例えば、子供が言うことを全く聞かない時、子供が自分に全く話をしてくれなくなった時など、成長過程で子育てにぶつかることは何度もあるだろう。そして行き詰ったら「どうして」「なんで」「どこで子育てを間違えたんだろう」そんな風に思ったことはないだろうか。

筆者はある。筆者の息子は5歳手前だが、言うことを聞かずにほとほと悩む時もある。自分ではベストを尽くしているつもりでも、もちろん人間みな完璧ではない。どこかしら子育ての仕方が間違っているのだろうか、だからこんな態度になるのだろうか、などなど毎日の悩みは尽きない。

しかし、愛する我が子が、これまで大切に育ててきた息子が犯罪を犯したとしたらどうだろう。そして刑務所に入ることになってしまったら?たった一人の息子が、今刑務所暮らしをしているという母親の日々の苦悩と葛藤がイギリスの新聞に掲載された。貴重な経験談である。

「ちゃんと子育てしてきたつもりだったのに。」

出典 http://www.theguardian.com

ごく普通の中流家庭で息子を育てて来たと思った。何不自由なく、また、親として夫と共に愛情をめいっぱい注ぎ、ちゃんと躾けもした。それなのに肝心の息子はいつも安全な場所を好まなかった。

「常に危険なことにチャレンジしたがるような息子でした。」そうジェーン(仮名)は語る。「私達は駐車違反も今までにしたことがないような夫婦なんです。どんなことでも誰かの迷惑にならないように生きて来ました。息子が危ういことをしそうになったら注意もしていました。」

だが、どこかで息子の歯車は狂ってしまった。10代になり家を出た息子は社交生活を楽しむようになった。親の目を盗んで飲酒、喫煙、ドラッグ、何でもやった。そしてある日、ジェーンのもとに警官が訪れ息子を逮捕したと伝えた。

息子は数種の違法ドラッグに手を出していた

出典 http://www.gettyimages.co.jp

「刑務所がどんな所か知るわけもないから、息子がこれから入ることになる場所を想像するのが困難でした。」そうジェーンは言う。息子が犯した罪なのに、まるで自分も責められている気持ちになった。

近所の人、職場の人がなんて噂するだろうと思うと被害妄想に陥った。明るい性格だったのに息子のことが原因で塞ぎこむようになってしまった。

カレッジの講師であるジェーンは、職場の人には詳細は話していないという。なんとか仕事を続けてはいるが極力仕事を減らしているという。「まだ、事実に直視できないんです。」

刑務所に息子を訪問する時も、周りの人に「あら、お出かけ?」と言われれば必ず嘘を言うという。刑務所の門をくぐるとまるで別世界だ。手荷物検査、身体検査をされ、気持ちが萎縮してしまう。

監視が厳しい面会室で、初めて息子に会ったジェーンは「ここでハグしてもいいの?」と思わず聞いてしまった。すると息子に「ここは刑務所なんだから。誰もそんなことしないよ。」と言われたという。「ここは刑務所なんだから。」息子の言葉が重くのしかかった。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。なぜ、私の息子がこんな所にいるのだろう。どこで、どうやって子育てを間違えてしまったのだろう。息子が逮捕されてから、そう考えない日はなかったという。

「夫は今でも息子に怒り、許せない気持ちを持っている」

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「私はもう怒りを通り越してしまったんです。」そうジェーンは言う。「刑務所を訪ねても食べ物はまずくないの?とか他の受刑者たちとはどうなの?とか聞くんですけど、答えて欲しくもないんです。きっと聞きたくもないだろうし。でも親だから聞いてしまうんです。」

ジェーンは、息子が逮捕された日から、自分の中で湧きあがった様々な感情を押し殺すように生きて来た。息子は今24歳。10代最初の頃はちょっと悪いことをしても「なかなかやるじゃない。」と逆に周りに言われたりもしていた。しかし、犯罪を犯すのはまた別問題だ。

ジェーンと夫は常に息子をサポートしてきた。横に逸れたがる息子を修正しようと必死になったこともあった。親だからこそ、息子の人生を注意深く見守っていたのだ。

「それが今ではこんなことになってしまって。正直、簡単に話せることではないし、息子のことを知っている人に息子さん、どうしてるの?って聞かれてもええ、元気よって言って、話題を変えたりするんです。私の中の気持ちがまだまだ落ち付かないんです。」

母として、今自分にできることは何だろうか

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複雑な感情が入り混じる日々を過ごすジェーンだが、刑務所の息子と連絡を断つことだけはしたくはないと言う。「母としてそれは耐えられないことだから。息子が罪を犯したことはわかっています。でもあの子はいつまで経っても私の息子なんです。だからずっと連絡を撮り続けます。」

これまでと変わらないサポートをし続けると決心しているジェーン。刑務所にもできる限り訪問したいという。「息子は心を入れ替えるって言ってます。出所したら新しく人生やり直したい、って。だから私も前向きにならなきゃと思ってるんです。家族のためにもそうしなきゃいけないんです。」そう自分に言い聞かせるように、ジェーンは話した。

我が子が刑務所に入る犯罪を犯してしまった時、普通の母親なら当然被害者がいれば詫びる気持ちでいっぱいになるだろう。しかし、恐らく刑務所に入る当人よりも世間の風当たりが冷たくなり辛い社会生活を送ることになるだろう。

だから日本でも言われる。「加害者家族も被害者です」と。ジェーンの気持ちを知ったことにより、それは本当だと実感した。刑務所暮らしをする当人よりも精神が病んでしまうことも多いだろう。犯罪者家族には世間の対応が厳しいのはここイギリスでも同じだ。

ジェーンのいうように、自分の息子を信じるしか道はないのだろう。それが母としてできる唯一のことなのだから。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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