トンネルの先の町

私が小学校低学年の頃だからもう15~6年前の話です。私の実家はド田舎にあるのですが、家の裏手に山があります。あまり人の手も入っておらず、私はよく犬の散歩で山の麓や少し入った山道を歩いていました。梅雨が明けて暑くなりだした頃だから7月だったと思います。いつものように山道に入っていくと犬が急に走りだそうとするんです。よし、じゃあ走ってみようか!って一緒になって走って気が付いたらいつもより険しい山道に入ってしまったようでした。15時くらいに家を出たので、まだ明るい時間帯のはずなのに山の中は薄暗く不気味に感じました。元来た道を戻ろうと引き返し始めると、途中で道が途切れてしまいました。かなり出鱈目に走り回ったから場所も方角もわからなくなってしまったわけです。少し涙目になりながら、それでも下に下に降りていけば山からは出られると思い草だらけの道無き道を犬と一緒に降りていきました。しばらく山を下りていくと段々と周囲が明るくなり夕焼けの色の空が木々の合間から覗きます。こんなに時間が経っていたのか、早く帰らないとお母さんに怒られる、そんな事を思いながらさらに山の麓を目指しているとトンネルの脇に出ました。トンネルの向こうからは夕焼け色の光が見えます。人工物を見つける事が出来て安心した私はそのトンネルを抜ければどこか知っている道に出られると思いトンネルの中を犬と一緒に走りました。トンネルを抜けるとそこには緩やかな盆地に作られた町のよう。家が沢山あり夕焼けが屋根を照らしています。こんな町があったんだなぁ、と少し興奮しながら山の麓に下りる道を聞こうと私は町へ向かいました。トンネルから町に入る道の右に民家があって、少し離れた場所から道の左右にズラッと家が並んでいるのがわかります。町に近付きながら誰かいないかな、と思っているとトンネルから一番近い民家からおじさんが一人出てきました。犬を連れた私が近づいてくるのを見て笑顔で挨拶してくれます。私も挨拶を返した後、麓に下りる道を尋ねました。おじさんは不思議そうな顔で「君が今来たトンネルを抜けてそこから山道を下れば麓に出られる」と教えてくれました。この町を抜ける道を聞きたかったのですがまぁいいかと思い、礼を言って引き返そうとするとおじさんが私の名前を尋ねてきました。私は山の近くに住んでいます○○です、と答えるとおじさんは納得したような顔で頷きながら「ここら辺は夜になると野良犬がうろつくから早く帰った方がいいよ」とトンネルを指差します。私は再度礼を言ってトンネルに引き返しました。途中で振り返るとおじさんが私を見ながら手を振ってくれたので、私もお辞儀してから手を振り返しました。トンネルに入る前にもう一度振り返るとおじさんはまだ家の前にいたので、また手を振りながらトンネルに入りました。そこからトンネルを抜けて山道を下っていくと周囲がさらに明るく開けて山の麓の知っている道に出ました。今日は歩き回ったね~なんて犬に声を掛けながら家に帰る途中で、まだ夕日が照っていない事に気付きました。あれ?とか思いつつ家に帰り着いたのは16時半くらいでした。家に帰ってから母にその日の冒険の事を話すと「そんな町あったんだねぇ」と不思議がっていました。夜になって父親にもその話をしましたが「山の中にそんな町あるわけない」の一点張りで、さらにあまり山の中でウロチョロするなと軽く叱られました。私はもう一度その町に行こうと思ったのですが、トンネルもそのトンネルから麓に下りた道も見つける事が出来ませんでした。その年のお盆、家族や祖父母と一緒に墓参りに行きました。それまでに数回訪れたことのあるはずの墓地を見た瞬間、妙な既視感を感じました。なだらかな丘に道がありその左右に墓が並んでおり、そして墓地の入り口から一番近い墓が私の実家の墓です。当時の私はそれを理解してから本気で泣きました。理由を聞いて祖母が「そのおじさんにしっかりお礼言わなきゃね」とお墓を磨かせてくれました。あの時のおじさんの顔はぼんやりとしか覚えていません。しかし最近歳をとった父親の顔を見ると、こんな感じの顔だったなぁなんて思います。あまり怖くなくてすいません。ただ、もしそのおじさんに出会わなかったらを想像すると今だに私は怖いです。

