■師匠の車

若手芸人が先輩の運転手を務めることが多々ある。メシを食わせてもらう代わりに運転手をするのだが、これが冷や汗ものだという。

何しろ、売れている先輩が乗っている車はとんでもなく高級な車が多いのだ。もしも、ぶつけてしまったら一体いくらになるのか?それを考えただけで身がすくんでしまう。

実際に、先輩の車を運転していて車庫入れでぶつけてしまい、修理代がバンパーだけなのに80万円も請求された後輩もいる……。

ましてや事故って先輩にケガでもさせてしまったら、とりかえしのつかない事になってしまう。

そんなプレッシャーのかかる事は断ればいいものだが、先輩の命令は絶対のこの世界では無理な話である。

ところが、あろうことか師匠の車を廃墟に置いて帰ってきて、クビになった若手芸人が過去にいたのだ。

そいつは女が好きで好きでしょうがないヤツだった。師匠のカバン持ちの仕事をほったらかして合コンに行ったり、女とデートするために出番を飛ばしたりとかなりの問題児だった。

ただ、漫才の腕はなかなかの筋で師匠もなかなかクビとは言えなかった。むしろ、やんちゃな彼に手を焼いてはいたが、期待もかけていた。

その彼が、ある日真剣な顔で師匠の元に来た。何事かと心配して話を聞くと、「どうしても落としたいモデルがいる」と目に涙を浮かべて訴えてきたのだった。

さらに「売れない漫才師だとなめられるので、師匠の車を貸してほしい」と土下座をして頼んできた。

女を口説くために師匠にとんでもないお願いをする彼に、師匠も思わず笑ってしまった。そして、高級外車のキーを彼に貸したのだった。

彼は喜び勇んで、モデルの女の子と連絡を取り高級外車で迎えにいった。彼女のリアクションも相当良かったという。

食事を済ませたあと、彼はあるイベントを考えていた。それは『肝試し』だった。

以前、彼女と話している時に話題に上ったある廃墟へと車を飛ばした。そこは、3階建ての廃ビルで、もともと病院だったという。

しかも、産婦人科だったらしく度々ハイハイをする赤ちゃんの霊や、子供の泣き声などがどこからともなく聞こえてくるという噂があった。

師匠に貸りた高級外車を駐車場だったらしき場所へ停め、2人は廃墟を見上げた。

9月に入ってもまだ暑い夜。どこかでバカなセミがまだ鳴いていた。そんな中、静かにたたずむ廃墟にはなんとも言えない迫力があった。

後で考えれば、2人とも帰りたかったのであろうが、どちらも言いだせず無言のままビルの中へ入っていった。

最初は、ビクビクしていた2人だったが、元々病院だという割には室内には何も置かれておらずただの空き部屋が並ぶ、なんてことないビルだった。

拍子抜けした2人は次第に余裕を取り戻してきた。誰も居ない事をいいことにキスしたりイチャイチャしたりとじゃれあっていた。

結局、肝試しよりももっと興味のある事が出来た2人は、「もう行こうか」とビルを出て駐車場に停めてある車に向かった。

ところが、車に乗り込もうとした瞬間、彼女が悲鳴をあげた。

「キャーー!!」

びっくりした彼が彼女の乗り込もうとする助手席の方へ回り込むと、彼女は窓を指差して震えていた。

見るとドアのガラス一面に手形がびっしりついていた。びっくりした彼は彼女を安心させるために言った。

「誰かのイタズラだよ」

しかし彼女は首を激しく横に振って、言った。

「これ、子供の手……」

小さい紅葉のような手形は、大人ではなく子供のもの。むしろ、赤ちゃんの手と言った大きさだろうか──。

「こっちにもある!」

彼女が指差したフロントガラスにもビッシリと赤ちゃんの手形が……。結局それはガラスというガラスにベタベタとついていた。

すっかり怯えていた彼女を安心させるため、わざと軽い口調で彼はいった。

「こんなの……、ササーッと拭けば簡単に消えます~」

彼は着ていたTシャツのすそで手形を消すために窓を拭いた。
しかし消えなかった…。

その手形はどれも車の中からつけられたものだったのだ。

「中に何かいるー!!」

何を見たのかわからないが、そう叫んだ彼女。
すっかり怖くなった彼は彼女の手をひいて駐車場をあとにして帰ってしまった。

翌日、明るくなった頃。彼はその駐車場に車を取りに戻りましたが、もうすでになくなっていたそうです。

その後、土下座して師匠にその話を報告した彼はクビになってしまいました。

クビの理由は高級外車を盗まれたという事ではなく、あんな体験をした直後に2人がタクシーを拾ってホテルに行ったのが直接の原因だったそうです。

仏のキック

芸人を志す大半の人間は、それだけでは到底、食べていくことができず、日々バイトに明け暮れている。というのは、皆さんも周知のことと思う。

今でこそ、それなりの生活が出来るようになった芸人H君も然り。見た目にそれほどのインパクトもなく、芸風も普通だったH君のコンビは、相当長い間、伸び悩んでいた。

ものすごく普通の2人がものすごく普通に正統派の漫才で勝負を挑んでも、評価はやはり普通。可もなく不可もなく、良くも悪くも何ともないという、芸人にとっては最も避けたい評価であった。

そんな彼らに転機が訪れたのは、衣装と芸風をガラリと変えて舞台に現れた日。今までの地味なファッションから派手な衣装に衣替えし、喋りにも強いキャラをつけだしたことから、人気は一気に上昇した。

ここまで来るのに10年近くかかったというH君。その間、彼の生活を支え続けたのは、数々のアルバイトだった。

居酒屋にカラオケ、パチンコ屋、レンタルビデオ店、警備員、早朝のパン屋、深夜のコンビニ、ピザ宅配、チラシ配り、ビルの窓拭き、イベント会場の設営・撤去などなど、挙げていけばキリがないが、中でも一番キツかったのは?と聞くと、彼は即答した。

「仏壇の解体ですね」

仏壇の解体というのは、読んで字のごとくであるが、不要になった仏壇を引き取って解体するというもの。

家にある古い仏壇を処分して新しいものに変えたいという時、古い仏壇をまさか燃えるゴミの日に普通に捨てるわけにはいかない。

そんな時は通常、お寺に頼んで“魂抜き”という供養をしてもらった後、仏壇屋に引き取ってもらい、そこで仏壇を解体してから市営のゴミ焼却場に持っていくのだとか。

なんだ、結局はゴミとして扱われるのかと思うと、仏様に申し訳ない気もするが……。

「解体って言うより、破壊って感じですかね」

と話すH君。仏壇を解体する時は、一旦持ち上げて床に叩き付け、その拍子にタガがゆるむので、あとはハンマーで叩いていくだけで簡単に壊せるのだと言う。

しかし、どう考えても、仏壇を地面に叩きつけるなんて罰当たりではないかと、良識ある人なら考えるであろう。H君も最初はそう思っていたらしい。

が、仏壇屋の人は「魂抜きをしてあるから大丈夫!」と言うし、何より、このバイトは給料が良かった(日給1万2~3千円ぐらいはもらえた)ので、良心に蓋をして取り掛かることにした。

はじめは恐る恐る躊躇しながら作業をしていたH君だが、だんだん慣れてきて作業のスピードもアップし、やがては、今、自分が壊しているのが仏壇だという意識も薄れていった。

倉庫にはたくさんの仏壇が眠っており、とにもかくにも壊していかなければ、仕事は片付かないのだ。そんな時に神も仏もあるものか! そう心に言い聞かせ、H君は無心に仏壇を壊し続けた。

そして、数時間が経過し、だんだん腕が疲れてきた彼は、今度は足を使って壊すことにした。

仏壇を叩き付け、タガがゆるんだところで、それを蹴飛ばし、右足でバキッ! ドカッ! と踏んだり蹴ったりして、どんどん片付けていった。

どうせガラクタにするんだから、手で壊そうが足で壊そうが同じだろうと、H君は思っていたのだ。

その日の夜のこと。H君の右足がズキズキと痛みだし、寝る頃にはパンパンに腫れ上がった。

この時、H君は「仏壇を壊す時、足に力を入れすぎたのかな」ぐらいにしか思っていなかったのだが、恐怖は、彼が寝入った後に訪れた。

昼間の疲れからか、布団に入ってすぐ深い眠りについたH君。

そんな彼の枕元にお釈迦様が現れ、満面の笑みを浮かべたかと思うと、H君の顔面を思いっきりバキッ! ボコッ! ドカッ! と続けざまに蹴りつけた。

H君はビックリして起き上がり「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝ったが、お釈迦様はその表情を変えることなく彼の顔面を執拗に蹴り続け、こう尋ねた。

「痛いか……?」と。

痛いし怖いし、必死に逃げようとしても、右足が重くて逃げられないH君。そんな彼を見て、ほくそ笑みながら、お釈迦様はなおも顔面を蹴ってくる。

H君は痛みと恐怖に耐えながら「わぁ~! わぁ~!」と叫び続け、汗ビッショリの状態で目を覚ました。

この時、あまりの恐怖に失禁までしており、布団はボトボトになっていたそうだ。

その後……次の日も、また次の日も、お釈迦様はH君の枕元に現れては、穏やかな笑みを浮かべながら彼の顔面を蹴り続けた。

そんな日が1週間続いたところで、とうとう耐え切れずH君はバイトを辞めてしまったと言う。

■対処法

ADの仕事はキツイ、寝れない、休みがないと言われているがこれが、本当にキツイ仕事で傍から見るとよくできるなぁと感心する。

この話は昔、一緒に番組をやっていたそんなADの女の子から聞いた話。

すべての雑用を任されるのがADの仕事。番組作りの始まりから収録が終わっても仕事は終わらない。

もちろん睡眠時間も驚くほど少なく、ほとんど家に帰らずスタッフルームで雑魚寝するのが当たり前。女の子だからとか、着替えがないからとか言ってられない。

とにかく寝れるときに寝る、これが最優先なのである。そんな生活が続くともちろん顔色は悪くなりどんどんやつれていくのだが、たまの休みや仕事が早く終わった時に、体を休めてリフレッシュするのである。

そのADの子はどんどんやつれていくので、見てるだけで心配になるほどだった。

僕もさすがに気になって、
「ちょっと働きすぎじゃない?休める時は休んだほうがいいよ」と声をかけた。

すると、
「休める時はあるんですけど休めないんですよ」
と意味のわからない答えが返ってきた。

「えっ? もしかして寝る時間削って遊びに行ったりしてるって事?」と聞き返すと、

「そんな余裕ないですよ~」とますます意味がわからない。

「じゃあ、何で休めないの?」
ちょっとHな答えも想像したがADの口から出たのはまったく違う答えだった。

「信じてもらえないのであまり言いたくないんですけど、今住んでる家に幽霊がいるんです」

一瞬、冗談かな?と思ったが、そんな口調でもなかったので話を詳しく聞かせてもらった。

「最近は家に帰って寝れる事もあったんですが、家で寝てるとかならず金縛りにあうんです。どんなに疲れてても、ふと目が覚めて体が動かないんですよ」

それを聞いた僕は、「疲れてる時ほど金縛りにあうって言うからね。それは脳だけが起きてて体が起きてないからなんだよ」とどこかで聞きかじった事を、もっともらしく言ってみた。

すると「私も最初はそう思ったんですけど家で寝る時だけなんですよ。スタッフルームとか家以外のところで寝るときはまったく金縛りにあわないんです」

あっさり僕の意見は覆された。

そして、さらに
「初めのうちは怖くて頭の中でお経とか唱えたりしてたんですが金縛りもだんだん慣れてきて、また眠るまで待つしかないことに気付くんです」

僕は「たいしたもんだな」ともう感心しながら聞いていた。
「でも、慣れてくるともう1つの事に気付いたんです。部屋の中に誰かがいるんですよ。見える訳じゃないんですが、床を歩いてる感じ、呼吸してる感じがわかるんですよ」

あまりそういった類の話を信じないのだが、彼女に合わせて、
「えっ、それはお祓いとかした方がいいんじゃないの?」と言うと、

「そうなんですけど、そんな暇もないんでいろいろ聞いたり調べたりして簡単にできる対処法をみつけたんです。その対処法が枕元に刃物を置いておく、これだけなんですよ」

「そんなの効くわけないでしょう」思わず声に出してしまったが、

「いや、それが枕元にハサミを置いて寝てみたんですよ、そしたら目覚ましが鳴るまでグッスリ寝れたんですよ」

僕は「効いたのかよ!なんだよその話!」とつっこんだがその後に彼女が言ったことに言葉が出なくなった。

「グッスリ寝れたんですけど、起きたら枕元にハサミが突き刺さってたんですよ」

■歌う幽霊

今やバラエティー番組には欠かせない存在となった女性タレントたち。

しかし、同じキャラクターは2人いらないというのはどのジャンルも同じで、おバカキャラ、大食いキャラ、元ヤンキャラなど、みんな他にはないキャラクターで生き残ろうと必死になっている。

そんな中、知的キャラで売っている女性タレントのMさんから変わった話を聞いた。昔も今も、女性タレント同士の裏での争いは絶えない。

自分と似たようなキャラのタレントは自分の仕事を減らす原因となり、ただただ邪魔でしかないのである。

とは言え、人前に出る芸能人である以上は表立って攻撃することはさすがに出来ない。

中には、あからさまな攻撃をする人もいるみたいだが……。

よく聞くのは、打ち上げの席などでディレクターやプロデューサーの隣りに座りライバルタレントの悪口をさりげなく言うという攻撃だ。やっぱり女性は恐ろしい。

Mは某有名大学を卒業し、クイズ番組に出演するなど知的タレントとして順調に活動していた。しかし、2年くらいたって同じ大学卒業の女性タレントSがよくテレビに出るようになってきた。

正直、Mは焦っていた。Sは自分より歳が若いし、やっぱりテレビ業界は新しいもの好き。

自分には勝ち目がない気がしたが、Sを貶めようとは思わなかった。というか、そんな手段はMには何もなかったのだ。Mは、なるべく考えないように自分に与えられた仕事を頑張った。

そんなある日、初めてSと一緒に仕事をする機会が訪れた。それは小さな雑誌の対談だったが、Mはなんとなく緊張していた。

Sが目の前に現れた時、Mは精一杯の笑顔で挨拶をした。しかし、SはMに対して明らかなシカトをしたのだ。それからMのSに対する敵意はさらに増していった。

でも結局、気の小さいMには何もできず、仲のいい友達に悪口を聞いてもらうくらいだった。ある日から突然、Mはよく金縛りにあうようになった。

今まで話には聞いていたが、自分が金縛りになるなんて思ってもいなかったのでMは怖くてしょうがなかった。

金縛りが何日か続いたある日、金縛りがとけるのをジッと待っていると、ベッドの足元に小さいおじさんの幽霊が現れて歌を歌い出したのだ。

何の歌かはわからなかったが、かなり大きめの音量で幽霊は歌っていた。それからは金縛りの度に、歌うおじさん幽霊が現れた。

それが5日ほど続いたある日。日頃から溜まっていたストレスと寝不足のせいで、その日はイライラしていた。

ベッドに入りウトウトしかけた時、またいつもの金縛りが始まった。

「何なのよ! 毎晩!」

Mはイラッとしていた。

声にはならなかったが叫んでいた。そんなこともお構いなしに、またおじさんの幽霊が現れて大きな声で歌い出したのだ。

イライラが限界に達したMは、おじさんに向かって力いっぱい叫んだ。

「うるさい! そんなに歌いたかったらSのところに行けよ!」

咄嗟に出た言葉はそれだった。その翌日から不思議と金縛りに合わなくなったし、おじさんも現れなくなった。

その頃、Mの仕事は徐々に減っていき、Sの仕事はどんどん増えていった。予想していた通り完全にMの負けである。

それから何カ月かした頃、Mが部屋でテレビを見ているとトーク番組にSが出ていた。もうライバル心もほとんど消えかけていたがなんとなく観ていた。

すると、Sが話し出した事にMは耳を疑った。
「最近、金縛りに遭うんです。そしたらおじさんが現れて『ご紹介にあずかり参りました』って言って歌い出すんですよ。でも私、金縛りにあってからなんか絶好調なんです!」

もしかしたら、Mは『福の神』をライバルの所へ送ってしまったのかもしれない……。

■集団コント

劇場というのは昔から「出る」とよくいわれている。

確かに劇場を頻繁に使う劇団員や若手芸人たちの体験談は後を絶たない。この話はまだテレビに出る事もほとんどない若手芸人たち数人が体験した話。

芸人の目標といえば、やっぱりテレビに出る事。そして、いずれ自分の冠番組を持ちたいと誰もが思っている。

売れない若手芸人コンビAもまたそんな事を思いながら日々ネタ作りに励んでいる。コンビAたちが、自分たちのネタを表現できる場所といえば月に1度のお笑いライブだけだった。

このお笑いライブはお客さんが100人も入ればパンパンになるような小さな劇場で、会場設営やチケットのもぎりなど後輩芸人たちが順番に手伝って行うような手作りのライブだった。

1カ月かけて作った新しいネタを、一生懸命チケットを手売りして集めた40人程のお客さんに観てもらう。そんな月に1度のライブが彼らにはとても大事だった。

「新ネタの出来はどうだったんだろう?」「ちゃんとお客さん笑ってくれたのかな?」などと若手芸人にとってそのライブが自分たちの評価を知る全てだった。

こういうライブには決まって開演前にお客さんたちにアンケートが配られる。このアンケートには「今日のライブの感想は?」「今日の出演者で誰がおもしろかった?」などの質問項目があり終演後に回収される。

これを芸人たちは隅々まで読んで次のネタ作りの参考にしたりもするのである。

その日も毎月恒例のライブが行われた。今回はコンビAたちを含む4組の芸人が出演するライブだった。4組のコンビがそれぞれの持ちネタの漫才やコントを5分ずつ順番に披露していくライブだ。

