秋風は16歳の少女だ。

9月中旬の学園祭が終わり充実感と落ち着きに満ち溢れた日々を送っていた。

兄が秋風の演奏を大層喜び

プレゼントをくれたり親切になったのだ。

エスがくれた様に、女の子用のハンカチや筆箱だった。

女の子用のプレゼントを買う17歳男子はなかなか様になるなと

秋風は思った。秋風の兄とエスは同じ年で時折似た動きをした。


「僕の友達はみ~んなみ~んな!秋風が好き」と

兄はいい、みんなに好かれると相乗効果で人気が増すな!

それとは逆に失う時は湯水の如く失う物だろうと秋風は思った。

17歳のもしかすると天才だった少年エス

昨日まではエスは秋風の中では17歳の天才少年だった。

そのエスがお茶の水にくるというので、秋風は出ていった。

「これお兄ちゃんにもらった」とスヌーピーの筆箱を見せると

ふ~ん!とエスはつまらないという顔をした。

秋風はあちらこちらの家を移動して育ったのでプレゼントを持ち歩く癖があった。


「僕は将来は妹にも家を買ってあげるつもり」と

エスはもうとっくにいない妹のことを言った。

秋風の兄は中一から父親に家をもらって一人で住んでいた。

兄からもらったスヌーピーの筆箱はピックを入れる部分があり

蓋になっていた。秋風はそれを開いてエスにピックを見せた。

「ほら!ここにピック入れられるんだよね!」

「全部僕があげたピックじゃないか?」とエスは言った。

秋風はその筆箱を気に入っていた。


エスはギターの弦を買うと秋風にもくれた。

秋風はこれからは自分も人にプレゼントができる大人になろうと思った。

もらって嬉しかったのだ。

「そろそろもっと固い弦を張ってみな!違った音がでるから!」とエスは言った。

0・09から0・1に弦が固くなった。

「ほら!エス!これみてみな!!」

秋風はカチカチになった左手の指先全部を見せた。

「馬の蹄みたいで押えやすいよ!」と秋風は手をエスに見せて言った。

「なんでそうなるんだろ?そこまで力入れなくても

音が出るはずだよ」と言って自分の右手の指先を

秋風の固まった指先に合わせた。エスの指先はまったく固くなっていなかった。

「じゃ~僕帰るよ」とエスはいい

すぐ解散になった。

秋風は暫く雑踏の中のエスの後ろ姿を見ていた。

エスは振り返った。

こっちこっちと呼んだので

秋風はエスのところに行きふたりはまた一緒に歩いた。

気づくとまた

場所は再びキューポラの街だった。

「エスは自分の家が好きだね」秋風の漠然としたエスへの感想だった。

他にどこにも行かなかったのだ。


秋風が帰ってしまうと来てくれたのが嬉しいのか?


帰ってしまったのが淋しいのか?わからずにそれでも

僕は泣いている


というエスが秋風に書いた交換日記の最初のページの文章を思い出していた。

本当は来て欲しいんだろうなと秋風は思った。

しかし

「今日はうちにはこないで!」とエスは言った。

「なんでさ!なんでじゃ~こっちこっちって呼んだのさ!」秋風は言った。


「今日はね!!実は女子大生がくるからこないで」とエスはニヤリと笑って

足早に歩きだした。


秋風はこのまま帰る気がしなかったので

エスについて行った。


エスは時折振り返りそれでもさらに!足早に歩いていくので

秋風は小走りでついて行った。


エスは立ち止まった。

「今日はこれから女子大生と性交渉をするからこないで」とエスは笑った。

「ちくしょう!負けてたまるか?」と秋風は思ったが

勝ちたい相手は女子大生ではなくてエスだった。

このまま引き下がったら負けだと思ったのだ。

生きるとは戦う事だ!と秋風は思った。


秋風はなんとか勝ってから帰ろうと思った。

エスは時折振り向いた。

まだいるけど??なにか???!と秋風は思った。


「じゃ~ね!じゃ~ね!!僕には性交渉があるから!」

エスは立ち止まった。

「10分で終わるから待ってるよ」秋風は言った。


前回はこれでエスは負けて家のドアを開けた。

しかし

「性交渉は10分では無理なの!!」エスは言った。

「じゃ~何分?」秋風は聞いた。

「24時間!ず~~~~と」と

エスは勝ち誇ったように笑った。



秋風は前方に交番を見つけた。

少し離れたところに交番はあった。

若い街のおまわりさんが暇そうに

喧嘩して縦に歩いてる2人を見てたので、

「おまわりさん!!あの人高校生なのに性交渉ばかりしてるので

逮捕した方がいいです!」と秋風は大きな声で言った。

エスはびっくりして戻って来た。

おまわりさんは少し驚いていたが、身元調査が始まった。

エスはカバンの中から生徒手帳を出した・・・

おまわりさんは、二人の顔を交互に見て

「キミ?優秀なんだね?」とエスを逮捕するどころか?褒めている。

「貴女も生徒手帳?」とおまわりさんは言った。

おまわりさんは再びふたりの顔を見た。

「ほ~なるほどね・・・!ちょっとキミたち勉強で疲れちゃったかな?

頑張ってね!」と釈放された。

エスはため息をついていた。

誰もいないエスの家が秋風には淋しく映った。

エスはまだため息をついていた。

「女子大生がくるから帰るね!」秋風は潔く立ち上がった。

「うん」エスは小動物を見るような目で秋風を見た。

エスが指摘する様に下を見て歩く自分に秋風は気づいた。

上を向いて歩きな!とりあえずそれだけ・・・

エスの手紙の活字を思い出していた。

今ごろエスは女子大生と性交渉をして幸せであるはずだ!と秋風は思った。

エスが一人でいるよりはずっといい、自分にはまだまだエスを完全に救う力はないと秋風は思った。

エスは秋風が二本の足でちゃんと歩いて行けるのか?見てると書いてあったし

まだまだ歩けてないので女子大生がくると言ったのかもな?と思った。

だから秋風はエスの家をすぐに出たのだ。

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