以前も、全顔面移植手術により、失った顔を取り戻した男性の話をご紹介しました。今回は、前回よりもさらに過酷な手術に挑んだ、アメリカのメディカルチームの話をお伝えします。

出典 http://nyulangone.org

手術を受けた男性。顔を失う前から、再び顔を取り戻した後の姿。

出典 http://www.theguardian.com

事故に遭う以前のパトリックさん。五人いるお子さんの末二人は、お父さんの火傷前の顔を知りません。

現在41歳のパトリック・ハーディソン(Patrick Hardison)さんは、2001年に消防士としての任務を遂行中、不慮の事故により重度の火傷を負いました。首から上の皮膚は炎によって焼けただれ、パトリックさんとは認識できないほどに変貌してしまったのです。症状は彼の生命をも脅かすほどに深刻で、これまでに70回以上の手術を受けてきました。そして、2015年8月14日、事故で亡くなった男性の顔を提供され、頸部から上の皮膚を全面的に移植する手術を受けることになったのです。

常識では考えつかない手術

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まさに大学を挙げての一大手術だったことが伺われます。

今回の手術は、アメリカのニューヨーク、ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンター(NYU Langone Medical Center)で行われました。手術に携わったのは、執刀医のエドワルド・ロドリゲス(Dr. Eduardo D. Rodriguez)医師と、100人にも及ぶ医療スタッフでした。手術には26時間が費やされ、2012年に行われた顔面移植に続き二度目の快挙となりました。(2012年には女性の顔の移植手術に成功)

問われる倫理観

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手術の日を待つパトリックさん。

出典 http://www.buzzfeed.com

死後、顔をパトリックさんに提供したデビッド・ローデボウ(David P. Rodebaugh)さん。事故で亡くなった彼は、生前臓器提供者として登録していました。

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顔の真皮を剥がしたところ。この複雑さが顔に表情を作ります。

前回と同様に、顔の皮膚を移植するのは、それほど成功率の高い手術とは言えません。なぜなら、顔は最も複雑な細胞組成部位であり、筋肉と血管と神経系が複雑に配置された、いわばコンピューターのICチップ(さらに数段複雑かもしれません)のような様相を呈しています。そのどの部分でさえも、必ず再生する保証などはありません。それだけに、手術は殊更困難を極め、慎重を要します。もし、血流が滞り細胞が壊死するようなことでもあれば、それこそSFホラーさながらの恐ろしい状況に陥ります。まだまだ臨床データも不足しており、どのような事態が起こるかも予測できません。最悪の場合、移植した顔を再び剥がさなければならなくこともあるのです。しかも、死体からボディーパーツを移植するのは、それこそフランケンシュタイン博士の行った実験と同じです。医学への貢献とはいえ、倫理観が問われます。

大学の威信!それとも?

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執刀医のロドリゲス医師。

医学会の動向を見ていると、それぞれの大学が、医療業績を競い合っているように感じられます。競争が悪いというのではなく、それらがあたかも地位や名声だけに囚われているように思えてならないのです。前回はメリーランド、そして今回はニューヨークと、何かのっぴきならない医療界の裏事情が漂っていそうな気がします。言うまでも無く、医学の発展によって苦痛から開放される人が増えることは素晴らしく、そこに異論はありません。しかしながら、それがただ大学の面目とか、成功事例を作りたいがための虚栄心とかに基づくものなら、決して正しいとは言えないでしょう。

あなたの目で判断して下さい

どのような手術が行われたかは、文章だけでは伝わりにくく、何よりもその過程を見ていただくのが一番です。以下に掲載するのは、ニューヨーク大学が公開する教育用ビデオのキャプチャー画像です。アニメーション仕様で今回の手術を説明しています。医学の発展が先か、それとも倫理が問われるのか、あなたの目で確かめてみて下さい。

出典 http://www.med.nyu.edu

左が臓器提供者です。右が今回の手術を受けるパトリックさんの設定です。

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臓器提供者の首から上の皮膚をそっくりそのまま剥がします。

出典 http://www.med.nyu.edu

移植を受ける側も同様に皮膚を剥がし、移植する部分全体をそのままの状態で移し替えます。

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しかし、顔の骨格を移植する皮膚に合わせて矯正する必要があり、骨を部分的に加えたり削ったりしなければなりません。亡くなった方の顔に近付けることは、提供者の遺族の要望でもあったようです。

出典 http://www.med.nyu.edu

皮膚を切り取って貼り付けます。

出典 http://www.med.nyu.edu

これが移植した状態。後頭部と首の付け根で縫合します。

出典 http://www.med.nyu.edu

細部に渡り接合する必要があり、ただ貼り付ければいいというわけではないようです。

今後、パトリックさんは抗体反応を抑制する薬を飲むことになり、それはこの先もずっと継続しなければなりません。それは、同時に免疫力を低下する事にもなり、ちょっとした怪我や病気でも命取りになる危険性が伴います。メリーランドのリチャードさんの場合は、何度か拒絶反応が起こり、相当危険な事態にも遭ったようです。

最後に

「医療の発展に犠牲は付きもの」とはよく聞く言葉です。ミドリ十字の非加熱製剤の時もそうでしたが、例えそれが医療の貢献に手を貸しているとはいえ、被害者が出ては本末転倒です。いくら顔を失くし絶望に打ちひしがれていたとしても、命を危険に陥れてまでする必要はあるのでしょうか?最後は本人の意志に委ねる事としても、何か釈然としない気持ちが残ります。

出典 http://nyulangone.org

これは、術後初めて、パトリックさんが子供達と再会した時の映像です。後ろにいるのはお嬢さんですが、心持ち顔が強張っているように見えます。

本人もそうでしょうが、別人の顔を持つ父親が聞き慣れた声で話す姿を、はたして周囲の人達はすんなり受け入れることは出来るのか?多感な年齢の子供にとっては、かなりショッキングな出来事だと思います。この先も、拒絶反応が起こらず、危険な状態をなるべく回避しながら生活されることを祈っています。

世界でも最も広範囲の移植手術を受けた消防士

出典 YouTube

彼は一生懸命話をしようと試みますが、まだはっきりと聞き取れるほどではありません。

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今季おススメのアニメは「うしおととら」。海外ドラマでは「ブラックリスト」。これまでに見た映画の中では、個人的トップ10の常連である、「フィッシャー・キング」です。

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