■狂気のカメラマン

10代の頃、グラビアアイドルとしてデビューし、今や、バラエティにドラマ、クイズ番組の司会、ラジオのパーソナリティと大活躍中のタレントAさん。

これは、そんなAさんがグラビア時代に体験した、恐ろしい話です。

休みの日、街でブラブラ買い物をしている時にスカウトされ、その流れで今の事務所に入ったAさんは、最初の頃は結構辛い思いをしたと言います。

事務所の方からスカウトしてきたくせに「今のままじゃ、グラビアではやっていけない。痩せろ!」とダイエットを強いられたり、

新人の頃に出演したバラエティ番組では、緊張して全く喋れないでいると、心ない司会者から「いいよね、グラビアの子は。座ってるだけで金もらえるんだから」と酷い言葉を浴びせられたり……。

それでも、彼女は頑張って毎日ダイエットに励み、表情の研究もしながら、少しずつ撮影の仕事をこなすようになりました。

そんなAさんに、ある日、サイパンでの写真撮影の仕事が入り、大きな期待を胸に現地へと向かいました。

現地に到着すると、すぐに撮影開始ということで、水着に着替えた彼女は、カメラマンの元に
「今回は、よろしくお願いします」と挨拶をしに行きました。

すると、カメラマンは笑顔で「こちらこそ、よろしく!お互い、イイ仕事しましょう!」と爽やかに答え、和やかなムードで撮影が始まりました。

Aさんが美しい海をバックにポーズを決めると「いいよ!いいよ!最高だよ!」とカメラマンは褒めまくり、場所やポーズを微妙に変えながら100枚以上の写真を撮りました。

辺りがうっすらと暗くなり、最後のシャッターを切ったところで「はい、OK!お疲れ!」と、カメラマンから声がかかり、その日の撮影は終了。

その後、スタッフみんなで夕食を食べていると、カメラマンがAさんの元に近寄り、「Aちゃん、今日、本当に最高だった! 絶対イイ写真撮れてると思うし、明日の撮影もよろしく頼むよ」

満面の笑みを浮かべて、そう言いました。この言葉を聞いたAさんは安心し、翌日の撮影に備えて早めに眠ったそうです。

そして、次の日。ホテルの部屋で寝ていたAさんの元にマネージャーが駆けつけました。

「Aちゃん、すぐに起きて着替えて!」

撮影の時間まではまだ余裕があるのに何で? と思ったAさんにマネージャーは、
「カメラマンが物凄い血相を変えて怒ってるのよ。とにかく行かないと……」

マネージャーはそう言ってAさんを部屋から連れ出し、カメラマンの元に急ぎました。

「失礼します……」
恐る恐るカメラマンの部屋に入ったAさんとマネージャー。すると、そこには、昨日とはまるで別人の怖い形相をしたカメラマンが立っていました。

そして、Aさんたちの目の前にバサっと、昨日撮った写真をばら撒いて言いました。
「見て、この写真。これ見て、どう思う?」
Aさんは「どう思う? って……」と、正直、困りました。

すると、カメラマンは

「全くヤル気が感じられないんだけど……。ヤル気がないなら、今すぐ帰れ!」

と怒鳴りつけました。

Aさんは全くワケがわからず「この人、なに急に?昨日、あんなに褒めてくれてたのに。どうしちゃったの?」と思いながらも、目からは涙が溢れ出し、たまらずに部屋から飛び出しました。

それから1時間後。
ここで帰ったら負けだ!と腹をくくったAさんは撮影に臨む決意をして水着に着替え、メイクを施してもらいました。

すると、事の成り行きを把握していたメイクさんが、言いました。

「あのカメラマン、ちょっとオカシイんだよね。穏やかな顔してるかと思うと、急にキレて発狂したり、壁に向かってブツブツ1人で喋ってる時もあってさぁ。何か憑いてるんじゃないかって、みんな言ってる」

それを聞いて一瞬怖くなったAさんですが、カメラマンがオカシイのは周知のことだったんだと思うと、少しホッとして現場に向かいました。

「お待たせして、すいません」

そう言ってビーチに現れた彼女を、今度は飛びきりの笑顔で迎え入れたカメラマンは、「いやぁ待ってたよ、Aちゃん! 早く早く、こっち来て!」

と手招きし、信じられない言葉を発しました。

「さあ、みんなで輪になって踊ろう!」

輪になって踊ろう……って。

歌の中でしか聞いたことのない言葉で急に誘われたAさんは一瞬、躊躇しましたが、その時のカメラマンの狂気に満ちた目がとても怖くて、断れる空気ではなく、周りの皆も同じように感じていたのか、全員で輪になって踊ったそうです。

「この人、本当に狂ってる……」

こんなに起伏の激しい人に今まで会ったことのなかったAさんは、この人には本当に何か憑いているのかもしれないと思いましたが、後日、その真相を知ることになりました。

サイパンでの仕事が終わり、数ヶ月経ったある日のこと。何気なくニュースを見ていたAさんは驚きました。

渋谷の街で覚醒剤所持の現行犯で逮捕されたというその男は、紛れもなく、あの時のカメラマンだったのです。

Aさんは、この時ようやく「そういうことか……」と納得したそうですが、あのカメラマンの狂気に満ちた目が、今でも忘れられないと言います。

■長期ロケ

芸能界と一言でいってもタレント、芸人、アイドル、役者、歌手、アナウンサー等々いろんなジャンルがある。

わたしの職業、放送作家というのはそんないろんなジャンルの芸能人と知り合う機会が多い。

どのジャンルが一番大変な職業かと聞かれると、それぞれ大変な職業だが、個人的には役者だと思っている。

役者といっても二世や他ジャンルからの移籍といったスタート地点が違う人もいるが、ほとんどが劇団の出身者である。これはそんな劇団出身のイケメン役者Mから聞いた話。

Mは当時、関西のそこそこ人気ある劇団に所属していた。劇団というのは人気があってもまったく食べていけないもので、トップの数人以外はもちろんアルバイトをしながらやっているのである。