牛の森

俺の地元に牛の森と呼ばれる森がある。森から牛の鳴き声が聞こえるからそう呼ばれている。聞こえると言われている、とかそういうレベルじゃない。本当に聞こえる。俺自身も何度か聞いたことがある。牛の森の奥には秘密の牧場があるとか、黄金の牛がいるとか、そんな都市伝説めいた話も存在する。そんなだから好奇心旺盛な子供が、牛の森に入って迷子になるということがかなりあった。学校では迷子が出るたびに牛の森には入らないように注意され、地区の町内会でも子供が牛の森に入らないように見回りをしていた。そういう努力もあり、牛の森で迷子になる子供はほとんどいなくなった。しかし、俺が5年生になる頃、牛の森に猿が住み着いたという噂が立ち始めた。そうなると子供だけじゃなく、そういうことが好きな年寄りも牛の森で迷子になるということがあった。俺も猿を見たくて友達と牛の森の周りをよくうろついていた。5年生の夏休みに、友達とまた牛の森の周りをうろついていると、ついに猿を見つけた。猿は俺達に気がつくと、右手で木にぶら下がりながら左手でクイックイッとおいでおいでをしてきた。俺と友達は、「何だあの猿wwすげぇな~ww」と興奮し、自転車を止めて牛の森の中へ入っていった。猿はすごいスピードで木から木に飛び移り、俺達が追いつくのを確認すると、また木から木に飛び移っていった。俺達は夢中で猿を追いかけた。どれくらい走ったかは覚えていないが、かなり森の奥に来たところで、小さな牧場を見つけた。牧場といっても、本当に小さい。小さめの公園くらいの広さだ。不思議な場所だった。周りは木が茂っていて、空は葉で覆われているのに、そこだけ空にポッカリと穴が開いたように陽の光が射していた。周りを柵で囲まれ、中には4頭の牛おり、小さな小屋があった。俺は言葉が出なかった。ただただ感動していた。本当に牛がいたことに。どこか神秘的なこの場所に。しばらくして、急に猿がキーキー鳴き始めた。すると、小さな小屋のドアが開き、中から老婆が出てきた。こう言っちゃ悪いが、猿のような老婆だった。(もしかして、あの猿のお婆さんだったりしてw)失礼なことを考えていると、老婆はニコニコ笑いながら、あの猿と同じように左手でクイックイッとおいでおいでをしてきた。俺はこの場所に興味津々だったから行こうとすると、友達が急にその場から逃げ出した。どうしたんだ?と思ったが、一歩近づいてすぐに了解した。俺の位置からは牛と重なって老婆の右手が見えなかったが、老婆は右手に牛の首を持っていた。一瞬時が止まったが、すぐに俺も友達の後を追うように逃げだした。足場は悪く、周りは木が茂っているのでうまく走れない。それでも、とにかく全力で走った。後ろから誰かが追いかけてくる気配がする。後ろを振り向きたい衝動に駆られるが、後ろを振り向いたらいけないような気がしてならない。あの老婆がニコニコ笑いながら包丁を持って追いかけてくる姿が容易に想像できる。前を走る友達が不意に後ろを振り向いた。俺もそれにつられて、つい後ろを振り向いてしまった。そこに老婆はいなかった。代わりにあの猿が追いかけてきていた。猿はあっという間に俺達に追いつくと、俺達の右側の木に飛び移りキーキー鳴いて俺達を威嚇してきた。手は出してこない。ただ鳴いて威嚇してくる。猿に気を取られながらも必死に走っていると、何かが見えてきた。さっきの小さな牧場だ。どうしてだ?と困惑しながらも、

今度は俺が先頭になって逆方向へ走りだした。また猿が右側の木に飛び移りキーキー鳴いて威嚇してきた。しばらくすると前の方に陽の光が射す場所が見えた。あの牧場だ。俺は足を止め、泣きそうな顔で後ろを振り向いた。友達も泣きそうな顔をしていた。俺達は数秒、顔を見合わせていたが、「逃げなきゃ・・・。」という友達の声で、また逆方向へ走りだした。相変わらず猿はキーキー鳴いて俺達を威嚇する。右のほうから微かに声が聞こえた。俺達は足を止め、進行方向を右へ変えた。「お~~~~い、森へ入っちゃダメだぞ~~~~、すぐに出てきなさ~~~~い。」今度ははっきり聞こえた。俺達は声にならない声を上げ、その声の方へ走った。牛の森の入口付近に顔見知りのおじさんを見つけると、俺達は泣きながらそのおじさんにしがみついた。おじさんは自転車が牛の森の前で止まっているのを見つけたので、声を上げていたという。おじさんと一緒に牛の森を出ると、あの猿のキーキー鳴く声が聞こえた。牛の森のほうを見ると、猿はまた右手で木にぶら下がりながら左手でクイックイッとおいでおいでをしてくる。俺達が怯えるのを見て、おじさんが「オラァァァ!!」と猿に向かって叫ぶと、猿はびっくりして牛の森の中へ消えていった。俺達は牛の森で見たことをおじさんにも親にも話したが、信じてくれたのかどうなのか曖昧な感じでよくわからない。学校の友達に話すとその話がかなり広がり、老婆にボディブロー入れたとか、老婆に焼肉ごちそうになったとか訳のわからないことを言いだす奴も出る始末。それ以来、牛の森には入るどころがほとんど近づかなくなったので、あの猿と牧場と老婆の真相はわからない。森の奥で牧場をを営んでる変わり者のお婆さんだったのか、それとも・・・・・。

調査会社

怖い話というか,なんというか・・・とりあえず,書いてみる。俺は,とある調査関係の仕事をやっている。4年ほど前に引き受けた調査で,労災関連の話があった。ある会社で,事故があった。ローラー車というのかな,地ならしする大きなローラーが前についた車に,女性従業員がひき殺されたって事件だった。保険の支給の関係上,事故の概要調査や,遺族の意向を聞く必要があった。で,俺は,遺族の話を聞きに,女性従業員の実家へと車で向かったんだ。関西の方だが,俺自身は,初めての地域だった。元々漁村だったこともあり(今も釣り客は多いみたいだが),潮の香りに満ちた,何というか集落というのは,こういうところを言うんだろうなと思った。 人通りもほとんどなく,天気が良い。昔ながらの家々が建ち並び,なんだか郷愁を誘う。ただ,結構道が入り組んでたり,一方通行が多かったりするんで,ナビではこれ以上無理と思い,車を空き地のようなところに停めて,俺は徒歩で家を探すことにした。しかし,見つからない。15分ほどさまよっただろうか,いったん車のところに戻ってきた俺は,道を尋ねることにした。ちょうど,女性が洗面器のような物を持ってテクテクと前を歩いている。不審者に思われないよう,「あの~,すいません,ここらにお住まいのAさんのお宅はどちらでしょうか?」と聞いた。前を歩いていた女性が振り向く。俺は,心臓を鷲づかみにされた気がした。普段着であるが,後ろ姿は,取り立てて特徴があるわけではない。しかし,振り向いた顔は,唇がベロリとめくれ,歯が何本も抜け落ち,顔全体がいびつな歪み方をしている。右目は血走ってギロリと見開かれているが,左目は見えているのか怪しいくらい瞼が落ちている。後ろから見た髪は,取り立てておかしな様子もないのに,前髪は,気の毒なほどに荒れ果てている。顎の形もおかしい。左から右へグリッと突き出したような形状で,不自然なほど左の頬がこけている。 まるで,そこだけ中身がないかのように。昔,グーニーズという映画で,スロースという登場人物がいた。第一印象は,子供の頃に見たそのスロースだった。いや,スロースをもっと歪ませたような・・・。俺は,おもわず目を背けそうになったが,それは失礼だ。何もなかったように,「ご存じですか?」と聞いた。「・・・あっでぃ。」女性は,自分の進行方向に向けて指を指した。

