左目が大きく傷つき光を失い、耳は噛みちぎられ、口の中に歯はみ当たらず、全身には無数の傷跡が痛々しく残る、このアメリカン・ピット・ブル・テリアの名前はマードック。

米国・NYロングアイランドのシェルターで保護されるまで、マードックは闘犬の噛ませ犬でした。噛ませ犬とは、若い闘犬達が自分が強いと思い込み闘う事に恐怖を持たなくなる様にする為、わざと噛ませる為の弱い犬達の事。

「闘犬」は文化だという人もいますが、その文化を継続する為に、日々多くの犬達に襲われ、噛みつかれ、その恐怖と全身の痛みと戦いながら噛ませ犬として利用されている数多くの犬達がいます。マードックもその中の1頭。そこには、その犬の尊厳など欠片もありません。

7年もの間犬達に襲われ続け、階段すらのぼれない体に…

7年もの間、そんな過酷な状況の中で過ごすしかなかったマードック。保護団体の手によってようやく救い出された時には、段差の大きな階段さえ自力で登る事も出きず、他犬を見れば恐怖でひどく怯え、その光を失った左目の痛みに耐え続けなくてはならない様な状況でした。

人間の都合でそんな酷い状況の中で暮らしていたのにもかかわらず、マードックはとても人懐こく、人間に撫でてもらってキスするのが大好きな犬でした。そしてとても我慢強く、シェルターのスタッフが手配してくれた左目の痛みを抑える為の手術にも耐えました。

ハンデのあるピット・ブルには里親が現れない

しかし、マードックにはなかなか里親が見つかりませんでした。というのも、ピット・ブルは闘犬として改良された為に、とても危険で危ない犬種であるというイメージを持っている人が多いのです。その上、マードックはそのイメージの元となる闘犬業界の為、体にハンデを背負っているのです。里親希望の人たちがシェルターに訪れましたが、マードックに目をとめる人は誰もいませんでした。

そんなマードックの元に、ある女性がやってきました。やってきたのは写真家のソフィー・ガマーン(Sophie Gamand)さん。ソフィーさんは2014年より「フラワー・パワー」という撮影プロジェクトを行っています。

「フラワー・パワー」とは、花のもつ優しい力で、犬達の本来の魅力的な姿を引き立てる様な写真を撮り、その写真の力で「ピット・ブルは危険」という偏見をなくそうというプロジェクトです。

ピット・ブルは本来、とても陽気で優しく、人懐こくて飼い主に従順な犬。そんな彼らの素晴らしさを写真で伝え続けているのです。

フラワー・パワーの魔法が多くのピット・ブルを救う

ソフィーさんは、撮影の時は何時もスーツケースいっぱいの花を持ち歩きます。そしてスーツケースから溢れるたくさんの花の中から、その犬に合う花を選び、じっくり30分ほどかけて撮影に使う花冠を作ります。その為、持っていても使わない花もたくさんあるのだそうです。

なぜそんな事をするのかといえば、実際に犬達に会い、インスピレーションを得て、その犬が最も魅力的にその犬らしく見える様な花冠を作りあげるから。つまり彼らの被る花冠は、それぞれの為のオーダーメイドなのです。

こうして、オンリーワンの花冠をつけた、オンリーワンの存在の犬達の写真が出来上がります。

そしてもちろん、犬達が花冠を被る事を好まない場合は、無理に撮影はしません。

少しづつ時間をかけて、ゆっくりとソフィーさんは魔法をかけてゆきます。そして最高の魔法がかかったピットブルの写真が出来上がるのです。

ほら、こんな風に!

どの犬達もとても魅力的!

それぞれの性格までも伝わってくる様な素晴らしい写真ばかりです。

この写真を見たら、ピットブルに対する偏見なんて吹き飛んでしまいそうですね。

マードックの姿を見て言葉を失った・・・

このプロジェクトで多くのピット・ブルと対面してきたソフィーさん。中には闘犬の現場からレスキューされたピット・ブルも数多くいました。それでも、マードックと対面した時はその痛々しい姿に、ソフィーさんは大きなショックを受けたそうです。

しかしマードックは、トレーナーの後を嬉しそうについて歩き、自分の食べ物の前に人が来ても怒る事もなく、とても穏やかで優しい性格で、あっという間にソフィーさんを魅了しました。マードックはそっとソフィーさんにキスすると、その手から嬉しそうにお菓子を食べました。

「彼の存在感とその魅力に、傷跡の事なんかすぐに忘れてしまったわ」

まさにこの気持ちこそ、マードックの新しい家族が味わえるはずのものなのです。その痛々しい姿や、ピット・ブルという犬種への偏見など吹き飛んでしまうマードックの大きな魅力を引き出す様に、ソフィーさんはオンリーワンの花冠を作りました。

そして撮影されたマードックの素晴らしい写真。

この写真の効果で、マードックには無事に新しい家族が見つかり、現在はとても幸せに暮らしているそうです。今まで辛く苦しい時間の長かったマードック、残りの犬生は思い切り幸せな時間を過ごせるといいですね。

実は、日本でも盛んに行われてきた闘犬ですが、東京では1948年に廃止されました。全国的に見ても縮小の傾向にあります。しかし一部地域では、闘犬は未だ大々的に行われています。文化だという人もいますし「殺し合いではく、闘犬はいわば人間でいうところの相撲やレスリングの様なものだ」という人もいます。しかし、犬の心や体を大きく痛めつけ、それを鑑賞する文化が果たして本当に必要なのでしょうか?マードックの様な犬達が、これ以上増えない事を祈らずにはいられません。

こちらの記事もオススメです。

この記事を書いたユーザー

Mucoco このユーザーの他の記事を見る

愛犬と一緒に、海を眺めながら暮らしています。

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス