エスは17歳の天才少年だ。


ヤマハの大会は無事に終わった。


演奏を手伝った仲間はエスのそう親しい友達でもなかった。


エスのピアノだけが目立った演奏だった。


エスは渋谷の夜の桜が丘の坂にいつもと変わらず

親友の湯川と秋風という16歳の少女といた。


湯川の住む町の駅までエスと秋風は行くことになった。


その後エスが秋風を送ってくれるという。


湯川の住む町も東京と埼玉の県境にあった。


佐々木も石原もエスも湯川も全て県境に住んでいるのだが円の弧を描くように

分散していた。


佐々木と石原はエスと学園祭に出る高校のメンバーだ。


湯川の住む和光の駅の夜はとても静かだ。


「いいよ!僕に遠慮しないで二人で話なよ!お別れですからね!ここで!」

とエスは言った。


湯川は暗闇で16歳の少女秋風を見つめた。街灯の明かりが

月明かりに見えるような夜だった。


秋風がエスを見ると少し離れたところの壁に寄り掛かってお手玉みたいに


手を動かして宙を見てた。湯川からは見えない。

秋風はヤマハの会場で女を抱きかかえていたエスにあ~かんべ~をしたので

仕返しされると思ってチラチラとエスを見た。

湯川は秋風を見つめていてエスの存在すら忘れている。


「最後だから抱きしめていいかな?」そう言いながら湯川は秋風を抱きしめた。

秋風は湯川を好きな事ことを痛感して

エスのことを忘れた。

ふたりの時間は止まっていた。どのくらい時間が経ったのか?

ふたりとも認識がない。


「じゃ~また」湯川は秋風だけに手を振って駅から消えた。

エスがボーっとしたまま、取り残された秋風を見てる。

お手玉は終わったみたいだ。

エスが女を抱きかかえてるのを見てあ~かんべ~をしたのに

仕返ししないで、しんみりと遠くから見てるだけの姿に

エスの弱さを初めて秋風はみていた。

秋風はエスの前に立った。

湯川と似た表情をしている。

今まで見たことのない表情だな?と秋風は思った。

「お手玉してたでしょ?」秋風はエスに聞いた。

「ん?」それでもエスはキョトンとしている。

「なんで?あ~かんべ~しないの?」秋風はエスに聞いた。


それでもエスはキョトンとしている。

6歳からひとりで生きて来て初めて淋しいと思った日のように

エスは悲しく笑っていた。

「秋風?」エスは優しく言った。

「純愛ってのはいいもんだね!!僕には無理だけど」

エスが淋しそうに笑った。

「僕にはたやすいものばかりだったけど

純愛の才能がどうやらないよ!湯川くんにはあるけど・・」エスは淋しそうに笑う。


「なんで?だと?思う!?」とエスは秋風に聞いた。


秋風は考えた。


「大体さ!!エスはもう普通じゃないよ!


お風呂に一緒に入っていい湯だね!!!これが純愛って


エスは「伊豆の踊子」を読み取れてない上に

つまり川端康成にならなくてもいいけどまず成れないので」と秋風が笑うと


「相変わらず!面白いよね!!」とエスはいつもの通り笑って

秋風を抱きしめた。

「秋風?もうお別れだから抱きしめていいかな?」

エスは湯川の吐いたセリフをそのまま言った。


秋風はエスの胸の中でクスクスと笑った。


「よくその才能のなさで淫行行為に及んだもんだね!!」と秋風が笑うと

「秋風?もう・・・お別れだね!!抱きしめていいかな?」エスは


そう繰り返して純愛の練習をしている。

秋風はなぜ?エスに純愛の才能がないのか?考えた。

「エス!純愛というのはまさに!ロミオとジュリエットなのね!!

つまり親がいて初めて純愛でしかも反対されないとなの・・

それか?なんらかの理由でまだ一緒にはいられない!!だから


またなんとかして会いたいわけ?


エスの場合は反対する親がいないので純愛は無理!」秋風がエスに

教えるとエスはすごく納得した。

「なるほどね!!」

「秋風?送るのがめんどくさいから18歳になったらすぐ免許を取るよ

親父の車があるしさ!!それが純愛だ!」エスは笑った。

ちょっと違うけどま~いいやと秋風は思った。


「それと!明日の朝の四時ころ?秋風の家に行くから

隅田川に行こう」とエスは元気一杯に笑った。


「わかった!!母親に警察に訴えらないように!!出て行くから」秋風も笑った。

夏休みっていいもんだと秋風は思った。


エスも秋風もヤマハの大会のことをすっかり忘れていた。

明日は明け方4時にエスと隅田川だ。と秋風は思った。

この記事を書いたユーザー

愛世界 このユーザーの他の記事を見る

こんにちわ 愛世界です。心に止まった事をお届けできたらと思っています。
誰かを忘れられない貴方へというブログをやってます。
http://ameblo.jp/aisekai25/

得意ジャンル
  • おでかけ
  • 育児
  • 料理
  • テレビ
  • エンタメ
  • コラム
  • おもしろ

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス