人って弱いから、一度負の連鎖にはまり込んでしまうと、なかなか抜け出すことが出来なくなるのだと思っていました。

特に「お金の魔力」にとりつかれると、人の社会で“犯罪”と呼ばれる行為を繰り返していることにさえ、本人は気がつかなくなるのかもしれない。

それだけ「お金」には、力があるだろうと思っていましたが…。

あるに、「そういうに人は、お金の声が聞こえてるんだよ」と聞いてから、
それまで「どうしてだろう?」と不思議に思っていたことが、目から鱗で納得してしまったのでした。

「毎月、お給料日の数日前になると・・」

これは、某百貨店にいた時のお話です。

毎月、20日を過ぎると必ずカウンターに現れる彼女がいました。

それまでの日は、いくらカウンターにお客様が長蛇の列をなして並んでいたとしても、その姿を見せず、気配を消し、どこにいったのかさえ分からなくなる彼女が、なぜか?毎月25日のお給料日数日前になると、カウンターからよく見える場所に立つのです。

そして、「〇〇さん、カウンターお願い」というと「はい」と素直に返事してカウンター内に入り、接客してくれるのですが…。

25日のお給料日を過ぎると、なぜか、また、どこにいるのか気配を消してしまう彼女。

そして、これもなぜか?20日を過ぎると、不思議な事に?お給料日までの数日間、サブレジの合計が合わなくなるのです。

なぜか、売り上げ金額と現金が同じではない状態、おつりを間違えて多く渡してしまったという単純なミスで発生する少額の金額ではない、万単位の違いで、まとまった金額の現金が消えているということが起こっていたのです。

そこで、今まではそれぞれがお勘定をするために、個々にサブレジを使っていましたが、

サブレジにてお勘定処理するのは(=現金を預かり、おつりを渡す)、「この人たち3人だけ」と担当者を決めて、それ以外の人は、サブレジを使うことが出来ない決まりにしたのです。

そして、どんなに忙しくても、彼女をカウンターには呼ばないと決めたのです。


すると、たちまちサブレジの売り上げ金額と現金がピッタリと一致しだしたのです。

連日ピッタリと合うサブレジの現金を見て、みんなで手を叩いて大喜びしました。

閉店後に、サブレジの現金がピッタリ一致したことを喜んで手を叩く大人の集団。
後から考えると、その状況は、知らない人から見ると一種異常な光景だったのではないかとも思えます。

なぜなら本来、売り上げ金額と現金が一致するは、それが当たり前で正常なことなのですから…。

ですが、このとき売り場のみんなの心の状態は、「仲間を疑っている自分たち」と「お金を盗む許せない人間がいる」という狭間で、少しおかしな精神状態になっていたのかもしれません。



「口に出せない疑惑」

実は、売り場のみんなは、口にこそ出さなかったのですが、前々から彼女を疑っていたのです。

それは、なぜか…、

それは、彼女が母親と二人暮らしで、彼女の母親は、病気で働くことが出来ませんでした。

ですから彼女が働いたお給料のほぼ全額は、二人の生活費として母親に渡されます。
そして彼女は、母親から月2万円のお小遣いしか貰っていませんでした。


まず、みんなが疑問に感じていたのは、彼女が住む団地は駅までバスで30分かかりますが、彼女はバスを利用するのではなく、毎朝タクシーで通勤しているということを知ってしまったこと。

それから毎日使う化粧品はブランドもので、毎月新しいものを買い替えていること。
おまけにファンデーションのパフは、その日使ったものは捨ててしまい、毎日新しいものと交換していたこと。

そして、早帰りの日に、同期の子たちが彼女を食事とショッピングに誘うと「食事は行くけど、買い物は、私、お金がないから見てるだけでもいい」といいながら…。

お店に入ると、同期の子たちが一点の商品の値段を見て、「これ欲しいけど、高いからどうしょう」と買おうかやめようかと迷っている横で、「これと、これと…」と万単位の品物を平気で数点選び、お小遣いの3倍の代金(6万円ちかく)を、カードではなく、現金で支払う彼女の姿に強い違和感を覚えていたことでした。