芝居の稽古をしてチケットの手売り、本番終わってもギャラはスズメの涙、いざ地方公演になったりすると交通費は自腹、泊まる所も自分で探して自腹である。

そんな中TVドラマや映画のオーディションを受けに行く。夢がなければやっていけない職業である。

そんなMにチャンスが訪れた。映画に出演することが決まったのである。その撮影は全編北海道ロケで撮影期間は3ヶ月。

その間、収入はまったくなく帰ってくることも出来ないが二つ返事でOKした。

3ヶ月も家を空けるのだが解約はせず、部屋は借りたままで3ヶ月留守にする事を大家に告げて冷蔵庫は空にしてブレーカーを落として出発した。

3ヶ月間は空家賃になるのだが仕方なかった。過酷な北海道ロケだったがいい役をもらい、監督にも気に入られ、かなりの手応えを感じて帰ってきた。

さすがに3ヶ月も空けて帰ってきた家は、電気をつけた瞬間何か他人の家に来たような感じだった。まず、たまった洗濯物を洗濯機に入れて、部屋の掃除を始めた。

掃除機をかけ、布団を干し、コロコロ(粘着シートの掃除用具)をしたときに違和感を感じた。コロコロに明らかに自分より長い髪の毛が付いていたのだ。

初めは、劇団の女性が遊びに来た時の抜け毛かな?と思って気にせずに掃除を続けたが、お風呂場の掃除をしたときに違うと確信した。

お風呂場の排水口の蓋を開けると、そこには大量の長い髪の毛が引っかかっていたのだ。

その手のオカルト話には興味のないMも「ついに出たか!」とさすがに恐怖を感じたが結局ここで暮らすしかないと自分に言い聞かせてまた掃除を続けた。

すると「何かおかしい」という事にどんどん気づき出した。まずブレーカー。3ヶ月前に確実に切って出たのに、帰ってきてすぐに電気を点けたら点いた事。

空のはずの冷蔵庫の中にジュースが入っていた事。買った覚えのない調味料がキッチンに並んでいた事。

明らかに誰かがこの部屋で生活していた。すぐに警察に通報し調べてもらったが犯人は捕まらず、目的もわからずどうやって侵入したのかもわからずじまいだった。

ただ近隣の住人の目撃証言でわかった事もあった。その証言によると、特徴として30代後半の髪の長い女性で、明るく挨拶もしっかりとしていたという。

そして、その女性以外に少なくとも3人以上の人間が出入りしていたそうだ。

いったい誰が何のために……もちろんMはすぐに引っ越しをした。

■スタッフシミュレーション

「お笑い芸人○○ 番組収録中に大怪我」

そんな記事やニュースを目にした経験がある方も多いと思うが、時にバラエティ番組のゲームや企画で、お笑い芸人が怪我をしてしまう事がある。

例えばローションを使ったゲームで勢いよく転んでしまい骨折など……。しばしば視聴者から非難を受けることがあるが、スタッフ達だって何も闇雲に危険なゲームをやらせているわけではない。

ちゃんと事前に安全確認シミュレーションを何度も何度も入念に行なっている。それでも事故が起きてしまうのは、最新のジャンボジェットでも墜落する危険はゼロとは言えないのと同じ予期せぬハプニングだ。

その日──。
小高い丘のある公園で某バラエティ番組のスタッフたちは次回収録に向けて、とあるゲームのシミュレーションを行なっていた。

そのゲームは、タレントが丘の上から車輪のついたソリに乗って直滑降し、ゴールまでのタイムを競うというモノ。

シミュレーション役はADの鈴木君(仮名)だった。ヘルメットや肘パッドをつけて、ソリを引っ張り丘の上に登る鈴木君。

「これ上から見るとメッチャ怖いっすよ~」

下から見る分には割と緩やかに感じた斜面も、いざ上から見下ろすとなかなかの恐怖だった。

「最初は足でブレーキをかけながら、ゆっくりでいいから」下のディレクターからメガホンで指示が飛ぶ。

鈴木君は言われた通り、初めはゆっくりと斜面を滑走。それを何度か繰り返した。

「じゃあ次は足ブレーキなしでいける?」

「はい!全然大丈夫そうっす」

何度か滑走し慣れてきた鈴木君は自信満々にそう答ると、足をソリの中に入れ滑りだした。みるみる上がるスピード。それまでとは段違いだった。

「危ないと思ったら足ブレーキしろよ!」

メガホンで叫ぶディレクター。周りの他スタッフたちは、降りてくるソリと鈴木君をキャッチするための、大きな安全マットをかまえている。

「大丈夫でーす!うわぁー!」

楽しそうな鈴木君。すさまじいスピードで滑走している。そして下に待つ安全マットまで後7メートルという所だった。

ソリは突然バランスを崩し軌道がガクンと斜め横にそれたのだ。勢いのついたソリはディレクターや安全マットの横をすり抜け、さらに下の道路に飛び出してしまった。

「危ない!」

ディレクターが叫んだのと同時に、鈴木君を乗せたソリはガードレールに激しく直撃した。

彼はソリの上で、まるで糸の切れた操り人形のようにグッタリと横たわっている。慌てて駆け寄るスタッフたち。

「キャァァァ!」

1人の女性スタッフが悲鳴をあげた──。骨が飛び出ているわけでも大量の血が出ているわけでもない。

ただ、鈴木君の頭が180度回転して後ろを向いていた。まるでリ○ちゃん人形の頭だけをグルリと後ろにひねったように……。

即死だったという。
無論、そのゲームの収録は中止となった。

■放送事故

テレビやラジオには放送事故というものがある。その原因は、放送機器のトラブルや人為的ミスなど様々だ。それとは別に放送中に起きた事故というものもある。

生放送中に人が倒れたり怪我をしたりといったもので、大概の場合、司会者が上手く捌いてごまかしたり画面を切り替えたりでしのげる事が多い。

これは、ある放送中に起きた最悪の事故の話である。

僕が業界に入って間もない頃、仲良くさせてもらっていたディレクターにいつも業界の裏話を聞いていた。

性格の悪いタレントや、誰と誰が付き合ってるなど噂話も交えながらワイワイしゃべっていた。

ある時、放送事故の話題になった。

どの話もすごい話で、例えばアニメやドラマの同じ回を放送したり、ニュース番組の冒頭に「笑点」の曲が流れたり、ある男性職員が局で海外のアダルトビデオを見ていたらその映像がその地域に放送されていたなど、信じられない様な話ばかりだった。

するとディレクターが放送中に起きた事故の話をしはじめた。

「放送中の事故で有名なのが『8時だよ! 全員集合!』の生放送中にセットから火が出たとか、オープニングから停電になったとか、これはバラエティー番組で今も流して、見て、笑う事できるけど、笑えなくて完全に封印された事故があるんだよ」と、さっきまでキャッキャいってたのが一転、急にまじめなトーンになった。

昔、夕方に○○さんがやってた生放送の番組に1通の手紙が来て、それをスタッフが○○さんにみせたら「これ、おもしろいから番組の企画でやろうよ」という事になった。

その手紙の内容というのが「怖いから助けてください」というものだった。手紙の送り主は20代の男性。

突然、家に封筒が届いて開けると自分の全身写真だった。よく見ると足の部分に線が入っていて、写真の隅にはある日にちと時間が書かれていた。

そしてその書かれていた日時に足を骨折したのだという。さらに別の日に届いた写真には腕の部分に線が入っていて、やはりその日時に転んで腕を折ったという。

その男性がなぜその番組に助けを求めたかというと、またさらに写真が送られて来たのだ。その写真には首の所に線が入っていた。

今度こそ殺されてしまうと思った男性は、写真に書かれた日時にちょうど生放送をしているこの番組に出演させてくれ!と頼んだのだ。テレビに出演して大勢の人に見られていれば首を折ることなんてないと考えたのだ。

それを聞いた○○さんは、どうせ嘘だろうけどなんとなくバカバカしくて面白くなるんじゃないかということでOKしたのだ。

そして、その当日。男性はスタジオに招待され、レギュラーメンバーと並んで出演者として番組に出る段取りだった。

いつもの時間に生放送はスタートし、男性が登場した。そして例の時刻になった瞬間、突然スタジオの天井に取り付けられた照明が落下して男性を直撃したのだ。

男性は首の骨を折って死亡。もちろん生放送中の番組は急遽画面を「しばらくお待ちください」という緊急用に切り替え、放送はそのまま終了した。番組もすぐに打ち切りとなった。

その話を聞いた僕は、未だにスタジオの照明が怖くて怯えながら仕事をしている。

■常連さん

そうだ、作家になろう!
そう心に決めて上京したのが、今から8年前のこと。

東京に強力なコネがあったわけでもなく、ただなんとなく、東京に行けば、どうにかなるんじゃないかという思いで関西から出てきた私だが、これが不思議と、どうにかなっている。

