クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーと続く冬のイベントを、例年と同じように、全く何も無いまま、ただ見送っただけの虚しい日々を過ごす三十路過ぎの独身男性、それ俺、な訳ですけれども、深更、暖房代をケチった故の冷たい部屋の一室で、改めて己を振り返れば、あの時、もっとこうしていたらイケたんじゃないか、違う展開が待っていたのではないか、あの子と幸福な未来を構築出来たのではないか、そう自責の念に駆られてしまうのです。

季節は巡り、また春がやってきます

福岡ダイエーホークスの女

大学の友人の元カノは大の福岡ダイエーホークスファンであって、好きな選手は当時、控え捕手でありつつ左の代打の切り札として活躍した“坊西浩嗣”とかなり趣味の良い女子でした。自己紹介で聞いた時から、私は彼女にとても好感を抱いていました。

私は彼女と二人でホークス戦をドームに観に行きました。行きのバスの中で、彼女が話した内容は、そのほぼ全てが別れたカレシ、つまり私の友人に対する呪詛、怨嗟、憤懣を赤裸々に露呈した直情的な悪口に占められていました。

まあ、アイツもそういうところあるよね、確かに、なぞ適当に追従する相槌を打っていた当時の私は、その止む事無く次々繰り出される悪口、それは彼女にとって初めてのカレシだった友人への抑え難い未練の発露、感情の裏返しだったことに、全く気付いていなかったのでした。そう、あいつ全然デリカシーが無いんよ、俺のプッチンプリン黙って食いやがってさ、マジでイラつく、くそ、とまるで彼女の本心とは見当違いの言辞で応じていたんです。

「ねえ同じクラスの○○ちゃん、わかるやろ。女子の間で可愛いって人気あるっちゃん。どう思う?」

帰りのバスで些か唐突に訊かれました。私は忌憚ない意見を述べました。

「ああ、わかるわかる。ぽっちゃりしとる子やろ。自分では痩せたら可愛い、って思ってそうやね。そういうのが一番むかつく。いやいや、痩せてねえし、現状ただのデブやし。で女に人気がある女って、男からしたら全然魅力無いんよね。俺は女に嫌われる女?ぶりぶりの子の方が断然好きやね」

彼女は悲しい表情を見せると数秒間絶句し、なにか諦めたように話題を変えました。おそらく彼女は、私に好意を寄せていたと思しき○○ちゃんから、脈があるかどうかを訊くように頼まれた密偵だったのでしょう。きっと。その可能性に後から気付いた私は、一旦は悪し様に罵ってしまった○○ちゃんが、それから可愛く見えて仕方なかったのです。

松中の女

「あの子ね、あんたの事、いま二番目に好きらしいよ」

一番はサークルの先輩らしくて…、細マッチョがタイプなんやって、有益なのかどうか良くわからない情報が、友人の元カノから届けられました。あの子、とは同じバイト先のラーメン屋で働く同い年の女の子の事です。彼女は友達の元カノとたまたま同じサークルに所属しており、二人は顔見知りでした。

「昨日ね。テレビでホークス観たよ。全然ルールわからんでねむかったけど“松中”って人だけ覚えた」

あっそ、彼は球界を代表する左バッターだ、バイト中に話し掛けてきた彼女に素っ気なく言いました。こっちに話を合わせようと努力する姿勢にいじらしさを感じはしたものの、彼女はどうも何だか気味悪い存在だったのです。まあ、彼女にしても私はあくまで二番手に過ぎなかったそうですが。

「黄色い服の女性店員がじっと見つめてきて、とても気持ち悪い。二十代、男性、会社員」

ラーメン屋のアンケート用紙に書かれていました。明らかに彼女の事でした。男性に対して興味津々の時期だったのでしょうか。気色悪く感じたのは私だけでは無かったのです。

プロ野球チップスの男

「はっ、はい。私は、周囲が学校から禁止されているシャープペンシルを使用しているのにも関わらず、空気に流されず頑なに鉛筆を用いる非常に真面目な性格であり、…ええ、あの、趣味はプロ野球チップスに付いてくる選手のカードを集めることで、その、カードホルダーに丁寧に分別し…」

就職活動で見事に全滅していた私は、誰でも受かると噂された大量募集のインターネット関連会社での面接で、自分でも何を言っているのかさっぱりわからぬ自己PRをどもりながら喋って冷や汗をかいていました。対照的に同じく面接を受けていた隣りの女子大生は、学園祭の実行委員として貴重な体験をし、サークルでは部長を務めリーダーシップを発揮し、すらすらと澱みなく落ち着き払って答えていました。

「ねえ。あなたみたいな人、初めて見た。めっちゃ面白い」

面接終了後、一緒に会社を出て、すごいすね、完璧でしたね、と話し掛けました。ひとまず終わった安堵で幾分気分も高揚しており、その女子大生に近くのベンチに座るように促すと、その女子大生も野球が好きで、ホークスの城島が好きだ、とのことで会話が弾みます。

「なんか面接の時とは別人やね。全然ちゃんと話せるやん」

実は理系なので本当は研究職がしたい、今日の会社は言い方悪いけど万が一の滑り止め、彼女からそんな事も聞いて、番号交換をして別れました。そして数週間後、私の手元に不採用通知が届きました。誰でも受かる、イコール、なに喋っても受かる、では無かったみたいです。或る程度、落ちる予感はしていましたが、矢張り人並みに絶望しました。

「わたし受かったよ。まだ活動続けるけど」

彼女から届いたメールに、卑屈な態度を全開にした私は「おめでとう。俺、落ちた。全て。これから養ってくれませんか?ところでクリスマスはどう過ごしたと?グッドルッキングガイと聖なる夜?あっ、もしや漢字が違う?」といった自分が読み返してもこの上なく気色悪いクエスチョンマークだらけのメールを送信し、勿論それっきり関係は途絶えたのでした。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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