帰還不能点という言葉があります。航空用語で帰りの燃料がなくなる限界点のことです。喧嘩で言い過ぎてもう元の友達に戻れない、言ってはいけない言葉を発したときがPONR(Point Of No Return)越えになります。昔のハリウッド映画の西部劇などで、殴り合いの喧嘩をするシーンがありますが、その直前、双方のセリフを注意深く聞いていると、PONRが必ず見付かります、それを契機に殴り合いが始まるのです。政治交渉においても、古くから、このセオリーは有用視されています。交渉相手の発する言葉にPONRの有無を探り、相手の本意を知ろうとするものです。

日本の戦国時代にも智将といわれた武将なら必ず心得ていたキーワードだったはずです。よく言われるように、石田三成は官僚で智将ではなかったために、徳川家康の挑発に乗りPONRを越えて関ヶ原の戦場に引き出され、敗れたのでした。昔も今も、戦争を仕掛けようと企んでいる、かに見える近隣国はどこにでもあるのですが、外交交渉の言葉の中に相手の本気度を見る事ができるかも知れません。ゆめゆめ三成の轍をふまないことです。

「驕れる平家は久しからず」と慣用句にありますが、どのような繁栄も栄華も長く続くものではない、と解釈すると、いかにも日本人らしいネガティブ・コメントにきこえますが、この真理は、けだし、古今東西、どの文明の消長にも当て嵌まるように思えます。長続きしないだけではなく、ノーリターン、決して復活していない、というおまけも付いています。厳然としたセオリーなのです。古代エジプト王朝、インダス文明、中華文明、ギリシャ文明、ローマ帝国、マヤ文明、中世ヨーロッパ文明、イギリス帝国主義・・・ひとつとして復活したものはありません。

今は、過去には存在もしていなかった国アメリカが、新しい文明を築いて繁栄の絶頂にあります。資本主義文明で、そのリーダーになって世界を牽引しています。対抗馬だったはずの共産主義はあだ花で、一瞬の栄華も紡ぐことはありませんでした。共産主義のフラッグを掲げた国のひとつは崩壊し、もう一つの中国はアメリカ資本主義に取り込まれ、今後どのように変容していくのか行き先知れずです。驕れるものも驕らないものも久しからずで、歴史は次のページに進んで行くようです。

冒頭に述べた帰還不能点に類似の言葉で、攻勢終末点というのがあるそうです。こちらは軍事用語で、戦には攻勢のピークがありそれを見分けるケーススタディで士官学校では必須教科だそうです。簡単にいうと戦争にも、攻勢(上り)・ピーク(頂)・退却(下り)が必ずあり、ピークが攻勢終末点で、それを見極めれば戦いに負けることは少ないというものだそうです。詳細は知りませんが、第二次大戦で日本は緒戦優勢でしたが、太平洋海域のどこかで攻撃終末点を迎え、その時点で多少不利な条件でも休戦に持ち込むべきであった、とデモシカ論を(自衛隊では)学習しているそうです。

経済学は、このセオリーを採用して、好景気が続くと必ず攻撃終末点が訪れ、それを見逃して商いするのを戒めています。バブル崩壊前に不動産を売り抜けることを考える人は多くても、実行できた人は少なかったそうです。アメリカの国勢を傍観的に、二十世紀初頭から上り百年、最近の、あるいは近未来のどこかでピーク(頂)、その後下り百年と予測する人もいるようです。アメリカの上り百年の後半を共にして来た日本は、戦々恐々です。攻撃終末点は必ずあるとされているからです。知らぬ間に通り過ぎているのかも知れません。今のアメリカの重心はもう右肩さがりという人もいるからです。

帰還不能点 (Point Of No Return)

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まじ 東風 このユーザーの他の記事を見る

八ヶ岳南麓に隠棲。世事にまだ興味深々。

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