精神安定剤に頼る日々

当時、私は自律神経失調症を患っており、パニック障害と睡眠障害を克服したばかりであった。それでも、まだ不安感が消えることはなく、安定剤に頼る日々を送っていた。

殺処分が決まった犬に救いを求めたのは私の方だった

そんなある日、殺処分が決まってしまった犬を保健所から引き取ることになった。

はたから見れば、その犬の命を私が救ったように思えただろうが、その犬に救ってほしかったのはこの私だったのだ。すがるような気持で、犬との暮らしが始まった。

散歩

その犬は、家の中では絶対にトイレをしないよう(前飼い主に)しつけられていた。そのため、1日最低3回の散歩が日課となった。

2か月以上も保健所の檻の中に閉じ込められていた犬は、外を歩けることがとても楽しかったようで、そしてまた私も、犬と一緒に歩けることに喜びを感じ、最初のころは散歩に出ると1時間以上は一緒に歩いていた。

だが、やがて徐々に散歩の時間が短くなってきた。犬に任せて歩いていたのだが、近所を知り尽くした犬は、もう以前のように長く歩くことをしなくなったのだ。それでも、一日最低三回の散歩が減ることはなかった。時間だけが少しずつ短くなっていったのだ。

近所のおばぁちゃん

そんなある日、散歩の途中で近所の70過ぎのおばぁちゃんが話しかけてきた。

「いいね~!犬がいるとそうやって毎日一緒にウォーキングができるから。私も数年前まで犬を飼っていたから、よく犬と歩いてたわよ。」

「もう、歩かないんですか?」

「ええ、2年前に犬が他界してからは歩かなくなったわね~。また犬を飼いたいけど、もう私も歳だし、最後まで面倒みれないかもしれないから、飼えないわ。犬がいたら一緒に歩けるんだけどね~。」

「じゃ、これから一緒に歩きますか?」

「え?いいの!」

「はい、もちろん!一緒に歩きましょう!」

そして、朝の散歩はそのおばぁちゃんと一緒に行くことが日課になった。

おばぁちゃんはガンの手術をしたばかりであった

私がどうしてそのおばぁちゃんを誘ったかと言えば、おばぁちゃんはその夏に大腸がんの手術をしていたことを知っていたからだった。この時のガンは初期だったおかげで手術は成功した。

私の父もガンを患っていた。その父がその1年前の夏に、他界していたこともあり、ガンを患ったおばぁちゃんのことが気になっていた。

ガンというものは、免疫力が衰えると発病しやすくなる。おばぁちゃんは一人暮らしで、愛犬も他界し、毎日、家にいるだけの暮らし。このままではまたガンが再発してしまうだろう。なんとかしてあげたいという気持ちから、犬がいれば一緒に歩けるとおばぁちゃんが言ったので、「それなら一緒に歩きましょう!」と誘ったのだった。

毎朝1時間一緒に歩くことが日課になった

ガンの手術をして、退院してきたばかりのおばぁちゃんは、とても元気だった。もともと足腰が丈夫な人だった。

毎朝、一緒に1時間は歩いた。話をしながら。。と言っても、話すのは、もっぱらおばぁちゃんの方で、私は殆ど訊き手であった。違う町に住んでいる息子さん夫婦の話や孫の話。テレビ番組の話や旅行の話など。。毎日、おばぁちゃんの話は尽きない。

私は話す相手はちゃんといるので、おばぁちゃんの話を毎朝訊きながら1時間歩く。喋ることでストレスはかなり発散されるのだ。

おばぁちゃんに希望を感じた

いつも、犬のリードはおばぁちゃんに渡していた。

私と一緒に散歩する時は、犬の好きなように歩かせているのだが、おばぁちゃんは違った。おばぁちゃんがリーダーで、犬はそれに従うという形がすっかり出来上がっていた。

年代も違うおばぁちゃんと一緒に話しながら歩くのは、楽しかった。おばぁちゃんは普通のおばぁちゃんではなかった。おばぁちゃんは時々、世間の愚痴をこぼしながらも、考え方はとてもポジティブであった。それは見習うべきところもあり、私とは親子ほど年が離れているこのおばぁちゃんの元気さが希望のように感じられた。

たとえ歳をとっても、たとえガンを患っても、こうしてまだまだ元気でいられるんだということをこのおばぁちゃんから教わっている気がした。

規則正しい日々

1人で犬の散歩をしていた時は、時間がバラバラであった。でも、朝、おばぁちゃんが参加するようになって、いつも決まった時間に散歩をするようになった。

朝日を浴びながら1時間、人と話しながら散歩する。これが、毎日の日課となったことで、私の生活は規則正しくなった。

朝、ちゃんと起きなければならないので、夜更かしをすることもなくなった。

体調が変わった

おばぁちゃんと犬のおかげで、それまですぐれなかった私の体調がだんだん良くなってきた。

朝、1時間の散歩を始めて半年が過ぎたころ、私は自律神経関係の薬を飲まなくてもすむようになった。

朝日を浴びること。最低1時間は歩くこと。喋ること。夜ちゃんと寝て、朝、ちゃんと起きる。そういう規則正しい生活をしていること。これらすべてが私の自律神経の不調を回復させていったのだと思う。

規則正しく毎日続けられているのは、犬と、そしておばぁちゃんがいるから

殺処分が決まった犬を引き取って、犬に助けられた。

ガンを経験したおばぁちゃんを散歩に誘って、おばぁちゃんに助けられた。

私はそう思っている。

情けは人の為ならず 結局、私が助けられている

縁とは本当に不思議なもので、このおばぁちゃんとは、それまで特に親しくしていたわけではなかった。それまでは、殆ど口もきいたこともないような人だった。ただ、ご近所さんというだけ。会えば挨拶する程度の関係だった。

だけど、保健所から保護した犬がきっかけとなり、このおばぁちゃんとまるで引き寄せられるようにご縁ができた。

おばぁちゃんは他の人たちに私が「お世話してくれてるから」と嬉しそうに話す。同じくらいの年の他のおばぁちゃんたちは「いいね。そうやって誘ってもらって!」と言う。

そうじゃないんだけど。。私が助けられているんだけど。。

情けは人の為ならず。。。本当に昔の人はよく言ったもんだと思う。

はたから見れば、私が犬を助け、そしておばぁちゃんを助けてるみたいに思えてるみたいだけど、本当は、私が犬とおばぁちゃんに助けられているんだよ。

ありがとう!この犬と、そしてこのおばぁちゃんに出会えたことを本当に私は感謝してる。

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