リチャード・ティー「INSIDEYOU」 1989年のリリース以来、かなり長いつき合いとなっているヘビーローテーション盤。

Tell It Like It Is

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80年代の前半に出したティーのソロアルバムには、たとえば「Tell It Like It Is」のような小気味よく、まるで気楽な調子のティーのヴオーカルと、あのフェンダーローズの独特で美しい音色からくる、温かな陽光のようなイメージが強くあった。


そのニューヨークでの普通の日常の中にある緩やかな空気と愉悦を音で表現しているような温かな平常心の音色には随分和ませてもらった。


勿論、このアルバムでもあのティー独特の洒脱で肩の力の抜けたリラックスした歌声とフェンダーローズの温かな調べは健在すぎるほどに健在である。


しかしその一曲、一曲には、まるで誰もいない閑散とした終末のニューヨークを空から俯瞰して眺めているような、そんな奇妙な寂しさと翳り、悟りと諦念の気配というか、ある意味かってのフイッツジェラルド的な視座がどの楽曲にも感じられる。


だからかリチャード・ティーらしからぬアルバム、と呼ばれたりもしがちな一枚なのだが、しかしその味わい深さは、ティーのフェンダーローズもその洒脱な歌声も変わっていないだけに、より深く楽曲の翳りと静的な諦念の深みを感じさせるものになっている。

この数年後、ティーは次の遺作を残して49歳の若さで他界してしまうが、そんな彼の死後にまた改めて聴き続けていると、ティーの晩年の深い諦念と悟り、その憂慮の気持ちに接しているような気分にもなる。


89年といえばかってのクロスオーバー→フュージョンブームも退潮期に入っていた時期で、納得のいかない形骸化したフュージョンアルバムがメインストリームを走っていた頃だ。

そんな終わりの時代にティーは敢えて深みのあるニューヨークの静けさと翳りをフィッツジェラルドのような憂慮をもって表現してみせたのかもしれない。



「ルイジアナ・サンデーアフターヌーン」には、特に強くそんな終わってしまった時代の哀感がブルージーかつソウルフルに出ている。

結局ティーは時代錯誤と言われようと、安っぽいシンセ音全盛の時代に、死ぬまであのフェンダーローズの温かくも美しい音色を守り続けてこの世を去った。




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懐かしい

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大口和久/これまで「季刊カイエ デュ シネマ ジャポン」(フィルムアート社)、「文藝別冊」(河出書房新社)、「映画芸術」(編集プロダクション映芸)、「観ずに死ねるか!傑作ドキュメンタリー88」(鉄人社)他に書きました。

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