ガン・終末期患者の試薬治験・ミステリー

前回はアメリカ東海岸のニューヨークの医者の話でしたが、今度は西海岸のロスアンジェルスの大学病院、UCLAで行われた新薬治験の奇怪な出来事を紹介したいとおもいます。

新薬治験とは製薬会社が新薬を作るとCDC〔日本の厚生省に相当する役所)の販売許可を得るために薬効を証明する人体実験を行う必要がありますが、その新薬の試用試験のことです。試薬を行う人数は不定ですが、この大学病院で行われたのは40名でした。それをAB二組に分け、Aには新薬を投与し、Bにはプラシーボ(偽薬、ビタミンなど無害なもの)を投与します。

このときの治験薬は進行した肺がんの腫瘍をも消滅させうる、という画期的な効能が期待された新薬で、試用する予定者は当然ながら40人全て進行性肺がん患者ばかりでした。治験B組を担当したのはインターンの女医でした。

A組を担当したのは中年の内科医でしたが、こちらが偽薬組という噂が流れていました。というのは、全ての治験は盲検といってどちらの組が本物の薬をを投与されるのか、担当医を含め、誰も知らないことになっているのですが、そこはいずこも同じで、情報は漏れることになっていて、この時はA組が偽薬組と信じられていました。

いよいよ治験が始まる当日、一人の患者がB組担当の女医のところに訪ねてきました。末期の肺がん患者で寝たきりだったはずの本人がやってきたのでした。「先生、私も治験組に入れてください」と涙ながらに懇願しました。「見殺しにしないでください」といい、さらに自分は誰よりも悪い進行がん患者だ、新薬を試す権利があるはずだと主張するのでした。なぜ彼が選ばれなかったか想像はつきましたが、女医は半ば同情してこの患者を21人目に加えました。

治験はおおむねいつも通りに進み、結果はA組20名中8名に腫瘍の後退がみられ、B組21名中12名がやや顕著な病状の好転がみられたというものでした。この新薬治験は全米の数十の病院で行われたもので結果の成否が通知されるのは先のことになります。

ただ、B組21番目の患者については担当医もわが目を疑うほどの目覚しい病気の改善が見られたのでした。肺に点在していた腫瘍の多くが消えて、残ったものも縮小しつつあるのがあきらかとなっていたのです。とても喜ばしいことに違いはなかったのですが、この事実が女医にとって頭の痛い問題となったのです。

医者の間だけに伝えられたのですが、B組の患者に投与されたのは、実はプラシーボだったのです。あの21番目の患者の回復振りは一体なんだったのでしょう。医者のあいだでもこの事実は伏せられ患者に伝わることはありませんでした。

21番目の患者は、3ヵ月後に、なんと病院を退院したということでした。素晴らしい新薬のお陰でガンが治ったと信じたがゆえに完治したのでしょうか。

この話には続きがあり、少し怪しいオチがあります。同じ年のクリスマス前日、大衆紙の片隅に小さな記事が載りました。「期待の新薬xxは治験に不合格、効果は薄く不認可」その故かどうか、21番目の患者は間もなく病気が再発、翌年には亡くなったと伝えられています。



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まじ 東風 このユーザーの他の記事を見る

八ヶ岳南麓に隠棲。世事にまだ興味深々。

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