幼稚園の入園式から始まって、甥の晴れ姿を見ることが出来る日には、嬉しくて、必ず仕事を休んで出かけていった私。

ですが、なぜか甥の中学の入学式で、嬉しいはずのこの日に感じたのは、「今時の中学の先生は、これほど?口が悪いのか?」という強烈な違和感でした。

「先生の威圧的な言葉」

新中学一年生(甥)が入場する前に、2年生が入ってきました。その姿をすぐ近くの保護者席で見ていた私は、信じられない言葉を耳にします。

「おまえら!なにやってんだー!真っ直ぐ歩け、前、見えんのか!前向いて、しっかり歩かんか-」と、まだ20代後半くらいの若い女性教師が大きな声で、おとなしく二列になって歩いている(どう見ても怒鳴られる理由などみあたらない)2年生たちを罵ります。

その女性教師は、“あなた、もしかして職業?間違えていませんか”と思うほどの口汚い言葉を次から次へとはき出しては、ちゃんと前を向いておとなしく歩く2年生たちを罵り続けていたのです。

これには私も、妹(甥の母親)もビックリ仰天しました。

「なんなん、あの先生?」と私が言うと。
「わからんわ、なんで?」と妹もビックリして言います。

そのあとも、この女性教師の口汚い言葉は止まりません。
それどころか、次に現れた若い男性教師とともに、殆ど恫喝するように大きな声で吠えていました。

この日は、はっきりいってこれまでの幼稚園、小学校と晴れやかな気持ちで出かけた楽しい思い出に残る入園、入学式とはとても比べものにならないくらい、この二人の教師による言葉の暴力ともいえる場面のお陰で、楽しみにしていた甥の中学校入学式は、不愉快極まりない思い出として私の中に残る「最低の式」になってしまったことは、間違いありませんでした。



「それは、なぜ?」

それから二週間ほどして妹の家に行くと、「姉ちゃん、分かったで」と妹が言いました。

「なにが?分かったん?」と私が妹に聞くと、「この前、優(ユウ・仮名)の入学式で、どうして中学の先生たちが、あんな汚い言葉を平気で使ってたんかが分かったんよ」と妹は私に言いました。

そして…、
「それがさぁー、ほら、去年、アルコール依存症になった母親を殺した、中学生の、男の子の事件があったやろう」
「うん、あったね」
「それ、優の中学の子なんよ。二年生なんよ」と妹は言いました。


その事件とは、アルコール依存症になった母親が、酒を飲んで一日中酔っぱらっているので、一番上の中学生の男の子が家のことをして、ご飯を作り、下の子ども達の面倒をみてと、毎日、毎日、まだ自分自身も子どもであるにも関わらず、その男の子が母親の代わりに家事をこなしていたのです。

ですが、ある日、とうとうその男の子が、アルコール依存症の母親を殺してしまったという事件でした。




そして、その男の子が、甥の通う中学の2年生であること。

甥が通うことになった中学は、それまでにもイロイロと問題のある家庭の子どもたちが多くて、多少言葉使いが乱暴だったという先生達も、その事件があってからは、余計に子どもたちに対する接し方が、あの入学式で見たように乱暴な物言いになっていったのだということを、妹は2年生の母親から聞いてきたのです。

それに、2年生のお母さんから聞けば聞くほど、可愛そうやねんで、その子…」と妹は言いました。

このとき私は、テレビ画面に映し出されていた家の壁一面に、日に焼けて汚くなった瓶ビールのケースが、空き瓶と一緒に幾つも幾つも無造作に積み上げられた映像を思い出していました。


「だから、お弁当なのか…」

妹が、その男の子と同じ学年の母親から聞いた話では、その子の母親が酒を飲んで一日中酔っぱらっているので、家のことは…洗濯、掃除、ご飯作りに、下の子の面倒と…すべてを、その子ひとりがしていたということです。

そして、その子は、自分のお昼ご飯(=お弁当)を持たずに学校に来ていたのだそうです。

確かに、甥の入学式で、学年主任の先生がマイクを持ち、
「お母さん、お弁当は必ず子どもに持たせてあげてください。もし、なにかの事情があって、コンビニのお弁当を持たせるにしても、そのまま持たせるのは止めてください。