というのも、私が上京してきた時、東京在住の友人が超大物作家Aさんのお弟子さんと知り合いだということで、その方を紹介してくれたのだが、そこからすんなりAさんの事務所に入れてもらえたからだ。

といっても、私はAさんとは全くと言っていいほど面識がなく、事務所の作家陣を束ねていたのはYさんだった。

Yさんは80年代、90年代の超人気バラエティを何本も抱える売れっ子作家で、若い頃は相当に稼いでいたそうだ。

そんなYさんから業界のイロハを色々と教えて頂いたのだが、私が事務所に入って2年足らずでYさんはこの世を去ってしまい、それと同時に、私も事務所を去った。

以来ずっとフリーで食い繋いでいるのだが、なにせ、この仕事は不安定である。

レギュラーや特番がドドドっと入って来る時もあれば、めちゃくちゃ暇な時もあるし、何より恐ろしいのは、レギュラー番組が何の前触れもなく、突然打ち切りになること。これこそ、一番の“芸能界の怖い話”だと思う。

あれは3年ぐらい前のことだろうか。それまで順調に入ってきていた仕事がだんだん滞り、気が付けば、レギュラーがラジオ1本とBS番組1本の計2本。

この2つを合わせてのギャラが15万あるかないかという非常事態に陥った。

家賃に電話代、光熱費、食費、交通費など、色々足していくと……足りない!15万じゃ、とても足りない!なんとかしなければ!そう思った私はバイトをすることにした。

この東京砂漠で生きていくためには、バイト嫌だとか言ってる場合じゃないし。しかし、できればラクして高収入をと考えると、やはり水商売が手っ取り早い。

でもキャバクラはキャラじゃないし……ていうか、年齢的に無理か……などと思案していると、近所のスナックがバイトを募集していたので、面接に行ってみた。

時給1500円に食事付き。ママはとても良い人で「あなたさえよければ、すぐに来て」と言ってくれたので、そこに決めた。

中野にあるその店は、10人掛けのカウンターにテーブルが4つほど並ぶ小さな店舗だったが、いつも賑わっていた。

店に来るのはほとんど近所に住む常連さんで、その大半は個性の強いおっちゃんたち。

その中でも忘れられないのが、Kさんだ。

Kさんは必ず、店に来る前、電話をかけてきて

「あいてる?」

と、席が空いているかどうかの確認をする。

他のお客さんはフラッと現れて、いっぱいだったら帰っていくのだが、Kさんは、せっかく行ったのに、いっぱいで入れないというのが嫌なのだ。

だから電話で事前確認して、席を確保してから店にやって来る。

その日も、Kさんからの電話が入り

「今、あいてる?」

と聞かれたので、私が「あいてるよ」と言うと「じゃあ、もうちょっとしたら行く」と電話を切った。

それから、ほどなくしてKさんが来店し、ママと私と、もう1人の女の子エミちゃんとでKさんを出迎えた。

その時、店にはKさんの他、お客さんは2人ぐらいしかおらず「今日は珍しく暇そうだね」なんて言いながら、他愛もないバカ話で盛り上がっていた。

そして、次の日。いつものように入店し、常連さんたちと話していると、1人のお客さんが思い出したように言い出した。

「そういや、Kさん、気の毒だったね」

その言葉を聞いてキョトンとしている私に、その人は、

「あれ?知らないの?Kさん、亡くなったんだよ。3日前に心筋梗塞で」

と言う。ビックリした私は、

「えっ!そんなわけないでしょ?だって、昨日、Kさん来たよ。ママもエミちゃんも一緒にいたから。ねえ?」

ママとエミちゃんに同意を求めると、2人とも頷いているし、絶対にそんなわけない!そう思いながらも、私の胸の鼓動は高鳴っていた。

……と、そこに店の電話が鳴り、私は一瞬「まさか?」と思った。

そして、恐る恐る電話に出てみると、声の主は、いつものあの人だった。

「もしもしKだけど……あいてる?」

その声を聞いて呆然としている私を見て、悟った様子のママが受話器を取った。

「もしもし、Kさん?あのね……あなた、もうここには来ちゃダメ。早く逝った方がいいわ」

と言い、最後に「じゃあね」と優しく言い放って電話を切った。

それ以来、Kさんからの電話がかかってくることはなく、そうこうしている間に、私の本業も徐々に忙しくなってバイトは辞めてしまったのだが、時折、あの人の声が蘇ることがある。

「あいてる?」

■体操着

ジャンボジェットで九死に一生。

海難事故で九死に一生。

テロ事件で九死に一生。

テレビ欄でも時々目にするような言葉ですが、僕が体験した九死に一生は、かなり特殊なものでした。

僕はテレビ制作会社のディレクターですが、残念なことにテレビでは流せない内容なのでここに綴ろうと思います。

あれは、僕が小学4年生の春でした。ある朝、学校へ行くと隣のクラスの翔一君(仮名)が僕のもとに駆け寄ってきました。

「体操着忘れちゃった! タケシ! 貸して!」(僕の名前は仮でタケシにします)

翔一君とはクラスは違っても仲の良い友達でした。例えば僕がコンパスを忘れたら、彼に借りる。彼が水泳帽を忘れれば、僕が貸す。

なんというか、みなさんにも「何かを忘れたらコイツに借りる」的な友達って学生の頃にいませんでしたか? 僕と翔一君はその関係で結ばれていたのです。

ということで、僕は翔一に体操着を貸しました。入っている体操着袋ごと。

「ありがとう! 洗って明日返すから!」と僕のクラスを走り去っていく翔一君。いつものことでした──。

その日の帰り道。僕が家に向かって歩いていると、前方から1人のオジサンが歩いてきました。

もう暖かい春先なのに、毛皮のコートにニット帽という服装で、見るからに挙動不審に辺りをキョロキョロと見回していました。

「なんだこの人……」変に思った僕はついオジサンの顔を凝視してしまいました。

すぐに目がバッチリと合いました。すると急に話しかけてきたのです。

「君、○○小学校の●●タケシ君って知ってる?」

驚くことにそれは僕の名前でした。でもこんなオジサン見たコトない、怖い。そう思った僕は咄嗟に「知らないです」と嘘をつき、走るようにその場を離れました。

翌日。学校に行った僕は、翔一君に体操着を返して貰おうと隣のクラスに入りました。

しかし彼の姿はなく、学校内を探してもどこにも居なかったのです。先生に聞くと、今日は欠席とのことでした。

さらに翌日。
朝から緊急全校集会が開かれました。

そこで全校生徒に伝えられたのは、翔一君が昨日からずっと家に帰らず行方不明で、今朝警察に捜索願いを出したこと。

そしてもしも姿を見たらすぐに報告するように、とのことでした。

心配になった僕はクラスメイトを誘い、放課後から日が暮れるまで町内を自転車で探し回ったのですが、その姿を見つける事はできませんでした。

次の日の朝、起きてすぐにテレビをつけた僕の目に飛び込んできたのは、最悪のニュースでした。

町内を流れる川の下流から1人の死体が発見され、それが翔一君だったのです。

殺人事件の可能性が高く、容疑者も見つかっていないことから、学校は臨時休校になりました。僕は何が起きたのか分からず、ただただ茫然としていました。

そして、お昼過ぎ。警察が僕の家を訪ねてきました。リビングで母親と警察が話す声を、僕は隣の部屋の壁に耳に当てて聞いていました。

そして信じたくない事実を知るのです。まず、翔一君は僕の体操着を着たまま死体で発見されたこと。その体操着には僕の名前「○○タケシ」と書いてあること。

そして、犯人はついさっき逮捕され、「本当は○○タケシを殺そうと思っていた」と白状したこと──。

犯人は、僕の父親が店長をしているパチンコ屋で負け続け多額の借金を作り、その腹いせに店長の子供である僕を殺そうとしたそうです。

しかし犯人は僕の名前が書いてある体操着を着た翔一君を、僕と勘違いして殺した……。恐怖と哀しみで何がなんだか分からなくなり、ただ泣き続けました。

そしてその夜、ニュースで流れた犯人の顔写真は、少し前に「タケシ君って知ってる?」と話しかけられた、あの知らないオジサンだったのです。

もしもあの時、ウソをつかなかったら?