そんな彼女の口で言うことと、やることがそぐわないお金使いの荒さに加え、貰っているお給料の金額が、それほど変わらない売り場のみんなとしは、

その「余分なお金」は、どこから出てきているのか?という疑問が口に出せない分、

犯人は彼女ではないのか?」という疑惑が生まれ、静かに、ゆっくりと、でも確実にみんなの心の中に広がりだしていたのです。



「巧妙に抜かれるお金」

そして、サブレジの現金が売り上げの数字と合いだすと、次に起こったのはバッヤードに置いている、自分たちの私物入れの財布から、現金が抜き取られるという被害でした。

その手口は巧妙で、千円札で5枚、5000円が入っていたのなら1000円だけを抜き取る。

だから、抜き取られた方としては、「あれ、私、1000円何かに使ったけ?」と人を疑うより、自分の頼りなさを、記憶の曖昧さを疑ってしまうようなやり方で抜き取られていたのです。

ですが、それも、何人もの売り場の人間が被害にあいだすと…「おかしいのよね~、私、ボケちゃったのかな?5000円入れていたと思ったら、4000円しか入ってなかったの、1000円何に使ったのか全然思い出せなくて…」と、休憩時間なので話題になります。

すると、「えぇー、実は私も!10000円出して、9000円のおつりを貰ったはずなんに、お財布の中に7000円しかなかったのよ!」という、我が身に起こった不快な出来事がまったく同じだとなります。

そして、はっきりと言葉に出して言わなくても、それは勘違いではなく盗まれた のだという事実が発覚する わけです。



そして、このことから売り場にお金は持ってこない。

お財布は、更衣室の鍵のかかるロッカーに入れておく。どうしても必要なお金は、肌身離さず自分の身につけておくということになったのです。

これではまるで毎日が、治安の悪い場所へ旅行に出かけて、自分の身の安全は自分で守るという、旅行者のような(人を疑う という)状態でしたが、それも仕方がありません。

これ以上の被害を防ぐ為にと、売り場のみんなで決めたことでした。

「ロッカーから消えた財布」

ですが、それでも信じられないことに被害は起こりました。

なんと、係の人が入り口に居て、制服に着替えていったん更衣室を出たのなら、営業時間内に再入室するには、入室時間と係名に氏名を記入しないと入れない更衣室で、鍵のかかるロッカーから、お財布丸ごとが盗まれるという被害が立て続けに起きたのです。


もう、こうなると自衛ではどうすることも出来ません

そこで、売り場のみんなで話し合った結果、指紋を取られてもいいから警察に届けよう ということになり、部長に相談したところ…。

お金を盗まれたなどということは、お金を直接扱う職場としては信用問題に関わることだから、警察に届け出ることはしない。
それに、誰が盗んだのかという確たる証拠もない。

代わりに、彼女には、お金とは一切関係のない部署に異動してもらうということにする、となりました。



そして、本当にあっけないことですが、彼女の異動と同時に、売り上げにしろ、個人にしろ、お金がなくなる、盗まれるということは一切なくなったのです。


「どうして?」

私は、それから某百貨店を退職して、全然違う職種に転職したのですが、それにしてもこの出来事には、どうしても理解出来ないというか、不思議に思うことが一つありました。

それは私物入れ置き場が、商品ストックがあるバックヤードであり、おまけに出入り口はカウンターのすぐ横、常に誰かが出入りしている、誰かの目がある場所なのにも関わらず、

どうして?誰の目にも触れることなく、彼女は他人の私物入れからお金を盗めたのか?


極めつけは更衣室です。

更衣室担当の女性は、営業時間内の再入室にはかなり厳しい人でした。

ですから、氏名等を記入せずに更衣室に入れることなど、ほぼ不可能ではないかと思えるくらい(入り口に居ないと思っても、どこからか目を光らせて出てきます)、再入室者を厳しくチェックしていました。


なのに、更衣室の、鍵のかかるロッカーから

お財布が消えた!・・なぜ?・・



それは、まるで、すべての人が、ほんの一瞬その場からいなくなる奇跡に近い状態というか、時間の隙間という偶然がなければ出来ないことなのではないかと思うのです。

それも毎回、毎回、時間の隙間が、彼女に味方したとしか考えられない奇跡に近い状況だと思いました。

でなければ、どこかで、いつか、誰かに見つかってしまうと思うのです。

でも彼女は何年もの間、どの場面でも見つかることはなかった。誰も、怪しげな彼女をみたことはなかった。

私には、どうしてもそのことが不思議で仕方がなかったのです。

「お金の声が聞こえる・・って?」

そして転職して、衣食住の「住」に関する仕事をしていたときに、新築5区画の5件の家すべてに、深夜(多分、明け方に近い時間だろうと警察の人が言っていたそうですが…)泥棒が入ったのですが、この5件の家人の誰ひとりとして、その事実に気がつくことなく朝を迎え、いつもの一日を始めていたのだそうです。

