給料日前の数日間に、我が家の冷蔵庫を覗くことほど怖いことはない。
なぜって、そりゃぁもちろん『 そして何もなくなってしまったから 』に他ならない。

渋谷のスクランブル交差点に、まさかの人がいないのと同じく、我が家の冷蔵庫の中にも、賑わいと喧騒が失われてしまっては、まさに『 そして誰もいなくなった 』状態の、トワイライトゾーンの虚無が支配している、誰も存在しない都会をのぞき見ているようなものだ。

通帳の預金残高は限りなく0に近いし、手元の小銭を掻き集めても、PASMOの残高も交通費を犠牲にしてまで食べ物に化けさせるわけにもいかないので、まともな食事を期待するのは難しい。

普段の嗜好品や外食等と、高くついてしまうコンビニ弁当などを節約して、もう少し月末までの食費を捻出できるようになればいいのだが、消費税も8パーセントに上がって、様々な商品が値上げしている現状では、それも工夫するのは極めて難しい。

なるべく家で自炊して、食費を抑えようと一生懸命節約しても、先立つものが無い月末の時には、おのずと限界を実感することになってしまう。

米やパン、インスタントラーメンとカップ麺の備蓄はとっくに底をつき、小麦粉でお好み焼きモドキを作ったのは、はて 何日前だったのかと、思い出すのも面倒になった矢先、冷蔵庫の隅っこに隠れていた『 片栗粉 』と目があった時のその神々しさは、まさに救世主の輝きを放っていた。

そこで給料日前の2日間の、休みの土日の昼飯代わりの、救世主の片栗粉をなんとか調理して、美味しく頂こうと工夫して、1日目の昼食には水溶き片栗粉に乾燥ひじきの残骸を混ぜてフライパンで焼いてみた。
焼いていくうちに、半透明の片栗粉が透明度を増し、やや不気味なクラゲに似たプルプルの触感に仕上がっていく。麺つゆと塩コショー、マーガリンで味を調えて食卓へ。
食べ終わった感想は「 うぅ~ん、食感はやや不気味な感じだが、食べられなくもない。」と、まぁその日の空腹はなんとか乗り切ることが出来た。

問題は次の日曜日の昼食の時に訪れた。
昨日よりも、もっと上手に片栗粉を調理して、美味しい週末の昼を満喫しようとネットで片栗粉のレシピを探し『 くずもち 』になることを発見して「 なるほど、これなら美味しいデザートが作れそう 」と、張り切って片栗粉を水で溶いて、砂糖とイチゴジャムとみかんの缶詰のシロップを混ぜて、鍋で中火にかけてかき混ぜる、

途中から、急激に片栗粉が固まって来るので、急いで鍋の火を止めて冷蔵庫で冷やす。
冷えたイチゴジャム味のくずもちを期待して、冷えて完成した、薄ピンク色のクラゲに似たくずもちを食べてみる。

うっ!・・・・・・・・・・・・・・

まっ、不味い・・・・。

期待していたような美味しいデザートとは程遠い、不気味な触感とグロテスクな見た目の、およそ食欲の減退する匂いの、この世のものとは思えないほどの仕上がりに幻滅して、ふた口ほど食べて諦めてしまった。

これほど不気味で不味いものを、私はこの世に生み出してしまったのかと後悔し、嫌な匂いを放つ失敗作のクラゲの化け物の残骸を処分しながら、今後どんなに腹が減って苦しくとも、二度と片栗粉を単独で食べようなどとは思ってはいけないし、自分でくずもちを作ろうなどとチャレンジしてはいけないのだと、固く心に誓った恐怖に満ち溢れた月末の土日の出来事であった。


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