そして最後に「集団コント」というものがある。「集団コント」とは他のコンビの芸人たちと一緒にコントを行うもので、いつもの相方以外の芸人ともからむので大変勉強になる企画である。

この日、コンビAが一緒に集団コントを行ったのは先輩コンビBさんたちだった。この日の為に2週間前から4人で集まって一緒に稽古をしてきた。

そして、集団コントの時間がきた。コンビAたちの集団コントは「学校」の設定で、舞台上には教卓と机・イスが3セット置かれていた。

授業中に生徒たちが次々とボケていき先生がキレるといったコントだった。練習の成果も出て予想以上にウケて大爆笑だった。4人は大満足でライブを終えた。

4人は相当うれしかったのか、遅くまで楽屋に残り、今日のライブの感想を口ぐちに言い合っていた。

しばらくしてお客さんからのアンケートをまだ見てなかった事に気づき、20枚ほどあるアンケートを回し読みしだした。

アンケートはやはり

「面白かった」

「またやってほしい」

など絶賛の嵐だった。
それで、また盛り上がる4人。

「今日は美味しいお酒が飲めそうだな」なんて話しながら読んでいたら、先輩コンビBのツッコミの人が、急に黙り込んだ。

「どうしたんですか?」と聞くと、1枚のアンケートをみんなの前に差し出した。そこには「集団コント面白かったです」と感想が書かれていた。

みんなは「なんだよ。普通にいい感想じゃん。なんでそんな曇った顔してんだよ。」と言った。しかしその原因は、その前の文章にあった。

よく見るとそこには「5人の集団コント面白かったです」と書かれていたのだ。

他のアンケートを慌てて見てみると他にも、

「奥で1人ボーッとしてた人がシュールで面白かった」

「あの人は台詞ないんですか~?」

などのアンケートが4枚ほどあった。

後々考えてみたら、確かに4人全員が舞台からハケた後にも笑いが起きていたらしい。

■将来の不安

私の女友達に元芸能人がいます。といっても、売れる前に引退したので、「元」というのも微妙なのですが。

放送作家をしている私とは高校時代からの付き合いで、名前はカナ(仮名)といいます。カナは数年前に不幸な事件にあって、足が不自由で車椅子生活です。

そして、その事件のせいで、芸能界を引退せざるを得なくなったんです。カナからも許しを得たので、コトの全てをここに書きます。

ある朝、来訪者を告げるインターホンの音で目が覚めたカナ。寝ぼけ眼でモニターを見ると、そこには銀縁メガネをかけて髪を七三にきっちりと分けたスーツ姿の中年男が佇んでいました。

新聞の勧誘員でもなさそうだし誰だろう、と不審に思いながら、「どちらさまですか?」とモニター越しに問いかけました。

「厚生労働省のほうから来ました」男はそう答えました。

「厚生労働省の人がどのようなご用ですか?」

「私、厚生労働省のほうから来たんですが。あなた、国民年金に加入していませんね?」

男は詰問口調でそう言いました。確かにカナは国民年金に加入していませんでした。芸能人とはいえ、まだ仕事がそれほどないため、年金に加入するような金銭的な余裕がなかったのです。

このマンションだって事務所が借りているもの。カナはその場をどうやり過ごそうかと思案していると、男はさらに畳みかけてきました。

「年金に加入するのは国民の義務ですよ。早くここを開けなさい」

何かおかしい。この人、本当に厚生労働省の人なの?男の態度に疑問を持ったカナは男に身分の確認を求めました。

「いいから。開けて。早く開けろ。僕は厚生労働省のほうから来たんだ。開けろよ」

急変した男の口調に恐怖を感じたカナはモニターのスイッチを切り、無視を決め込みました。それでも、男はインターホンを鳴らし続けます。

約1時間ほど鳴らし続けた後、男は諦めて帰っていきました。そしてその夜です──。仕事の帰宅途中、カナを不幸な事件が襲いました。

何者かにいきなり金属バットで後ろから殴られたのです。命に別条はなかったものの、打ちどころが悪く一生半身不随の身になってしまいました。

退院して自宅マンションに戻ったカナでしたが、今後のことを考えると途方に暮れるばかりです。もちろん、芸能界は引退するしかありません。

そして、まもなくこのマンションからも出て行かなければなりません。こんな体で、これからどうやって生活していけばいいの……?将来のことを考えると不安は募るばかりです。

すると、そのときインターホンが鳴りました。また、あの男でした。

「私、厚生労働省のほうから来たんですが、年金の必要性がわかったでしょうか」

男は嘲笑いながら、そう言ったそうです。

──実は、この事件が起きる三日前。カナはテレビドラマの主役オーディションに合格していました。

もう一人の若手女優と主役の座を最後の最後まで争い、見事勝ち取っていたのです。しかし、半身不随となってしまったカナは降板させられることに……。

結果、前述の最後まで座を争った若手女優が繰り上がりで主役をゲットしたそうです。が、その若手女優の事務所は、バックにヤクザがいる事で有名な某大手事務所―─。

まさか、とは思いますが……。

■夜明けの子守唄

グラドルなんてやっていると、訳のわからないファンやキモいファンに悩まされたりすることが多々あります。あげくの果てにはストーカー事件に発展、なんてことも。

とはいえ、二流、三流雑誌にグラビアが掲載されるのがメインの私のようなグラドルには縁のない話。

……なんて思っていたら、ついに経験したんです。

身も凍るようなストーカーを。私のストーカー初体験の話を聞いて下さい。

19歳の時です。
週に2、3回、深夜4時前後にアパートのドアの外で、何かゴソゴソする音が聞こえるようになりました。

ある晩などは、子守唄のような歌声が聞こえてきたりしたこともあります。

薄気味悪く感じた反面、「これってストーカー? 私も人気が出てきた証なのかな」なんて冗談半分に考えていた部分もありました。

すぐに、それが甘い考えだったことに気づかされるのですけど。不審な音が続くので、ちょっと怖かったものの、誰がやっているのか見てやろうと、深夜4時前から前もってドアの覗き穴から外を覗いていたんです。

すると、覗き穴の視界の左側から、腰の曲がった和服のお婆ちゃんが、にゅるりと出てきたのです。

そしてうちのドアの前で立ち止まると、首をぐるんと回しドアの方を向き、微笑んでいるのです。

さらにお婆ちゃんは、紙袋を取り出し、ゴソゴソと音を立てながら中に入ったコンペイトウを食べ始めたのです。

いつも聞こえた音の正体は、このお婆ちゃんだった……。

私は恐怖のあまり声も出ず、腰が抜けたように玄関に座りこんでしまいました。

「なんで、知らないお婆ちゃんが私のところに来るの……」自分でドアを開けて話しかける勇気がなかった私は、警察に通報しました。

しかし、身体的な被害がないせいか、特に具体的な対処はしてくれませんでした。その後、私はその恐怖に耐えられず、別のアパートに引っ越しました。

しかし、一週間も経たないうちに、また夜中にドアの外であの物音がしたのです。まさか、と覗き穴を見ると、いたんです。

同じお婆ちゃんが。そのときは、ドアの前で囁くように子守唄を歌っていました。確実に私を追ってきている──。

そこで私の恐怖はピークを迎えました。

しかし、その後は「もういい。よく考えたら、お婆ちゃんなら別に危害を加えられる心配もないし」と、開き直っていました。そしてこれが不思議というか、なんというか。

その後、20歳の誕生日を迎えた日から、一切、お婆ちゃんは来なくなったのです。言いかえれば成人を迎えた日から、です。まるで親が子離れをするように……。

もしや、と思い実家から、私が産まれてすぐに亡くなった「ひいおばあちゃん」の写真を送ってもらいました。

そこに写っていたのは、ドアの前に来ていたあのお婆ちゃんと、同じ人でした。

■収録中の居眠り

若手芸人のBさんは無類の夜遊び好き。連日連夜のクラブやバー通いで、寝不足のために仕事に支障をきたすほど。

番組収録中にうっかり居眠りをしてしまうこともありました。それは、某クイズ番組の収録中でのこと。

司会者は大物タレントのA。彼に逆らうと芸能界では生きていけない、と言われるほどの大御所です。

それだけにBさんは「この収録だけは絶対に居眠りしちゃダメだ……」と、事前にブラックコーヒーを缶3杯も飲んで収録に望んでいました。しかし、突如襲ってきた眠気。

自分で自分の太ももをつねったり、叩いたりしてどうにか眠気を覚まそうと奮闘していたのですが……。番組後半には、ついにウトウトとし始め、次第に顔はうつむき加減になってきました。

「……ちょっと。おい、ヤバイって。Aさん見てるぞ」

ひな壇の隣に座る共演者に肘で突かれると、一瞬は目を覚ますのですが、しばらくするとまたコックリ、コックリと船を漕ぎ始めます。そんなとき、Aの大声がスタジオ内に轟きました。

「ちょっと撮影止めて!」

大声に目を覚ましたBさんのもとにAがズンズン近づいてきて、胸倉をつかんで怒鳴ります。

「お前、いい加減にしろよコラ!」

「すみません、すみません!」

Bさんのマネージャーがスタジオ内に駆け込んできて、それこそ床に頭をこすりつけるほどの土下座で謝罪します。もちろん、Bさんも土下座しています。

そして撮影は再開。しかし15分も経たないうちに、Bさんをまた強烈な眠気が襲いました。自分の意識とは裏腹に閉じてくる瞼、意識は遠のいていきます。

そして一度首をガクンとさせてしまった瞬間でした。

「ごめん、カメラさんちょっと止めて」

Aが、Bさんのもとに駆け寄ります。Bさんは〈これはもう、殴られる……〉と覚悟を決め歯を食いしばっていました。しかし、Aは笑顔でこう声をかけました。

「大丈夫か? 眠いだろうけど、もうちょっとだから頑張ってくれな」

と、Bさんの肩をポンポンと優しく叩きながら……。

〈なんで……〉

その不自然な優しさが、彼には殴られるよりも恐かったといいます。そして気付いていました、Aの目がまったく笑っていなかったことに……。

収録が終わり、Bさんは肩を落として自宅へと歩いていました。すると、突如後ろから何者かに羽交い絞めにされ、黒いワゴンに押し込まれたのです。

中には毛糸の黒マスクを被った男たちが三人。Bさんは必死に暴れましたが、無理やりに手と足を縛られ、口はガムテープで塞がれました。

そして黒マスクの一人が、ポッケからおもむろに取り出したのは、ホッチキス。

「……バチン バチンバチン バチン」

Bさんの上瞼と下瞼をホッチキスで留める音が車内に響きました。

「んん! んんんっ!」

あまりの激痛にのたうちまわるBさん。反射的に目を開けようとするほど針は食いこみます。そして耳元で、聞き覚えのある声が──。

「一生寝てろ」

■女子アナのトイレ

芸能人や業界人を悩ませている盗撮。芸能スキャンダル誌などに盗撮画像が流出したりして、事務所などが全くの別人だ、なんて否定したりしています。

また、テレビ局のトイレが盗撮されて、人気女子アナの画像が流出したことが話題になったりもしました。

某民放キー局での出来事です。ある日、女子アナの真帆さん(仮名)がアナウンス室でこう言いました。

「なんか、うちの局の女子トイレって盗撮されてるっぽくないですか?この前、トイレしてたら、カメラが回ってるような“ジー……”って音が聞こえたんですよね」

「うそー? ちょっと調べに行ってみる?」

先輩女子アナのAさんの発案で、一緒に女子トイレを調べに行きましたが、それらしい痕跡はありませんでした。

しかし、その後すぐに真帆さんのトイレ盗撮動画がネット上にあがっているのを同僚が発見しました。

大きなショックを受けた真帆さん。そしてこみあがってくる怒り。「絶対許せない」と局の上層部に訴え、警察にトイレの隠しカメラを捜索して貰う事に……。

しかし、カメラも、カメラがあった痕跡も見つかりませんでした。警察いわく「そもそも盗撮カメラはすぐに犯人に回収されることが多く、尻尾をつかむのは難しい」とのこと。

どうしても犯人を捕まえたい真帆さんは、ある作戦をとりました。盗撮カメラを仕掛ける犯人を、盗撮するカメラ。

言わば、「盗撮盗撮カメラ」を自分で女子トイレに隠し置いたのです。約三日間、テープを変えては回収しを繰り返していると、ついに尻尾をつかみました。

カメラが映していたのは、深夜1時。とある新人女子アナがトイレの個室に入った後でした。その後をつけるように、一人の女性が入ってきました。

すると、おもむろにバッグからカメラを取りだしたのです。そして、先に入った新人女子アナの個室の上からソーッとカメラを回していました。

そう、なんと犯人は女性だったのです。それだけでもビックリなのに、さらに驚愕の事実が分かりました。

背伸びをしながら、個室の上からカメラで盗撮するその女は……先輩女子アナのAさんでした。

真帆さんが、一番最初に盗撮のことを相談し、一緒に盗撮カメラを探した、あのAさんだったのです……。

真帆さんはすぐに上司にその映像を見せ、Aさんは減俸、停職処分になりました。

後日、Aさんが上司に涙ながらに明かしたという、その犯行理由は
「若い女子アナばっかりチヤホヤされるのが悔しいから、痛い目に合わせようと思って……」

というものでした。

女子アナ界に、妬み嫉みがあることは知っていましたが、まさかここまでとは──。

■同窓会

ここだけの話だけど、とAV女優の奈津美さん(仮名)がある関係者に明かした話です。

3年前。奈津美さんはAV女優ではなく、グラビアアイドルとして活動していました。所属事務所は芸能界最大手のひとつ。そのプッシュもあり、少しずつですがテレビにも出れるようになっていました。

そんなある日、奈津美さんのもとに高校の同窓会の案内が届きます。奈津美さんは、出席するかどうか迷っていました。というのも、彼女には出席を躊躇せざるを得ない理由がありました。

実は高校時代、奈津美さんが主犯格になって1人の女子生徒をイジメていたからです。

その女子生徒、恭子(仮名)を裸にして携帯で撮影した写メをネットで流したり、冬の学校のプールに突き落としたりとやりたい放題でした。今さら顔を合わせにくい、というのが正直なところ。

しかし、それでも奈津美さんは同窓会へ出席することを決意しました。当日、会場のホテルへ向かうと、さっそく恭子を発見してしまいました。

どんな態度で接したらいいか迷いましたが、
「もう昔の話だし」と、何事もなかったかのように振る舞うことにしました。

「久しぶり~!」

パッと表情を明るくし話しかける奈津美さんに、恭子は答えます。

「わぁ、久しぶり。この前テレビで見たよ! グラビアアイドルやってるんだね~」

思ったよりも気さくに返してくれました。肩の荷が下りた奈津美さんは、久しぶりに会う級友たちと楽しい時間を過ごしました。

同窓会もお開きになり、奈津美さんが帰り支度をしていると、恭子さんが後ろから肩を叩きます。

「ねぇ奈津美、ちょっと二人で話したいんだけど、いいかな?」

「ん? いいけど、なに?」

奈津美さんは恭子さんについて行きました。着いたのは、上の階にあるホテルの一室でした。

「そこ、座って」

部屋に入ると、恭子さんは自分の向かいのソファーを勧めます。そして何も言わず、穏やかな笑いを浮かべながらじっと奈津美さんを見つめ続けるのです。

「え、どうしたの? てかこの部屋なに? 自分でとったの?」

「実はね、会ってほしい人がいるの」

「……会ってほしい人?」

奈津美さんは恭子さんの意図が読み取れず、困惑しました。

「入って来て」

恭子さんが、その「会ってほしい人」を呼び込みます。

ガラッ。

となりの部屋との仕切りの襖が開き、中から男性が出てきました。その男性を見て、奈津美さんは思わず立ち上がりました。

その男性は、奈津美さんの所属する、芸能界大手事務所の社長だったのです。奈津美さんは、起こっている事態を把握できなくて、立ちすくんでいます。

「私の夫です」

恭子さんは笑顔で紹介しました。驚きのあまり、声も出ない奈津美さん。

社長はそんな奈津美さんを見ながら、含みのある笑顔で言いました。

「お疲れ様。妻から全部話は聞いたよ。お前、クビな。あと、もう芸能界にはいさせないから」

こうして芸能界で居場所を失った奈津美さんは、訳の分からないインディーズ映画でヌードになった後、騙されてAV事務所に所属。

それでもいつかは芸能界に戻ると意気込んでいましたが、今は諦め、ハードプレイで人気のAV女優として活躍しています。

■疾走したAD

テレビ局のADは今も昔も変わらず辛い仕事です。女である私が現在5年も続けられているのは、いつかは一流ディレクターになって良質のドキュメンタリーを撮りたい、という夢があるからです。

男性が多い業界なので、正直、セクハラも多いです。初めのころはそれが嫌で嫌で仕方なかったのですが、それも目が回るほどの忙しさの中で、どうでもよくなってきちゃいます。

あと、これはあんまり言いたくないのですが過労死した知り合いADもいます。デスクにうつぶせになり仮眠していると思ったら、死んでいたのです。

それは極端な例ですが、とにかくADの仕事は過酷なのです。さらに新人ADの時期なんてもう恐ろしいくらいで、すぐに辞めてしまう人ばかりなのです。

そういえば、こんなこともありました。うちの会社に新人で入ってきたTクンという二十歳の男の子がいました。

真面目で勉強熱心で、仕事を始めて3日目にはすでにディレクターの人たちから「コイツはできる!」と評判で期待のイツザイでした。

……が、入って4日目に突然、職場に姿を見せなくなったのです。彼に限って急にばっくれるコトなんてないだろう、と我々も困惑気味。

彼の携帯に電話しても、「この電話番号は現在使われておりません」というメッセージが流れるだけ。それから2日が経っても、会社には来ませんでした。

私はおかしいと思っていましたが、「残念だけど……ばっくれたな」というのがプロデューサーの見解でした。

そして数日後、会社のスタッフみんなでデスクで食事をしている時に、Tクンの話になりました。

すると一人の古株ディレクターがTクンの履歴書の顔写真をまじまじと見つめながら、つぶやきました。

「あれ、コイツって5年前にウチで働いてなかったけ?」

そんなはずはありません。だって、5年前だとTクンは15歳、まだ中学3年生ですから。しかし、他のスタッフから何名か「言われてみれば、名前も同じだし、顔も同じですね」という声が。

そして古株ディレクターは震えながらこう続けました。「でも、彼はもうこの世にいないはずだよ……」

そう、なんと彼はテレビの現場の理想と現実のギャップに失望して、5年前にスタジオで首を吊って自殺したというのです。

じゃあ、この前まで我々の前にいたTクンとは一体?全員が青白い顔で震える中、プロデューサーは「このことは一切口外無用」と、全てをなかったことにする決定を下しました。

亡くなったTクンが何を意図して、再び職場に現れたのかはわかりません。テレビの仕事に未練がまだ残っていたのでしょうか。

それとも、忙しさのあまり人間性を失ってしまいがちな我々に、警鐘を鳴らすために舞い戻ってきたのでしょうか。

私には、どうも後者のような気がしてならないのです。

■監督が呼んでる

あるB級ホラー映画に出演した女優に聞いた話です。初めて映画の撮影にのぞむ彼女は、クランクインしてからがっかりしたそうです。

主役でもない彼女は、恐ろしいまでの待ち時間と監督からのダメ出しにうんざり。撮影が進むにつれ、こんな事が続くなら辞めてもいいや、と投げやりな気持ちになっていたそうです。

その日も長い待ち時間を憂欝に過ごしていました。とあるマンションで撮影することになったのですが、機材トラブルのため撮影はしばらく止まったままでした。

撮影が進まないのと、そのマンションの持つ雰囲気が彼女を憂欝にさせていました。楽屋の中で台本をチェックしていても、全然集中できなかったそうです。

その部屋が悪かったのか、重苦しい空気とうっすらと耳鳴りが続いていたそうで、ちょうど、電車に乗っていてトンネルの中に入ったときのような気圧が変わった感じだったそうです。

イヤな感じのする楽屋に閉じこもりっぱなしの彼女は、早く撮影の出番がこないかと待っていました。

すると、「ワーン」と響く耳鳴りが強くなってきて思わず悲鳴を上げそうになった瞬間、耳鳴りが止まりそれと同時にドアのノックが聞こえました。

ハッと身構えた瞬間、向こうから「A子さん、監督がお呼びです」と声が聞こえてきました。

A子さんは、いつもは会話するのもイヤな監督でしたがこの時ばかりは喜んで向かいました。

「ここで待っててください」

この建物の空気に参っているのか、だらしなく髪の毛を伸ばした元気のないスタッフの男性に言われたまま、誘導されたとある部屋の前で待っていました。

撮影初日からミスばっかりしていたA子さんは、また監督に怒られるのではないかと再び不安に思ってきていました。

しばらく待っていましたが、部屋の中にいる監督はA子さんを呼び出す気配もありません。

不審に思ったA子さんは監督のいる部屋のドアをノックしました。しかし、しばらくしてもまったく反応がありません。

思い切ってドアのノブを回してみました。が、鍵がかかっていて開きません。

そこへ、A子さんのマネージャーが、

「A子さん、何やってるんですか?」

と息を切らせながらやってきました。

「監督に呼ばれて……」

と、A子さんが言うとマネージャーは呆れた顔で、

「なに言ってるんですか! 監督はもう撮影に入ってますよ。ていうかA子さん待ちで撮影が止まってるんですよ!!」

何がなんだかわからないまま、撮影現場に戻り監督に謝った彼女はその後も撮影を続けたそうです。

長い撮影と監督のお説教から解放されたA子さんが、マネージャーに事情を話したそうです。するとマネージャーが青い顔をして「出たんだね」と言いました。

実はこの映画の撮影で使われているマンションで殺人事件が起こったとの事で、映画の製作スタッフからは霊感が強いタレントは使わないでくれと言われていたそうです。

別の映画では霊感の強い女優さんが撮影のなかばに降板してしまい、スタッフはおおわらわになったことがあったそうです。

それでも監督は、確実に“出る”と言われているマンションでリアルなホラー映画を撮りたかったそうです。

A子さんが「待っていてくれ」と言われたその部屋――。その部屋こそが、殺人事件が起きた部屋だったそうです。

しかも、後にわかったことですが、A子さんを呼びにきた髪の長い男性はスタッフの中に存在しませんでした。

一体なんの理由でA子さんをあの部屋に呼び入れようとしたのか。その理由は結局わかりませんでした。

その後、監督の狙い通りなのか完成したその映画には得体の知れない“何か”があちらこちらのシーンに映りこんでいたそうです。

■罰当たりな企画

作家として関わった番組から本を出すことになり、その時に知り合った編集者から聞いた話。

仕事もひと段落つき、居酒屋で二人で打ち上げがてら酒を酌み交わしていた時のこと。彼は突然、僕にヒソヒソ声で話しかけてきた。

「……心霊モノの番組ってやった事あります?」

なんだそんな事、というような質問だった。僕は基本的にはバラエティを担当しているのだが、夏場などたまにひょっこり心霊番組をやることもある。

そんな他愛もないことをこんなにぎやかな居酒屋でこそこそ話さなくてもいいのにと思った。だが、彼は続けて、ヒソヒソ声で聞いてきた。

「なんか、ヤバイことなかったッスか?」

その質問を受けて僕は頭を巡らせた。普通、心霊関係の番組をやっていれば何らかのトラブルに巻き込まれるものなのだが、僕に限ってはそんな事は一切なかった。

「僕はそういうのないですね」

「そうですか……」

ちょっと残念そうな彼の顔を見て悪い気になった。こういう時に心霊バナシの1つでも用意できていれば、盛り上がるのに……。

彼に気づかれないようにちょっとだけ反省していた。すると彼が突然、それまでのヒソヒソ声でなく、元気いっぱいの声でこう言った。

「俺、あるんスよ」

さっきまでのヒソヒソ声はなんだったんだと、呆れながら彼の話を聞いた。

それはこんな話だった……。

今から数年前、トレーディングカードが流行の兆しを見せ始めていたころ。彼はある企画を思いついたのだという。

それは、「心霊写真トレカ」だった。

彼が担当していた雑誌のコーナーに心霊写真を扱う企画があった。そこに送られてきた心霊写真をトレーディングカードにして売り出そうというブッとんだ企画だった。

さらに、その心霊写真に「霊力」「体力」「攻撃力」「怨念パワー」などのパラメーターをつけ、戦わせるというちょっとイッってしまっている内容だった。

今考えてみれば、ずいぶん不謹慎な企画なのだが、折しもトレカブームだったため、「何が当たるかわからない」と彼の上司もその企画を通してしまったのだ。

それ以降、彼はそのトレカの製作のため心霊写真を集めはじめた。その数は膨大な物になり整理がつかないくらいだった。

彼はその心霊写真1枚1枚をチェックし、いい心霊写真を選抜していった。それまでは何も起こらなかったのだという。

いよいよ、心霊写真の選抜も終わり、トレーディングカードのサイズに合わせるためにパソコンに取り込んだ写真のデータをカットしていく作業に入っていた。

その頃から、異変は起きたらしい……。
 
夜遅くまで続けられる作業。ふと気づくと視線を感じる事が多くなったという。

それも、一人だけでなく複数の人に見られている感覚。こういう事は起きるだろう、と腹をくくってはいたが日増しに不思議な現象は増えていった。

彼が作業を始めると会社のあちこちでラップ音がなりひびく。しかも、昼のにぎやかな社内に響き渡るように「ピシッ」とか「パンッ」となるのである。

女子社員は気味悪がっていたが、彼はその企画をやめなかった。さらに、全面禁煙の社内で突如ゴミ箱から吸殻を捨てたわけでもないのに煙が出てボヤになったことも……。

ちなみにそのゴミ箱からは彼が廃棄した心霊写真が見つかった。他のゴミは焼けていたのに、その写真だけはなぜか無傷で残されていた……。

企画にOKを出した上司からもやめておいたら、とやんわり言われることもあったが“企画を通す”という熱い使命感にかられた彼はそれでもやめなかった。

そんな彼の家でも異変が起き始めていた。彼は生まれてはじめての金縛りにあった。金縛りにあった瞬間目を開いてあたりを見回したが何も出てこない。

ただ、1人暮らしの彼の部屋の中を「ピシッ」「パンッ」とラップ音が響くだけ。「なんだこんなものか」と安心した彼だったが、それから日を追うごとに一晩での金縛り回数が増え、その時間が長くなっていった。

最後には寝てすぐに金縛りにかかり朝までずっとその状態だったことも。霊現象もさることながら、体力的にも精神的にも参った彼は、その企画を途中でボツにしたという。

その後、金縛りがおきなくなるまで1週間ほど神社へお祓いに通った。心霊写真でひと儲けをたくらんだからなのか、それとも心霊写真をデータとは言え切り刻んだり加工したからなのか、彼の身にあまりにも不思議な事が起きてしまったのです。

「でもあの企画、いつか出そうと思ってるんです」

彼はまたヒソヒソ声に戻って話していました。

■地下アイドル

アイドルマニアの放送作家です。
CS放送や地上波深夜でアイドル番組を担当させて貰っています。

突然ですけど、「地下アイドル」ってご存知ですか?テレビや雑誌などのメジャーなメディアで活動するのではなく、ライブや撮影会などアングラな世界で活動するアイドルのことです。

手っとり早く言っちゃうとインディーズのアイドルみたいなものですが、そうバカにしたものでもありません。

今をときめくAKB48やPerfumeだって、地下アイドル出身なのですから。

そんな地下アイドル界には、こんな都市伝説があります。

その主役は、J子さん。
J子さんは地下アイドル界では1、2位を争う人気者で、食事会や飲み会など、ファンとの交流イベントも定期的に開催していました。

それだけに熱狂的なファンも多く、中でもとりわけ有名だったのが、「原田」という男。ちなみに偽名らしいです。

彼は30歳代後半の小太りの中年男で、薄くなりかけ脂ぎった頭髪、ファッションもゴルフズボンのようなスラックスに変な柄のシャツをタックインしている、いかにもアキバ系なビジュアル。

ただ、お金だけは持っているようで、J子さんの自主制作CDや生写真を大量購入していきます。

原田のあまりのJ子さんへのお熱ぶりに、他の地下アイドルの子たちは嫉妬まじりにこんな陰口を叩くことも。

「J子、いい金づる捕まえたよねー」

「原田とまさかの枕営業でもしてんじゃね?」

そして、原田が地下アイドル界で有名な理由はもうひとつ。過去に、別のアイドルの子をストーカーして逮捕された経歴があるのです。

そんなことからJ子さんを心配する周囲の声もあったのですが、

「原田さんは大切なファンだし、優しいから。大丈夫だよ」

とJ子さんは気にしていない様子でした。

そんなJ子さんでしたが、某大手プロダクションの目にとまり、メジャーデビューの話が持ち上がりました。

そして、彼女は原田に

「もう遠い存在になっちゃうから、1日だけデートして欲しい」

とお願いされたのです。一度は断ったJ子さんでしたが、恩返しの意味も込めて、やはりOKすることに。

デート当日。
二人は原田には似つかわしくない洒落たレストランで食事をしていましたが、J子さんは気分が悪くなり、猛烈な睡魔に襲われます。

そして、原田のクルマで自宅に送ってもらう途中、完全に意識を失ってしまいました。彼女が目覚めると、そこは知らない民家の1室。

その部屋は、窓をはじめ天井や壁全面にJ子さんのポスターや生写真で貼り尽くされ、異様な雰囲気でした。

BGMには彼女の曲が流れています。そして、部屋に入って来たのは、手錠を手にした原田でした。

「ボクだけのアイドルになってよ」

J子さんは芸能界を辞めてしまっていて、本当かどうかは分かりませんが、この都市伝説はファンとの距離が近くなりがちな地下アイドルにとって、いい教訓となっているようです。

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