もしもあの日、翔一君が体操着を忘れなかったら?

もしも僕が、翔一君に体操着を貸さなかったら?

そう、僕の九死に一生は「体操着で九死に一生」でした。

文言はくだらなくても、あまりに切なく哀しすぎる話です。

■コンビニ店員

若手芸人のライブを企画構成している関係で、まだ全然テレビには出ていないが、なかなかの逸材である芸人を数多く知っている僕。

その中でも、コイツそろそろ世に出るんじゃないかなぁと思うのが、ピン芸人のT君だ。

T君の芸はなかなかにシュールで、マニアックながらウマいところを突いてくる。どちらかと言うとインテリ系だが、天然系の部分も持ち合わせており、何に対しても真っ直ぐで純真な奴。

そんなT君から、ある日、ゾッとする話を聞かされた。

センスはそこそこにあるが、まだまだ売れていない芸人のT君は、バイトで生計を立て、食事と言えば大体コンビニ弁当。

T君はいつも、バイトが終わると、家の近所のコンビニに寄って弁当を買い、ちょっと余裕がある時は、食後のデザートとしてシュークリームを買って帰るというのが、お決まりのパターンだった。

その日、ちょっと余裕があったT君は、弁当とお茶、シュークリームをレジに持って行き、会計を済ませたところ、女性店員から1枚のメモを渡された。

店を出てメモを見てみると、その店員のものらしいメールアドレスが書かれていたのだが、T君は正直、その店員に何の興味もなかったので、彼女に悟られないよう、燃えるゴミのゴミ箱の中にそっとメモを捨てて帰った。

「だって、その子、地味目で全然タイプじゃなかったし、変に連絡して気を持たせる方が悪いじゃないですか」

というT君。その気持ちはよくわかるし、僕でもそうしたと思う。

その後、さすがにそのコンビニに行き辛くなったT君は、次の日から別のコンビニに寄って弁当を買うことにしたのだが、家に帰ってきた彼は驚いた。

玄関の隙間に何かが挟まっていたので、見てみると、それは、昨日T君がゴミ箱に捨てたコンビニ店員のメモだったのだ。

クシャッとなったその紙は紛れもなく、あの店員がゴミ箱の中から取り出し、自分の家に届けたもの。

「やっべぇ……家、知られてるよ」

T君は自分の家まで知られていることに怖くなったが、どうすることも出来ず、とりあえず弁当を食べて、その日はそのまま寝た。

そして、次の日、またまた別のコンビニで弁当を買って帰ってきたT君は、玄関に何かがぶら下がっているのを発見した。

何だろう?と見てみると、それはコンビニ袋に入ったシュークリーム。

そして、そこには

「よかったら食べて下さい。連絡待ってますね」

と書かれたメモも添えられてあった。

「あの女だ!」

送り主に察しがついたT君はますます怖くなり、背筋が凍ったのだが……食欲に負けてシュークリームだけは食べたそうだ。

食うなよ! って感じだが。
その夜……。

このままここに居たらマズいんじゃないかと思ったT君は、次の日から友人の家を転々と泊まり歩き、1週間ほど家を空けた。

そして、1週間後、自宅に帰ってきたT君は「やっぱりな……」と愕然とした。

玄関には1週間分のシュークリームがぶら下がっており、この時は夏場だったため、大量のハエがたかっていたのだ。

「うげぇ……もったいねぇ」と思いながらシュークリームを処理したT君は、このままではいけない!と意を決し、女性店員のいるコンビニに乗り込んだ。

「あのさ、気持ちは大変有り難いけど、あなたの気持ちには応えられないから」

店員に真っ直ぐそう訴え、店を後にしたT君。そう、彼は真っ直ぐで純真な奴なのだ。そんなT君の訴えを受け入れたのか、次の日から彼女のシュークリーム攻撃は止まった。

「あぁ、よかった」と安心したT君は、これまでと同じようにバイトに精を出し、ネタを考え、ライブにも出演した。ただ、例のコンビニにはもう行かなくなったのだが……。

そんなこんなで、2ヶ月ほど経ったある日、T君の家のチャイムが鳴った。「はい」と玄関を開けてみると、そこには、あの女性店員が立っていた。

「こんにちは。隣りに越して来ましたので、よろしくお願いします」

そう言って、彼女は、コンビニ袋いっぱいに詰まったシュークリームを差し出した。

「怖っ! その後どうしたの?」と聞く僕に「いや……それが」と、T君が声を詰まらせた。

これはもしかして、その女が隣りの部屋で首吊って死んだとかいうオチかなと思っていたら、それ以上に怖い答えが返ってきた。

「今、付き合ってるんですよね。その子と」

最初は怖いと思っていたけど、あまりに真っ直ぐに自分のことを想ってくれる彼女がだんだん愛おしくなってきて……と語るT君。

その純真すぎる心が、ある意味怖いと、僕は思った。

■乗り込んできた霊

ある番組で知り合った鉄道マニアから不思議な話を聞いたことがある。

鉄道マニア界にもさまざまなジャンルがあるそうで、電車の写真を撮影して楽しむ「撮り鉄」、エンジン音や警笛音を録音して楽しむ「音鉄」、電車ではなく駅を楽しむ「駅鉄」

などなど、鉄道マニアといえど細かく分類された数多くの種類のマニアが存在する。

知り合った彼は、色々な路線の電車に乗ることを楽しむ「乗り鉄」だった。その「乗り鉄」の彼が、岩手県を走るあるローカル線に乗車していたときの事。

そのローカル線は山間を走り抜ける路線で、利用客は地元の人よりも登山客の方が多い田舎の路線だった。彼の目的はその路線の全駅制覇。

つまり、その路線の全部の駅に降りるというのが目標だった。彼はまず最初にその路線の終点を目指し、そこから2日間かけて各駅を制覇しようとしていた。

写真やネットでは見たことがある憧れの路線。その電車に乗り込んでウキウキしていた彼は窓からの景色よりも、車内の備品を撮影しまくっていた。

乗り鉄だからといっても、やはり好きな物の写真は撮るのであった。

やがて、終点の駅に近づき、ひとまず電車の旅は一旦休憩に入った。駅のベンチで折り返しの電車を待ちながら、彼は行きの車内で撮ってきた写真をデジカメでチェックしていた。

年代物のつり革や、都内では見られなくなったシートの素材から、車体の外に書かれた型式記号など、一般人にはピンと来ないがマニアにはビンビンと来るいい写真が撮れていた。

