散る桜のこる桜も散る桜・・遠い昔の話です。

戦艦大和は昭和45年4月(終戦の年)に山口県下関沖から、戦艦十隻の旗艦として沖縄に向かう途上米空軍機の総攻撃により全艦隊があえなく沈没しています。しかし、その悲劇的末路にも拘わらず、戦艦大和は、戦後も長く日本人の記憶に止まり、ときにはアニメの素材になって一大人気になったこともありました。
 
戦艦大和は、正しくは戦艦ヤマトと書くものと屈託なく思っている人もいるのです。テレビアニメの宇宙戦艦ヤマトを夢中で観て育った世代なので無理からぬことです。宇宙戦艦ヤマトも悲劇の戦艦ではありました。破滅の危機に瀕した地球を救うために使命を帯びて宇宙の果てのイスカンダルに飛び立ちます。

地球を救うレシピを入手するために、地球に残された最後で最強の宇宙戦艦ヤマトとその乗組員だけで群がる敵を蹴散らしながら、時には絶体絶命の危機に遭遇し、それを切り抜けて目的を達成、代償に戦艦ヤマト自らは巨大惑星もどきの敵戦艦に突入・・悲劇的な終わりを遂げるというものです。

敵も味方も、善も悪も、実はただ立場の違いだけで・・・ストーリーは波乱万丈、宇宙戦艦ヤマトは日本旧海軍のどんな戦艦より、これを観ながら育った人達にはリアルで実在感があり、悲劇的でありながら爽快感のあるストーリーだったようです。
 
それに比べてというのも憚られますが、旧日本海軍の実在した戦艦大和の最後は一体どのようなものであったのか、その悲劇の顚末を、戦艦大和の実在の艦長、伊藤整一の最後の手紙、妻に宛てた遺書ともいえる一文を交えて、ここに紹介したいとおもいます。

「いとしき最愛のちとせどの この度は光栄ある任務を与えられ、勇躍出撃、必成を期して(必勝ではありません)致死奮戦、皇恩の万分の一に報いる覚悟に御座候」
 
という書き出しですが、致死奮戦と言うとおり死を覚悟しています。それも修辞的な死ではなく自分の確実な、避けがたい死を知っていたのです。だから遺書でもあったのです。この手紙を書いた当日の朝、伊藤整一艦長は山口県の徳山沖に停泊中の戦艦大和に客を迎えています。連合艦隊参謀長、草鹿龍之介で、連合艦隊命令書を携えて来ていたのです。

その日は日本が敗戦を受託した昭和二十年八月十五日の、わずか四ヶ月前の四月五日でした。その命令とは片道燃料で旗艦大和以下10隻・総乗組員七千名をもって四月八日未明に沖縄方面の米軍を攻撃せよ、というものでした。伊藤は即座に強く反対しました。空から艦隊を援護できる飛行機など一機も無かったからです。

その後集結した他の戦艦九隻の艦長、指令のことごとくも、「それは犬死だ」と反論続出だったそうです。この大戦は一昔前とは大きく違って航空機の援護なしで戦艦だけで出向くのは犬死に他ならなかったからです。為す術もなく敵機に撃沈されるのは火を見るよりも明らかだったからです.。 . この会合に陪席した草鹿龍之介は皆の意見をじっと聞き、おもむろにいいました。

「これは、実は連合艦隊命令で、諸君にはこの戦局で、一億総特攻のさきがけをお願いしたいのだ」と暗い声で申し渡したそうです。

このころ真っ盛りだった航空隊の片道燃料による敵艦船突入自爆の特攻隊になぞらえたものだったようです。全員、しばし声もなかったそうですが、伊藤整一艦長がついに頷いたそうです。「わかった、それなら承った」と。

それで一同は解散し、八日の未明に沖縄に向けて出撃したとのことです。ご存知の方も多いと思いますが、戦艦大和は日本の技術の粋を集めて建造された、当時としては世界最強といわれた軍艦だったのです。

しかし、戦時の時間経過は早く、その時はもう戦艦は航空機の敵ではなく、自軍機の援護なしでは戦えない不備な存在だったのです。 戦艦大和を旗艦とした10隻の船団は沖縄の海域に達する前に数十機の米軍機の攻撃で敵に対する反撃もむなしく全艦隊沈没しています。

将兵の無念はいかばかりだったか。それにしても、日本の戦争指導者は、このとき既に、敗戦を期し、その時期を少しでも引き延ばすためなら、人も戦具も消耗し尽くすのを異としなかったようでした。伊藤整一艦長の妻にあてた短い手紙の続きを以下に写します。

「この期に臨み、顧みるとわれらふたりの過去は幸福に満てるものにして、また私は武人として重大なる覚悟をなさんとする時、親愛なるお前様に後事を託して何ら憂いなきは、この上もなき仕合せと衷心より感謝致しおり候。お前様は私の今の心境をよく御了解になるべく、私が最後まで喜んでいたと思われなば、お前様の余生の淋しさを幾分にてもやわらげることと存知候。心からお前様の幸福を祈りつつ 四月五日 いとしき 最愛のちとせどの 」

いにしえの武人の心意気を感じさせる簡潔な別れの手紙であり、遺書に他なりません。


戦艦大和の最後、知ってますか?

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まじ 東風 このユーザーの他の記事を見る

八ヶ岳南麓に隠棲。世事にまだ興味深々。

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