そして、一件の家の人が、翌日(泥棒に入られた後)のお昼過ぎに入り用があって、お金を入れていた引き出しを開けると、そこから有るはずのお金が消えていたのだそうです。

警察がその手口を見て、他の4件の家にも、なにか無くなっているものがないか確認して欲しいと申し入れたところ、見事に4件とも、家の中においていた現金が消えていたことが判明したのです。

その事件の翌々日、

「ありえへん、泥棒に入られたのが分からんかったやなんて…。それも5件ともやなんて信じられへんわ」と私が言うと。

「あるねんでー、そんなことが、信じられへんかもしれんけどな。そういうのは確かに泥棒のプロやねんけどな、またちょっと違うねんな~、これが…」と、この道(住)何十年のベテラン営業マンの人がもったいつけながら私に言いました。

「なにが違うのん?」と私。

「おるねん、お金の声が聞こえるヤツが」と、そのベテラン営業マンはいました。

「はっ?お金の声が聞こえる?」
このとき、『この人なに?訳わからんこと言うてるのん?』と思ってしまいましたが…。


「そや、こういう商売(住)してるとな、まぁいろんな人と友達にもなるし、他で聞けへん話も聞く。その中でや、お金の声が聞こえるヤツがいる。そういうヤツにかかったらな、誰もしらんうちにお金が消えるねん」

「消える?」


「そや、よう聞けよ。そういうヤツには、お金の声が聞こえるねん。

『ここよ、ここ』って、お金が居場所を教えてくれる。

人が大勢いても関係無い『今よ、今、今なら大丈夫、連れて行って』て、お金が丁度ええ盗めるタイミングを教えてくれるんや

だからな、そういうヤツはどんだけ警察が頑張っても捕まらん。
なんでか分かるか、それはな、普通の人間が気づかんほんの一瞬の時間で盗めてしまうからや。それこそ極端な話、瞬きする瞬間でお金を盗めるからや。間違いない、一回も捕まらへんかった、おっさんが言うてたんやから間違いない」


「それは…、まじですか?」

「まじや、多分、この5件も短時間で盗んでるはずやで」とベテラン営業マンは言いました。


この話を聞いて、私は今まで不思議に思っていたことに対して納得したのです。
腑に落ちたのです。

多分、彼女にもお金の声が聞こえていたのだと思ったのです。



なぜなら、彼女が異動になって2か月後、その異動先にいる先輩が、彼女についてちょっと話を聞かせて欲しいと言ってきたのです。

それはなぜかというと、前日に同じ課の女性が、自分の成人式用の小物を買いそろえるために用意していた20万円のお金が、鍵のかかった、その女性が一人で使っているロッカーの中から、跡形もなく消えて無くなってい たからなのです。



「いままで…、彼女が来るまでは、こんなことは一度のなかったのよ。

それに、お金を盗まれたその子はね、いい子なのよ。着物は、自分がこれまで貯めていたお金と働いて貯めたお金で買ったのよ。

昨日、持ってきていたお金は、『それじゃぁ着物以外の小物は、お母さんが出してあげるわ、お祝いにね』って、その子のお母さんが用意しくれたものだったよ。
だから、『お母さんが、お母さんが…』って泣くその子が、もう可愛そうで…」

と、先輩はほとほと困り果てた顔で言ったのです。



彼女が異動した部署は、男性の課長が一人と、後は女性社員が6人の小さな部署です。

ロッカーも同じ部屋の奥の壁に面して、パーティションで仕切られた一角にあります。

だから常に誰かがいる状態で、必要もないのにロッカールームにいけば、逆に目立ってしまうような環境だったにも関わらず、娘を思う母親の想いが入った大切なお金は盗まれてしまったのです。

その話を聞いたとは、なぜ、そんな人の目が常にある場所でも、誰にも気づかれずに、お金を盗むことが出来るのか?と不思議で仕方がなかったのですが…。

この道何十年のベテラン営業マンが言う、「ここよ、ここ」「今よ、今、今なら大丈夫、連れて行って」と、お金の声が聞こえるのであれば…


それはもう、どれほど周りの人間が目を光らせ、気をつけたとしても、それを止めることは誰にも出来ないのだと、妙に納得してしまったことを覚えています。




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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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