声を出すのが,かなり苦しそうだった。「すいません,助かります。ありがとうございました!」俺は,そう言いながら一礼し,女性に教えてもらった方向へ早足で歩き出した。作り物の怖さではない。こののどかな風景に,今し方出会った現実の女性が,あまりにも不釣り合いに思えた。カバンを持つ俺の手が,少し震えているのが分かる。何かの病気だろうか。生まれつきの障害だろうか。年齢ははっきり分からなかった。後ろ姿は,それなりに若く見えたのだが,顔を見ると,若いとも思えない。俺は,後ろを振り返ることなく立ち去り,目的の家へとたどり着いた。遺族の方は,かなり興奮しているだろうと思っていた。だが,実際は,冷静に事実を受け止め,お金はどうでもいいんです,という態度だった。話に入る前に,お焼香をさせてもらう。遺影を改めて見ると,綺麗な顔立ちの人だ。会社の関係者から先に聞いた話によると,事務員として勤めるようになってから,既に3年。年配の従業員が多い職場だったが,みんなに可愛がられていたとのことだった。特に,事故を起こした従業員は,自分の娘のように可愛がっていたとのことで,「ワシの息子が独身だったら,絶対に○○ちゃんと結婚させるがなぁ」と日頃から触れ回っていたとのことだった。その分,悲しみは異常なまでに深く,当の従業員自身は,事故後に,自殺まで図り,現在でもほとんど放心状態で過ごしているとのことだった。会社の方も,誠意をもって対応していたようだし,お母さんから恨み辛みは聞かれなかった。保険金額について争うとかも考えていないようで,ただ,娘が可哀想に・・・嫁にもいかないで死んでしまうなんて・・・と,そう話すお母さんの言葉に,俺の言葉は詰まった。調査如きを行う立場でしかない自分にとって,大したことなど出来ないが,できるだけお母さんの力になってあげたいと思った。長らくこの仕事をやっていても慣れないこの感覚を抱えたまま,俺はお母さんにお礼の言葉を述べ,実家を後にした。ふと思った。車の方へ続く道には,さっき会った女性がいるかも知れない。体中が総毛立つ。顔を合わせればお礼の一言も言うべきだろうが,正直言って会いたくない。何というか,本能が拒否している感じだった。だけど,土地勘のない俺にとっては,来た道を引き返すしかない。努めて冷静に,俺は引き返していった。幸い・・・と言ったら失礼だが,女性に会うことはなかった。俺は,安堵しながら車に乗り込もうとしたが,車のボディに,いくつも手形がついている。薄汚れた茶色っぽい手形が,ボンネットに数カ所,運転席側のドアに数カ所ついている。白いボディだから,とても目立つ。俺は,車から汚れとりのウエットシートを取り出し,目につく箇所を拭いた。幸い,汚れはすぐにとれた。車上荒らしかとも思ったが,別に盗られたものはない。空き地とはいえ,私有地だろうから,怒った所有者がいじり回したのかも知れない。いずれにしても,あまり気にしないようにして,俺はさっさと車を発進させた。

俺は,仕事場へ戻り,お母さんからの聴取内容を報告書にまとめていた。この結果が,保険金額に直接影響することはないと思うが,お母さんの気持ちを代弁するつもりで書いた。願わくば,保険金の担当者が少しでも汲み取ってくれるように。そこへ,上司がやってきて,会社から提出された正式な報告書(事故直後の実況見分のようなもの)を渡された。俺は,それをぺらぺらとめくりながら,事故現場の写真で,目をとめた。それは,被害者の手元を写した写真だったが,おそらく被害者の血がついたのであろうコンクリートブロックのようなものに,薄汚れた茶色い手形がはっきりと残っていた。色といい,形といい,今日,車についていた手形と全く同じに見える。俺は,冷や汗が流れるのを感じたが,同時に,偶然だと思いこむことにした。そもそも,手形なんて,ぱっと見た目違いは分からない。ましてや写真だ。たまたま,同じような色合いに見えるものだから,特異な体験と結びつけたくなるだけだろう。俺は,自分に言い聞かせるようにした。しかし。次の写真には,被害者の事故直後の様子が写っていた。俺は,本当に心臓が止まりそうになった。ローラーにつぶされた顔・・・ベロリとめくれた唇,顔全体がいびつな歪み方をし,右目はギロリと見開かれ,左目はズルリと瞼が落ち,左から右へグリッと突き出したような顎の形状。そこには,まさに昼間出会った女性が写っていた。偶然かも知れない。これを書いてる俺の記憶は,写真に影響されていて,昼間に出会った女性を写真に近づけすぎているのかも知れない。俺は,しばらく呼吸が出来なくなり,その後意識を失ったみたいだ。

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