その子のお弁当箱に入れ替えてやってください。子どものために一手間かけてやってください。子どもは、どんな小さなことでも、お母さんが自分のためにしてくれたことには敏感です。嬉しいんです

「だから、お願いします。どんな形でも構いません。お母さんのお弁当を子どもに持たせてやってください」

「お願いします。お弁当は忘れず、毎日、子どもに持たせてやってください。」と、何度も、何度も、それはしつこいくらい言っていたのを思い出しました。



そのときは、お弁当を持たせるという、そんな当たり前のことを、先生がどうして何度も何度も力説するのか、それにお弁当は母親の手作りが当たり前でしょう?と思っていた私と妹は、

「先生は、なんであんなにしつこくお弁当のことを言うのかな?それって、コンビニの弁当を、そのまま持たせる親が多いってことなの?」と不思議に思って話していたことも思い出していました。



そして先生がなぜ、あれほどしつこく「毎日、忘れずに、お弁当を持たせて下さい」と言い続けたのか、こだわったのかの理由が、ここで初めて分かったのでした。

それは、事件を起こしてしまったその男の子は、毎日、お弁当なしの、お昼ご飯なしの日々を過ごしていたのです。

だから、先生は、この事件が起こった裏には、食べるということが大きく関係していると言いたかったのだと思います。



「ごめんね…と、言ったアルコール依存症の母親」

「それに最後の方は、その子ら、ご飯にお醤油かけて食べてたんやて。それが事件の起こる前に、お母さんが、その男の子に『お母さん、もう、お酒飲むのを止めるから』って約束したんやて。

そやけど、その子が家に帰ったら、お母さんは約束を破って、お酒飲んで酔っぱらっている。それにもう、お米を買うお金も酒代に消えてしまって無い。お母さんは、約束も守れん、嘘つきや…って」

と妹は私に、その子と同じ2年生のお母さんから教えて貰った話をしてくれました。


「それで、その子は、お母さんを殺してしまったん?」と私が聞くと。

「うん、そうみたい。その子と同じ学年のお母さんが教えてくれたんやけどね。そのときに、その子のお母さんが、最期に『ごめんね』って、その子に言ったらしいよ」と妹は言いました。



その話を聞いたとき、なんだか、誰が悪いとかいうのではなくて、育ち盛りのその子が、お腹を空かしているだろうに、学校ではお昼ご飯も食べずに我慢して、家に帰れば母親の代わりまでして頑張っていた。

そんなある日、その子は、お母さんから『お母さん、もう、お酒飲むのを止めるから』と聞いた時は、きっと嬉しかったのだと思います。
ホッとしたのだと思います

でも、お母さんとの約束は守られなかった…。

これは私の勝手な解釈なのですが、このときの嬉しかった分、期待を裏切られたその子の心の中に、目の前で酔っぱらっている母親の姿は、自分との約束を守ってくれなかったお母さんは、嘘つきだ。自分に嘘をついたのだと感じてしまったのではないでしょうか。

そして、それまで我慢していたものが、いいようのない激しい怒りが、抑えきれないくらい、その瞬間に大きくなってしまったのかもしれません。

そして、それは、大好きなお母さんだったからこそ、余計になのかもしれないと思ったのです。



アルコール依存症は病気です

本人がいくらこれではダメだと思っても、一刻も早くお酒を飲むことを止めたいと思っても、個人の力でどうにか出来るものではありません。

でも、悲しいことですが、子どもにはそんなことはわかりませんし、そんな知識もありません。


それに、『お母さん、もう、お酒飲むのを止めるから』は、お母さんの本心から出た言葉なのだと思います。
決して、その子に対して嘘をつく気など、そのときのお母さんの気持ちの中にはなかったのだと思います

でも、結果は悲しい事件という形になってしまいました。




それから暫くして妹一家は、旦那さんの仕事の関係で、その町から随分と離れた遠い町に引っ越したので、その後、その子がどうなったのかは分かりません。

ですが、その子と同学年の母親達が、その子のために嘆願書を出したのだということを聞きました。

その「嘆願書」という言葉を聞いて、その子は、確かに親殺しという罪を背負うことになってしまいましたが…。

それでもそれが、その子の本心から出たことではないことを理解してくれている人たちがいることで、その子の心の傷が少しでも軽くなってくれることを、そしてその子のこれからが、幸せになってくれるようにと心から祈りたいと思うのでした。





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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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