飲み過ぎたのか、性欲より睡眠欲が勝ってしまったようでした。

「めっちゃ、すやすや寝てましたよ」

朝目が覚めるとイケメン後輩が言います。お前ヤったのか、Kの詰問に後輩は、ヤってないですよ、普通に寝ましたよ、と過剰な反応で激しく否定します。じゃあ何故、後輩は上半身裸ん坊なのか、Kには不可解でした。

「いい話じゃないか。実に面白い。そのエロナースとは良好な関係が続いているのかい?」

いや、それが…、僕の好奇に満ちた質問にKは言葉を濁し、静かな口調で淡々と続けました。

「それからガンガンLINEが来てね。二人とも、なんか有名な横文字の会社の会員らしくて。マルチ商法ってやつ?ねずみ講?よく知らんけど、今度の集会に来て、ってマジしつこい。後輩は断りきらんで、集会に行って、本当に会員になったらしい。俺は全力で無視してる」

なるほど、そういえば相席バーには、保険や投資等、完全に営業や勧誘目的の女性も多いと聞いたことがあります。

高い金を出しても女とヤりたくてたまらない性欲丸出しのアホ―な男(酒を飲んで更にアホ―になる)が集まり、加えてタダで飲み食い出来て場所代も要らない相席バーは、ノルマの為の営業や怪しげな勧誘をする女性にとっては、これ以上ないとっておきのスポットなのかも知れません。

結局、Kは大して可愛くもない女と、ヤることもなく、ペッティングの見返りとしてマルチ商法に勧誘されただけ、でした。決してモテないレールの上からはみ出す事は無かったのです。

チェンジ

それから、Kと二人でまた相席バーに行きました。50代のおばちゃん三人組の席に案内されました。

「あらーっ。あんたたち、若いね。わたしの息子と同じくらい!」

僕とKは互いに目配せして合図を送ります。言いたいことは同じです。

「すいませーん!席替えて下さい!」

ほぼ同時に大きな声を発し、係員を呼び出しました。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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