その事にご機嫌だった彼だが、ある1枚の写真を見て少し暗い気持ちになった。

車内を写したその写真には、まばらに座る乗客と1人の大男が写っていた。その大男はは黒いコートを着ており、ガラガラの車内なのに座ることなく仁王立ちしていた。

逆光で顔は見えないが、相当な体の持ち主であることはシルエットでわかった。何より不思議だったのは、これだけインパクトのある乗客なのに写真を撮った本人の記憶になかったことだった。

相当夢中になって写真を撮っていたからか……。モヤモヤした気持ちは残っていたが、ちょうど折り返しの電車がホームに入ってきたところでそんな事はすっかり忘れて鼻歌まじりで電車に乗り込んで行った。

帰りの電車は、写真を撮らずに風景を楽しむ。そう決めていた彼はニコニコしながら座席に座り、窓の外やら車内の様子を観察していた。

当初の目的を果たすため、1つ1つの駅に降り立ち、次の電車を待つ。そんな事をくりかえし、路線の中ほどにある5つ目の駅に降り立った。時間はすでに深夜。

次の最終の電車でとなりの駅に向かい、そこで宿泊するつもりだった彼は、人気のないホームで電車を待っていた。そこは無人駅でこんな時間には誰も利用する人がいないようだった。

そんな静かなホームでふと気付くと彼以外にもう1人の客の姿が見えた。ホームの端で電車を待つ彼と、もっとも離れた場所でその男は待っていた。

「こんな時間に乗るなんて変わった人がいるもんだ」自分のことをさしおいて、そんな勝手な事を思っていた。

そこへ、最終電車がホームに滑りこんできた。乗客もまばらな車内へ彼は乗り込んだ。

静かに走りだす車内で腰を掛け、暗くなった風景に目をやりながら次の駅の到着を待っていた。何を考えるでもなくふと隣の車両に目をやった時、彼は驚いた。

全身黒ずくめの大男が車内を歩いてこちらに向かってきていた。その大男こそ、昼間に撮影した写真に写り込んでいたあの大男だったのだ。

その大男は乗客の1人1人の顔を覗きこみながら近づいてくる。しかし、どの乗客も不気味な大男に対してまったくなんの反応もしない。

あえて無視しているのか、それとも見えているのは自分だけなのか……。そうこう考えているうちに、その黒い大男は連結部分を渡り、彼のいる車両へと乗り込んできた。

その大男を直接見て、彼はさらに驚いた。写真の中では逆光で黒く見えなかった大男の顔。車内を照らす蛍光灯の下で彼が見た時、それはっきりとわかった。

黒、だったのだ。
その大男は、全身が黒。

立体的な影というべきか、この世のものとは思えないものだった。その大きな黒い影の塊の顔というべき部分が、この車両でもまた1人1人の乗客の顔を覗き込みながら彼の元へと近づいてきていた。

そして……、身を固くする彼の顔を、その黒い影がヌッと覗きこんでくる。相手には目などなく全体的に黒い塊なのだが、目を合わせまいとまぶたを閉じた。

10秒ほどだろうか。もう行っただろうと思いそっと目を開けて見てみた。すると、黒い塊はまだ彼の顔を覗きこんでいた。

驚いた彼は思わず声を上げそうになったが、グッとこらえた。
……その時。

影の塊の顔の部分から黒い雫が彼の膝へとしたたり落ちた。彼が条件反射でその雫を払いのけた瞬間、影の塊から声が聞こえた。

「オマエ、俺が見えてるな?」

その瞬間、影の塊の顔の部分が大きくなり彼の頭にくらいつくように包み込んできた。視界を奪われ真っ暗になった瞬間。彼の意識がなくなってしまった。

気づくと近くの病院に運び込まれていた。診断では軽い脳梗塞で、幸いにも命には別状がなかった。結局、彼の鉄道の旅はそこで終わってしまった。

あの黒い大男が何者なのか、彼の幻覚だったのかわからないままである。

不気味な体験をした彼だが、「体力が回復したらまたあの路線にチャレンジしたい」と言っている。

■修学旅行の思い出

トーク番組の打ち合わせで、イケメン俳優N君と一緒になった。

その番組は毎回1人の旬の芸能人をゲストに招き、過去の思い出や近況などを話しながら人物像を掘り下げていく番組で、次回のゲストがN君だった。

都内の少しオシャレな喫茶店で2人。番組で使えるようなトークを見つけるべく、私は彼にたくさん質問を投げかけていた。

「俳優になったきっかけは?」、
「仕事で喜びを感じる瞬間は?」、
などなど……。

N君は初対面の私にも気さくに何でも話してくれて、打ち合わせは盛りあがっていた。しかし──。

「じゃあ次は学生時代の思い出話を聞きたいなあ。例えば修学旅行の思い出とか」

私がそう言った瞬間、さっきまで笑顔だったN君の表情が一気に曇った。しまった……と思った。

もしかして学生時代はイジメられていたのか?と不安になり質問を変えようとすると、N君はうつむきながら1つのエピソードを話し始めた。

それが決してテレビでは流せない話だったので、ここに書こうと思う。

それはN君が中学校の修学旅行で京都に行った時の話だった──。彼は別にイジメられているわけでなく、むしろクラスではリーダー的存在で友達は多かったという。

みんなでお寺を回ったり、自由時間にはクラスの仲間と街に繰り出してゲームセンターで遊んだり買い物をしたり、N君は修学旅行を心から楽しんでいた。

宿泊していたのは、5階建ての大きい旅館。N君は大部屋で、同じクラスの男8人と一緒だった。

普通は8人も居れば、仲の良いヤツ、そうでもないヤツと出てくるものだが、その部屋は偶然にもみんながみんな仲が良いという、まさに最高の部屋割りだったそうだ。

京都に修学旅行に行った人なら分かると思うが、10代の学生にとっては昼間のお寺巡りなんかより、夜の部屋で仲間と過ごす一時の方が楽しかったりするもの。

N君達も部屋で枕投げをしたり、先生が見回りに来たら寝たふりをしたり、「お前の好きな女子、誰なのか教えろよ」なんてベタなトークをしたり……楽しすぎる夜を過ごしていた。

