17歳天才少年エスの住む工場街には時折隅田川の匂いがした。

隅田川の海抜0メートルにはエスの住む工場街の匂いがすると

16歳の少女秋風は思った。秋風はよくひとりで隅田川にいる。

秋風には乳母車に乗った記憶があり

その乳母車からは隅田川の匂いがしたのだ。秋風は相変わらずエスの指導に従う事に必死だ。

「あ!やべえ!!忘れてきた!」と言いながらエスはバイクで外に出るのですぐ動かないとおいていかれる。自転車の時の距離とバイクの時の距離をエスは瞬時で判断するのか?バイクのカギを握った時はわりと遠い家で自転車の時は近い。


秋風はおいて行かれることなくエスのうしろに乗れた。街の住人にも秋風はすっかり慣れて来た。エスの住む工場街はクネクネとした住宅地で大きな道はなく歩道がない町だった。暫く行くと芝川に出る。




エスはいろんな家のカギの在処を知っていて勝手に入って勝手にカギをかけて出るのだが、エスが入るほとんどの家がちらかり放題ちらかっていてでもエスは知らない家の着替えをボンボンボンボンその辺に投げて行ってその家の人に貸したものを取って家に帰った。

「あった!!」秋風はそのガサ入れの速さにも驚いていた。情況把握能力は人が物を置いた場所まで感知できるのだ。

エスが見知らぬ家に取りに行く物は大概は楽器の備品か?自分が書いた楽譜だった。秋風には知らない街の知らない家がわりと面白く感じた。ある春の日のどんよりと曇った火曜日に自転車に乗って芝川の近くまでいくとすごい雨が降って来た。エスの学らんと秋風の制服はびしょ濡れになった。


「秋風仕方ない制服を風呂において風呂を沸かそう」エスはそういって風呂をすごい勢いで洗ってお湯を沸かした。秋風は躊躇ったがここでエスについていかないわけにもいかなくなった。秋風がびしょ濡れで困っていると「大丈夫だよ!バスクリンをいっぱい入れれば・・・それに僕はすごい近眼だから眼鏡を外すとなにも見えないよ」エスは言った。秋風もコンタクトレンズだったのでメガネがないと何も見えない世界はわかったのでお風呂に入る事にした。


でも自分はコンタクトレンズが入っているのでその一部始終が見えている。エスにはまったく見えていないが秋風には見えていることをエスは気にしてはいない。

「制服はあとでドライヤーで乾かしてあげるよ!」エスはバスクリンが入りすぎたコケのような湯船で言う。秋風は暖かい湯の中のエスをみて昔は親切な兄だったのだろうと思った。妹とおそらくこうしてお風呂に入ったのだと秋風は思った。

メガネを外した裸のエスは丸で幼児だったのだ。「エスは妹とお風呂に入ったの?わたしは兄とは入ってないな・・」秋風は聞いた。自分はエスと違ってひとりではいなかったが兄妹の思い出は自分の方が希薄であったのだろうと秋風は思った。


バスクリンの湯が気持ちよく疲れが取れていくのがわかった。秋風にもこんなにのんびりお風呂に入った記憶がなかった。「そうだね・・もう何年前の話かな?妹とお風呂で遊んだよ。それにこうして人とお風呂に入るのはすごくひさしぶり・・・いいもんだよね?」とエスは笑い湯船のお湯で顔を何回も洗っている。

「あたしせっかく入ったから頭も体も洗うよ!エスは先に出てよ」そう秋風がいうと「あ~いいよ!!僕はあとでいいや!!また入るから」とエスは言う。「しかし!!こういうのっていいよね!!純愛みたいな!この感じ?!!」エスはとても幸せそうだったが秋風はエスには純愛は絶対に無理だと思った。

「伊豆の踊子」を完全に勘違いしてるのだろうな・・・と秋風は思った。


「まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき前にさしたる花櫛の花ある君と思いけり」と今度はエスは与謝野晶子の「初恋」を暗唱している。「こういうのを純愛っていうんだよね?!」と秋風に聞く。

エスは純愛を知って、幸せそうなのだが秋風はちょっと違う!いやまったく違うと思った。エスは6歳からほとんどひとりで大きくなった。


どこかの成長が6歳で止まっているのでみんなに失礼なことを言いまくるのだろうなと秋風は思った。「秋風?はやくあがって頭洗いなよ!!そうしないとメロンパンがふやけてお岩さんになるよ!」エスは秋風に言う。こんな失礼な奴とは誰もが死んでも純愛はしないもんだと秋風は思った。

この記事を書いたユーザー

愛世界 このユーザーの他の記事を見る

こんにちわ 愛世界です。心に止まった事をお届けできたらと思っています。
誰かを忘れられない貴方へというブログをやってます。
http://ameblo.jp/aisekai25/

得意ジャンル
  • おでかけ
  • 育児
  • 料理
  • テレビ
  • エンタメ
  • コラム
  • おもしろ

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス