これは僕とおじいさんとの”ちょっといい話”

2年前のことだけどふとした時に思い出しては心が温かくなります。あのおじいさんは元気だろうか?そんな思いを記事にしてみました、よっかったら読んでください。

僕は2年前まで東京都川崎市の賃貸マンションに住んでいた、築年数は僕より年上だったがとても感じがいい3階建てのマンションだった。全部で30部屋くらいのこのマンションを選んだのは3階のその部屋にかわいい天窓がついていたことと、エントランスやゴミ捨て場など共有部分がとても綺麗だったからだ。

住み始めて数日経った頃、出勤するためにドアを開けるとすぐ隣の部屋のドアを一心不乱に磨くおじいさんに出会った。

いってらっしゃい!!」
突然のことに驚いてしまった、それほどまでに大きな声で気持ちのいい「いってらっしゃい!!」だったからだ。しかしもともと人見知りな僕は軽く会釈すると足早にエントランスへと向かってしまった。

その次の日はゴミ捨て場をもくもくと掃除するおじいさんを見かけた。おじいさんはほぼ毎日マンションを掃除しているらしかった、しかも限られた場所だけではなく壁やドアまで水拭き・駐車場の木々の手入れまで隅から隅まで丁寧に掃除してくれるのだ。これまで何度か引越しをして色々なマンションを移り住んだがここまでしっかりとメンテナンスしてくれるマンションは初めてだった。

おじいさんは毎日のように掃除をしていて僕を見かけては顔をくしゃくしゃにした満面の笑みで「いってらっしゃい!!」と、僕を送り出してくれた。半年くらいすると「いってらっしゃい!!」「いってきます!」は僕の日常となった。東京に出てきて早10年、ずっと一人で暮らしてきた自分は送り出してくれる人のいることがこんなにも嬉しいことかと初めて思い知らされた。

そんなある日おじいさんに話しかけてみた。「いつも綺麗に掃除してくれてありがとうございます。それにおじいさんが挨拶してくれると一日頑張ろう!って気になれるんです。」それから少しの間話をした。おじいさんは佐々木さんという方で僕が引っ越してくる少し前からアルバイトで掃除をしているとのことだった。歳は70歳前後だろうか。おしゃべりとまではいかないけれど、いつもニコニコしている笑顔が印象的だった。



話をした次の日からおじいさんは毎朝のように飴をくれるようになった。「これ持っていきな! いってらっしゃい!!」おじいさんは愛用のエプロンのポケットからいろんな種類の飴玉を出しては僕にくれるのが習慣となった。それも1つや2つではなく毎回5~10個もだ、おかげで会社の僕のデスクには飴玉がもりもりと積まれ一人では食べきれないので同僚にもおすそ分けすることもしばしばだった。

ある時ふと[マンションの住人みんなにあげているのかな?]と思い、観察してみて驚いた。おじいさんはみんなに挨拶はしているけど飴玉をあげている様子はなかったのだ。理由はわからないけど僕だけにくれるのだ。それから一年以上ほぼ毎日おじいさんは僕に飴をくれ続けた、いったいいくら分の飴をもらったんだろうと申し訳なくなるほど。

もちろん貰いっぱなしも申し訳ないので1度だけお茶を差し入れしたことがある。でもおじいさんは申し訳ないといってなかなか受け取ってはくれなかった、いつもあんなに飴をくれるのに。なんとか受け取ってもらった翌日には飴の量が倍くらいになるものだからそれ以来僕は差し入れをしなくなった。

ただそんなおじいさんとの毎日に突然終わりが来た。

転勤が決まったのだ。

もちろん家も引っ越さなくてはならない、引越しの日が迫り荷造りをするもおじいさんに引っ越すことはなかなか言えなかった。毎日言おうと思っても笑顔で飴をくれるおじいさんにはなんだかとても言いづらかった。

明日言おう、明日言おう、そんな日が進むにつれてついに引越しの日が前日に迫ってしまった。今日言わなければ…

「佐々木さん、実は僕転勤が決まって明日引っ越すんです。」

「えっ?!」
おじいさんは本当に驚いてくれているようだった。

「そうか、残念だね。寂しくなるよ、元気で頑張ってね。」
おじいさんの優しい言葉に僕は胸が熱くなった、おまけに泣きそうだった。毎朝少し挨拶するだけでマンションの住人・管理人というだけの関係なのに僕はおじいさんにとても親密な気持ちを持っていた。ほんとうのおじいちゃんのように。

「ちょっと待ってね、これを持っていきな。」
おじいさんはおもむろに自分の腕にしていたブレスレットをはずし僕にくれた。それはおじいさんが前からずっとしていたものだった。

「これを持っていれば体壊さないから、健康が一番大切だからね。」
パワーストーンで出来たそれは健康でいたいという思いからおじいさんが愛用していたものだった、正直仕事上つけることは出来ないけれどただただ嬉しかった。

「あとこれも持っていきな、元気でね!いってらっしゃい!!」
おじいさんはエプロンの飴を全部僕にくれた、僕は飴とブレスレットでパンパンになったスーツに身をつつみ最後の職場へと向かった。

あれから違う土地で僕は毎日忙しく働いている。部屋のテレビ台に置いたあのブレスレットを見るとおじいさんのことを思い出す、佐々木さんは元気だろうか、まだあのマンションを毎日掃除してくれているのだろうか。僕は一生あのおじいさんを忘れることはないだろう。

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