さんざん騒ぎ疲れて深夜0時をまわった頃、そろそろ寝ようという事になり、みんな布団に入り電気を消した。

それでもまだみんなと話したい遊びたいと思ったN君が
「なぁ、しりとりしようぜ」

と持ちかけると、みんなも思いは一緒だったようですぐにしりとりが始まったという。

布団が並んだ順に言葉は進んでいき、グルグルと何周もしながら10分が経った頃だった。

「ポか~。う~ん。ポルトガル」

「……………」

次の順番のタカシ君の返答がない。

「おい! タカシお前の番だぞ。ル、だよ」

「……………」

「寝たの? おーい。タカシ」

何度呼びかけても返事が無いタカシ君の体を、隣の布団の友達がゆすろうと手を伸ばした。

「タカシがいねえよ」

「うそ? マジで?」

N君が飛び起き電気を点けると、布団に寝ころがっているはずのタカシ君の姿が消えていた。さっきの番まではしりとりに答えていたのに。

そしてトイレの灯りもついていない。というか、トイレに行ったならドアの開く音や足音がするはず。

「え? どこ行ったのマジで」

全員で部屋中を探しまわっても、何処にもタカシ君はいなかった。

みんなで部屋の外を探しに行こうとすると、1階の部屋にいる担任の先生がN君たちのいる5階の部屋に青白い形相で飛び込んできた。

かなり急いで走ったきたようで、ゼイ、ゼイと肩で息をしていた。

「タカシはこの部屋にいたか?いま何してたんだ?お前ら、何も分かってないのか?」

矢継ぎ早に怒鳴るように質問をしてくる先生。

「どうしたんですか?何があったんですか?」

N君が不思議そうに聞くと、先生は一呼吸おいて皆の目を見つめながらこう言った。

「タカシが飛び降りた。多分この部屋から」

すぐにN君達みんなが窓に駆け寄り下を見ると、旅館の駐車場にタカシ君が横たわっていた。頭から流れる大量の血は、現在進行形でその面積を広げていた。

N君も、他のみんなも、あまりのショックに一言も言葉が出なかったという。タカシ君は皆でしりとりをしている間の、順番待ちのわずかな時間に窓から飛び降りていた。

タカシ君の布団は窓際だった。ずっと窓は開けっぱなしだった。だから、足音も窓を開ける音もしなかったのだ。

さっきまで一緒に楽しく遊んでいたタカシが、突然自殺するなんて──。N君は何がなんだか分からなかった。その理由が知りたかった。

後日、警察の調べでタカシ君の携帯電話の未送信メールBOXに1通のメールが保存されていたのが見つかった。

タイトルは「遺書」。

そこには、友達や学校には秘密にしていたタカシ君の恐ろしい家庭環境が綴られていた。それは義理の父親からの長年に亘る酷い虐待だった。

思い返せばタカシは旅館で一度もみんなとお風呂に入らなかった。それはきっと体の傷を隠すためだった……とN君はその時気づいたという。

そして最後の一文はこう締められていた。

──親元を離れられる修学旅行を最後のイイ思い出にして死のうと思います。

○月×日 タカシ  PS. みんな、しりとりの途中でごめん──。

「うん……多分、予め遺書メールは用意してあったんだと思うんですけど、しりとりをしながら俺たちにPSを書き加えてたんですアイツ。
その気持ちを思うと……」

このエピソードを話し終わったN君は、肩をふるわせ泣いていた。

■方向音痴

俗に女性は地図に弱いといわれている。女性の大多数が方向音痴ではないかと思う。

最近iPhoneが普及して、その中にある「Googleマップ」という機能を使う人も多い。

その「Googleマップ」は、衛星からの電波によって地図上に現在地を青い点で表示してくれる。さらにそのiPhoneを持って歩くと地図上の青い点が一緒に動くというカーナビのような機能である。

この話は、地図がないと現場に行けないほど方向音痴な、メイクの仕事をしているKさんの体験談。

Kさんは、メイクさんになる前は一流の美容師をしていた為、なんでも出来るし腕もいいと評判だった。主な仕事は、映画やCMの撮影に同行して出演者にメイクをする。

中でもKさんが得意としてたのは女優さんのメイク。映画の大きなスクリーンにアップで映る女優さんにとってメイクはとても重要なのだが、Kさんの腕はたくさんの一流女優たちにも認められていた。

そんな評判のいいKさんなのだが1つだけ難があって、方向音痴の為に現場になかなか辿り着けずに遅刻をしてしまう事があるのだ。

Kさんも新しい現場の時には、早めに家を出たりと努力はしているのだが方向音痴は直しようがなかった。

でも、ある時からiPhoneを持つようになったKさんは、仕事先の人に教えてもらった「Googleマップ」を使うようになり、前よりは多少遅刻は減った。

ある日、1日がかりの撮影が終わりスタジオから帰る時、最寄りの駅までの道がわからなくなってしまった。なのでいつものように「Googleマップ」を起動させて現在地検索ボタンを押した。

現在地を表す青い点が地図上のスタジオの前に現れた。Kさんは地図を見ながら駅の方向へ歩いて行ったのだが、地図の青い点は駅とは違う方向へ動いていくのだ。

15分位さまよい、結局、街の人に教えてもらい駅にたどり着いた時、地図を見たら青い点は全然ちがう高速道路を指していた。

Kさんは「こんな時に故障しないでよ!」と思いながらも明日の撮影も早いから、とくに気にせず家に帰った。

翌日また違う現場に向かう為、朝早く家を出た。都内の撮影所なので電車を乗り継いで最寄駅まで向かった。

駅から撮影所までは歩きなので、またいつものように「Googleマップ」を起動させ現在地検索ボタンを押した。すると青い点はなぜか群馬県の北の方を指していた。

そこでKさんは、昨日故障した事を思い出した。Kさんは慌ててスタッフに連絡をして、どうにかタクシーで向かったので遅刻せずに済んだ。

それから何回起動しなおしても、現在地の青い点は群馬県の北の方を指していた。忙しくて直しに行く暇もないまま何週間も経った時、久しぶりに「Googleマップ」を起動してみた。

青い点は相変わらず、群馬県の北の方を指している。Kさんはなんでここを指しているのか無性に気になったので、次の休みに友達と温泉旅行がてら群馬県に行ってみる事にした。

久しぶりの旅行にテンションを上げながら、友達と2人で新幹線に乗り、あっという間に群馬県に着いた。

そしてiPhoneを取り出し、駅員に尋ねながら青い点の所に行く為のルートを確認して出発した。

青い点は山の中らしく地図を拡大しても詳細はなにも出なかった。駅からはレンタカーで向かい、駅員さんに教えてもらった青い点の付近に到着した。

Kさんたちの前に現れたのは大きなダムだった。青い点を確かめても、なんだかスッキリしなかったが、とりあえず旅行を楽しむことにした。

近くの旅館に宿泊した時、従業員の人にダムの事を聞いてみた。すると、そのダムがあった場所は昔、映画の撮影によく使われた場所で、撮影中にセットが倒れて主演の女優さんが亡くなった事が原因で、閉鎖された場所だった。

Kさんたちはここを訪ねた経緯をその従業員さんに全て話すと、その従業員さんは「あなたがメイクさんだから呼ばれたのかもしれないね」と言った。

Kさんは、亡くなった女優さんにも自分の腕が求められているとプラスに解釈して、今も映画の世界で活躍している。

■女子アナ志望

某キー局女子アナの真紀さん(仮)には、姉がいます。

しかし、真紀さんが大学を卒業してテレビ局へ入社した年に、姉の恵理さん(仮)は心を病んでしまい、部屋に引きこもったきり、家族の誰とも口を利かなくなってしまいました。

理由は、嫉妬です。実は、姉の恵理さんもかつては女子アナ志望で、大学卒業と同時にキー局や地方局などを多数受けたのですが、その全てに落ちてしまったのです。

最近では、真紀さんは恵理さんのことが気味悪くなり、持て余しているというのが実情です。
そして、何よりも恐れているのは、芸能マスコミに病んだ姉のことを知られてしまうことでした。

ただでさえ病んでいる姉なのに、テレビや雑誌であるコトないコト言われたらさらに心に傷を負うだろうし、正直な話、自分のイメージダウンに繋がると思っていたからです。

ある深夜、家族が寝静まった自宅へ戻ると、電気の消えたリビングで恵理さんがボンヤリと座っていました。わが姉ながら、さすがに薄気味悪く、恐怖すら感じます。

「お姉ちゃん、こんな時間に何してるの」

「………」

恵理さんは妹の言葉を無視するように、ゆっくりと体を上げ自室へ向かい始めました。そして、真紀さんとすれ違う瞬間、彼女の耳元でこう囁きました。

「私だってテレビに出れるもん」

「…えっ、どういうこと?」

真紀さんがそう問いかけたときには、すでに恵理さんは自室に通じる階段を上り始めていました。

真紀さんは言葉の意味が分からず、少し茫然としたあと、自分も部屋へと戻りました。

ベッドに入った真紀さん。途端、1日の疲れがどっと出たのか、すぐにウトウトし始めました。

すると、急に頭の中で甲高い金属音が鳴り響き、身体を動かそうとしても全く動きません。

俗に言う「金縛り」の状態です。胸が苦しくなり、声を出そうとしても、かすれ声しか出せません。

どうにか力を振り絞り目を開けると……、頭から大量の血を流し片目が飛び出ている女が、窓の外から真紀さんを睨みつけています。〈いやぁぁぁ〉心の中で大声で叫ぶ真紀さん。

すると、その血だらけ女はカギのかかった窓ガラスをギギギと開け、真紀さんの目の前に顔をぐんっと近づけてきました。

〈……え? お姉ちゃん?〉

近くで見ると、その血だらけ女は姉の恵理でした。そう気付いた瞬間、金縛りは一気に解けました。

「はぁ、はぁ、はぁ…」金縛りの幻覚とは分かりながらも、あまりの怖さに体の震えが止まらない美紀さん。すると窓の外から、救急車のサイレンが聞こえました。

それはドンドン近づいてきて、美紀さん一家の住むマンション下に停車しました。間もなく「ピンポーン」とインターホンの音。

「こんな夜中に誰……なに……?」

美紀さんが玄関カメラを見ると、そこには救急隊員がいました。

「そちらの部屋から、女性が飛び降りました。
今から緊急搬送するのでご同行願います」

飛び降りたのは、姉の恵理でした──。
12階から。即死でした。

次の日、それは全国ニュースで大きく報じられました。

〈人気女子アナ○○の実姉、飛び降り自殺!!〉

「私だってテレビに出れるもん」

そういうことだったのです──。

■いつもの席

これはある芸人から聞いた話です。

かつてあった大阪のある劇場は、若手芸人の登竜門と言われ、連日女性ファンたちで満員の状態でした。毎日ライブを行っているのですが、人気のある芸人が出る日はチケットを取るのも一苦労。

芸人のネタなんかまったく見えない名ばかりの“立ち見”席ですら売り切れるほど。それほど猛烈な状況でした。

そんな、連日大入りの劇場に毎日顔を出しているファンがいたのです。いつしか彼女の事を芸人たちは覚えてしまっていました。

彼女は少し太っていてメガネをかけオカッパ頭だったので、劇場に出ている芸人たちは彼女の事を大木凡人さんになぞらえて「ボンド」と呼んでいました。

その独特なルックスが特徴的だったこともあるのですが、もう1つ彼女が記憶に残りやすい理由があったのです。

それは、彼女がいつも同じ席に座っていたから……。連日チケット売り切れの状態がつづく中、彼女は必ず「A─7」に座っていたのです。

それは舞台の上の芸人から見てちょうど目の前。舞台の真ん前だったのです。劇場に出演している芸人は必然的に彼女の事を覚えずにはいられませんでした。

毎日やってきてはお目当ての芸人に、ファンレターとタバコを渡して帰っていく。20歳に満たない彼女がチケット代をどこから出していて、なぜ真ん中の一番いい席を毎日取れるのか……。

それは、芸人たちの間で七不思議とも言われる謎でした。そんなある日のこと、ボンドの指定席「A─7」が空いているのです。

最初に気付いた芸人が次の出番の芸人に伝え、それをまた他の芸人に伝えて行く。たしかにいつもいたボンドは来ていなかったのです。

相当なベテランの先輩でさえ「初めてやわ」と言うほどの大事態だったのです。その日のライブは結局最後までボンドはあらわれませんでした。

それから次の日も、その次の日も1週間を越えてもボンドはあらわれませんでした。芸人の間では「七不思議がもう一つ増えた」とボンドが来ない事を不思議がり始めました。

さらにもっと不思議な事に、ボンドがいない「A─7」の席に誰も座らないのです。満員の席にポコッと空いている「A─7」の席。

どうやら誰かがチケットを取っているそうなのです。それはボンドなのかどうかわかりません。

みんなが気味悪がり始めてしばらくしたころ、一通の手紙がその劇場に出ているある芸人の元に届きました。

手紙にはその芸人とボンドが2ショットで写っている写真が入っており、さらにこんな内容の手紙が添えられていました。

──私は○○子の母です。

○○子というのはボンドの本名でした。

──あの子はずっとあなたのファンで毎日劇場におっかけをしに行っていました。いつも嬉しそうに私にその話をしてくれていました。そんな○○子が先日、他界いたしました。

治らない病気ではなかったのですが、風邪をこじらせてそのまま眠るように逝ってしまいました。

こんな事を書かれても迷惑かもしれませんが、あの子の代わりに一言お伝えしたくお手紙させていただきました──。

その手紙を見て初めて理解できました。ボンドは死んだから来られなかったのでした。

──病を患っていた娘のために、私がいつも一番いい真ん中の最前列の席を用意してやっていました。

皆さんに顔を覚えられたいとの一心でした。覚えていただけたでしょうか──。

病気の娘のために母親が必死でチケットを取ってやっていたのだ。なるほどと納得できたのはここまででした……。

──それも、あの子が死んでからはもうその必要がありません。一番いい席を独占してしまって他のファンの方には悪い事をしてしまいました。

娘に代わり謝らせていただきます。それではどうぞ皆様お元気で、ますますの活躍お祈り申しあげます──。

ボンドが死んでからはチケットを取っていない。ということは……ここ1週間あの席を取っているのは誰なのか?なぜ誰も座らないのか?ボンドが来ているのか……。

それからしばらくの間も、真ん中の「A─7」の席はなぜか空いたままでした。

■簡単ダイエット

知り合いのファッション雑誌の編集者から聞いた話。

雑誌モデルの畑中さん(仮名)は太りやすい体質が悩みの種。そんな彼女が偶然目にしたのが、「たった1錠であなたも簡単ダイエット!」というスパムメール。

常識的に考えれば、そんな簡単にダイエットなんてできるはずがないと思うものですが、「このままでは仕事を失ってしまう」と危機感を持った彼女は、ワラにもすがる思いでこのカプセルを注文したそうです。

値段はなんと7万円。
しかし注文した後に冷静になって改めて振り返ると、いかにも胡散臭いダイエット薬としか思えませんでした。

「よく考えたら、1錠飲むだけで痩せられるなんてあり得ないよね。クーリングオフしよう」と自嘲する彼女。数日後、彼女のもとに1粒のカプセルが届きました。

薬の但し書きにはこう記されていました。
「効果が絶大ですので、これ1粒だけで痩せることができます。ただしカプセル服用後、2週間は大量のお酒や刺激の強い食べ物は控えてください」

いかにも怪しげな感じです。
クーリングオフをしようと手続きの仕方を調べていると、彼女のもとに一本の電話。

マネージャーからでした。
聞けば、2週間後に某有名ファッションショーへの出演が決まったとの知らせで、そこで目立てば一気に売れるきっかけになると言うのです。

一世一代の大チャンス……。
その時までにプロポーションをもっと良くしたい……。

彼女は悩んだあげくクーリングオフを止めて、カプセルを飲んでみることにしました。半信半疑で服用したカプセルでしたが、彼女の予想に反して、その効果は絶大で体重がどんどん落ちていくのです。

その上、まったく運動をしないにもかかわらず、またどれだけ自分の好きなものを食べても痩せていくのです。

これまでモデルとしては太目だった彼女の体型は、見事なプロポーションへと変化しました。

思惑通り、前述のファッションショーでも注目を浴びることに成功。しかも、バストやヒップはサイズダウンすることなく痩せたおかげで、メリハリの利いたセクシーなそのボディはファッション雑誌だけでなく、グラビア誌からも引く手あまたになりました。

ただ、気になるのは、痩せ始めた頃から腹痛に悩まされていることです。当初は軽い痛みだったのですが、最近では我慢できないほどの激痛なのです。

ある日、その激痛に襲われた彼女はとうとう救急車で病院に搬送されてしまいました。彼女の腹部を調べた医師は、あまりのことに驚きの色を隠せませんでした……。

なんと、彼女の腸内には何mにも成長した寄生虫がパンパンに詰まっており、その寄生虫が腸を食い破ろうとしていたのです。そう、あのカプセルの中身は、寄生虫の卵だったのです。

その後、彼女は精神的ショックも相まって凄まじいリバウンドをしてしまい、業界を去っていきました。

■押し入れ

とある貧乏な若手芸人が体験した引っ越しにまつわる話です。
  
彼はまったく売れていない若手芸人で、月々のギャラはあっても数千円なんて事がほとんど。

ライブに出るために逆にお金を払って自分でチケットを買っていることもあり、トータルで大赤字。

そんな状態が2年くらい続いていた彼は、借りていたアパートの家賃が払えずとうとう追い出されてしまいました。

その後、先輩芸人の家に転がりこんで、なんとか彼は雨露をしのいでいました。そして、その先輩に紹介してもらった風俗案内所のバイトの時給がかなり良く、再び1人暮らしすることになったんです。

彼は意気揚々と不動産屋に出掛けていき、新宿の中で一番安いアパートを指名したそうです。安いアパートと言えば“いわくつき”が当たり前のはずなんですが、彼はおかまいなしでした。

僕も止めたんですが、彼いわく「霊感がないから大丈夫」だと。

さらに続けてこう言い放ちました。
「霊が見えたら、それをトークのネタにしてやりますよ」
普段からそう言っていた彼は、新宿にある不動産屋を片っ端から飛び込んで「一番安いアパートを見せてくれ」と頼んで見せてもらっていたそうです。

ところが、彼が気に入る物件は中々ありませんでした。
霊が出たから……。

ではなく、アッチ系の怖い団体の人たちが住んでいる物件ばかりだから、だそうです。

若手芸人はネタ合わせや仲間での飲み会など部屋で大声を出すことが多いので、それがトラブルの元になるのは日常茶飯事。

ましてや相手がアッチ系の怖い人たちであれば、命すら保証はされません。いくら家賃が安くても死んでは意味がありません。

良い部屋はなかなか見つからず、2週間ほど新宿中の安い物件を探していた彼は、横のつながりが太い不動産屋さんの間でちょっとした話題になっていたそうです。

その日、彼が初めて入った不動産屋で一言、
「一番安いアパートを見せてくれ」
と言うと、不動産屋のオヤジにニヤニヤ笑われながら迎え入れられたそうです。

ちょっとした有名人だよ、と不動産屋のオヤジから告げられた彼は調子に乗って、ここ2週間新宿中を駆け回った苦労をグチ半分、自慢半分で得意げに話しました。

すると、ニヤニヤ笑っていたオヤジがさらにニヤけた顔を見せて

「うちしか扱っていない、とびっきりの物件あるよ」

と奥から一枚の間取図を取り出してきました。間取を見せてもらうと、特に変わった特徴もなくいわゆるオーソドックスな“四畳半”の和室のアパートでした。

築年数は20代の彼の年齢の二倍はありましたが、家賃の安さは破格で、今のバイトを2日もやれば払えてしまえる、そんな額でした。

「気に入ったんですが、周りに怖いお兄さんたちの事務所があったりしませんか?」 

とホホに斜めの線を入れるジェスチャーをしながら彼が尋ねると、ニヤけたオヤジは大きく首を振りながら、
「大丈夫です。霊が出るだけですから」とそう言ったオヤジは試すような目で彼を見てきました。

「ネ、ネタになるんで、それでもいいッスよ」

内心の動揺を隠すようにおどけた調子で答えた彼は、不動産屋のオヤジの車でそのアパートへ向かったそうです。

そのアパートの場所は詳しくは書けませんが、新宿の古い街並みが残る区画にあるそうです。

彼が着いた時は昼飯時で、あたりは焼き魚の匂いや野菜を炒める音であふれていました。不動産屋のオヤジにうながされるまま、そのアパートの部屋の前に立つとカギを渡されました。

ニヤニヤしたオヤジの顔は相変わらず「ビビってんだろ?」と挑発するかのよう。カギを差し入れおそるおそる開けた室内は、あまりにも平和でした。

昼下がりの日差しが差し込む四畳半。霊が出ると言われていた彼は拍子抜けしました。

部屋の中に上がり込みあちこち見てみますが、まったくイヤな気配も何も感じません。本当に普通の和室だったそうです。

「僕、ここに決めますよ」

霊感がない俺には何も見えないんだ、と安心した彼は押し入れのふすまを開けながら不動産屋のオヤジに告げました。

意外な事にそのオヤジの顔からニヤついた表情が消えて、ただ一点を死んだ魚の様な目で見つめていました。

不思議に思った彼がその視線の先を追うと、今開けたばかりの押し入れの上の段に正座した老婆が座っていました。

「やっぱりまだ居やがったのか……」

びっしりと御札が貼られた押し入れの中に、あまりにもハッキリと見える真っ青な顔をした老婆……の霊。その老婆の霊が正座した自分の膝を見つめていたそうです。

今までの幽霊の概念をくつがえすその存在にあっけに取られた彼は、声も出せず老婆を見つめるしかありませんでした。

「ただ居るだけだから。良かったらここに決める?」

挑発的な口調とは裏腹にこわばった顔のままの不動産屋のオヤジは、押し入れのふすまをそっと閉めました。

慌てて飛び出した彼が、その後不動産屋に聞いたところによると、その部屋に義理の娘と住んでいたおばあさんが、寝たきりになった後に激しい虐待を受けていたそうです。

そして、最後は押し入れの中で衰弱死させられたとの事。ハッキリと霊魂が見えるのは、相当強い想いを残して命を落としたからなんでしょうか。

彼は結局、その光景がトラウマになったのか、今では押し入れのある和室ではなく洋室の部屋に住んでいます。

ただ、今でもクローゼットを開けるのが怖いそうです。

この記事を書いたユーザー

青空マン このユーザーの他の記事を見る

青空マンです。

得意ジャンル
  • インテリア
  • マネー
  • 動物
  • 海外旅行
  • 国内旅行
  • おでかけ
  • グルメ
  • 料理
  • テレビ
  • 恋愛
  • 美容、健康
  • ファッション
  • キャリア
  • おもしろ
  • ニュース
  • 話題
  • 社会問題
  • スポーツ
  • インターネット
  • ライフハック
  • 広告
  • 育児
  • 暮らし
  • ゲーム
  • カルチャー
  • エンタメ
  • 感動
  • コラム

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス