午前2時30分。前夜に飲んだ酒の酔いが深く残るまま、待ち合わせ場所である“栄町交番前”に歩を進める。行き交う人は皆無。走る車はタクシーかトラックばかりだ。こんな時間から外で活動する人種は他には、山屋と釣り師ぐらいのものであろうか。

今日は人生初、釣りに出かける。この丁度梅雨時、茨城県の霞ケ浦にはバサーと呼ばれる釣り師たちが全国から集結するという噂を聞きつけ、釣り師の釣りに同行を願ったのだ。だがまさか、こんなに早い時間に出かけるとは予想できなかった。釣り&釣り師、おそるべし。

目的は“ブラックバス”と呼ばれる巨大魚を吊り上げること。バサーとは、この魚をターゲットに集う釣り師達の呼称だ。実は釣り人口は2011年の統計で970万人。1,000万人を割り込んだという記事を読んだことがある。ところが潜在人口は更に多いと言われ、彼ら釣り師たちの間では、良く釣れるポイントなどのデータなどはネットには上げないなど暗黙の了解があり、元々表に出にくい統計対象なのだ。実際の釣り人口は統計よりもかなり多いとすれば、非常に大きな余暇市場だ。そう思って仕事場に行く途中、川などをみると、必ず釣り師の姿を見かけるではないか。また、女性の参加率が4.6%と極端な男性市場であることも興味深い。
なかでも外来魚で、攻撃的な気性の激しいブラックバスを、深夜からチェイスする醍醐味がいかなるものか、垣間見たいと取材の手を挙げた。

自宅近くの交差点、東八道路の栄町交番前に出向くと、すでにK氏が到着していた。待ち合わせの心配は杞憂に終わる。こんな時間に交差点近くで、ハザードを出して待機しているワンボックスは他にいないからだ。

20年のバサー歴を持つK氏の車は、釣り師のウェポンが満載の、さながら装甲車のよう。最後列のシートは格納され、二列目の真ん中のシートも格納されており、運転席まで続く長い空間を、釣竿が2本鎮座している。昔の釣堀のイメージしかもっていない目からその釣竿をみると、黒のカーボンシャフトが夜の光を乱反射している様は、まるでライフルのようだ。

三鷹駅と吉祥寺駅の、ちょうど中間辺りにある瀟洒なマンション前で車は止まる。そこで釣り師拓ちゃんをピックアップ。拓ちゃんは大会で上位入賞を果たしているバサーだ。情報の少ない釣り市場だが、著名なプロも多々いるところを見ると、市場の盛況ぶりは、推して知るべしだ。

車は東関東自動車道を進む。目指すは潮来インターチェンジ。ここはちょうど、日本第2位の面積を誇る霞ヶ浦の基部だ。この霞ヶ浦、水際線延長は実に249.5kmと日本一で6水域からなり、やはり東京を始め関東の水源である日本最大級の利根川下流域に位置し、ワカサギや白魚など貴重魚の漁獲で名高い。

東関東自動車道を進むとまず、その景色に圧倒される。ともかくも広いのだ。両脇に田園が広がり、その広大さにしばし、魅了される。

早朝は商業者以外の車の往来は極めて少なく、快調に距離を重ねることが出来、目的地の潮来インターチェンジには午前4時には到着することができた。あいにく天気は小雨模様。だが、この小雨は魚の活性にとって最高の条件とのことで、更に予報通り程なく雨が上がれば、理想的な釣り条件だとのこと。特にブラックバスは朝夕に最活性をむかえると聞けば、否が応でも期待が高まる。

最初に我々がデポしたポイントは、前川の中流だ。詳細は例の、暗黙の了解のために記すことが出来ないので割愛。この近辺には無数に水路や河川があり、その特徴としては、透明度が一様に低いが、この環境がブラックバスには適しているそうだ。ブラックバスは隅にじっとして獲物を待っており、小魚やカエルが目の前を通過すると、猛然とダッシュし一撃で飲み込んでしまう習性があり、その極めて攻撃的な様がYouTubeなどに動画としてアップされているが、何れの動画を見ても、パワフルで圧巻の一語に尽きる。この習性を逆手にとって、釣り師はルアーと呼ばれる疑似餌を用いて彼らに挑む。このルアーも実によく出来ていて、音がでたり泳ぐような動きをする小魚やワームが数多く開発されている。

ブラックバスの釣り師たちは、大物狙いだ。中でも全長50㎝を超えるサイズをランカーと呼び、このランカーバスをあげることがバサーのステイタスになっているそうだ。ちなみに拓ちゃんは、ランカーバスをあげたバサーだ。

イザ、出陣

拓ちゃんには、バスが動きを止める冬の期間、その練習として西武園ゆうえんちの釣堀に連れていってもらったことがある。その時に竿の扱い等々一通り教わったが、こうして広大な川を目の前にすると、期待感もテンションも比類なく高まる。また、自然が相手だけに、相当に勝手自体も遊園地の釣堀とは異なるものだ。

釣堀は環境が整えられている。特に障害物などは皆無だし、木立に囲まれた釣堀は、それほど風雨の影響を感じさせなかった。これがまず勝手が異なるところ。

また、バサー2人は実によく動き移動する。通常釣りのイメージは自分の中では、魚が餌に食らいつく時をじっと待つそれであったが、そこもまた勝手が異なった。ブラックバス自体が他の魚に比べ、じっとしている魚なのだ。だが、目の前を餌らしきものが動くと、バッと食いつく。だからバサーはまず、ブラックバスがじっと潜んでいるであろうポイント~橋脚や川岸の隅~を見定める嗅覚が必要になる。そしてそこにルアーを打ち、あたりがなければすぐさま、次のポイントに移動する、それを繰り返すのだ。

だが、こちらシロウトはまず、ポイントらしきところに、ルアーを打つという至難な業の習得から始めなければならない。このコントロールが、慣れない内は効かないのだ。その為、川を飛越たり、木に引っかけたり、一度は後ろに飛ばしてしまったり。

また、川底に潜んでいるであろうバスの目の前にルアーを打ち潜らすために、早い速度でリールを巻くと…、ルアーが川底に引っかかってしまい、最悪は取れなくなるのだ。根掛りと呼ぶそうだが、根でなくとも川底には意外と障害物が埋まっていたり、川岸にはロープで括った石が敷き詰められていたりして、時々それらに針がガッチリと引っかかってしまい取れなくなる。だが、ブラックバスを釣るために攻めの釣りをする…すると、ルアーが引っかかる確率は高くなり、泣く泣くルアーを諦めなければならなくなる。事実気が付いたらこの日は、ルアーを3個失うことになった。

この、釣れなければ移動することが、なかなか最初身につかなかった。ポイントに打つことにまず意識を取られ、次にはリールを巻く速度やタイミングに逡巡し、気がつくとすぐ1時間が経っている。

頻繁に動いていたバサー拓ちゃんから声が掛った。最初の移動の時だ。同じ前川を少し遡る。この前川のセカンドステージで、K氏にあたりがきた。スモールマウスバスというカワイイやつだ。

K氏が初当たり。この日K氏は3匹ブラックバスを吊り上げた。最大は36㎝。40㎝オーバーも釣ったが、キャッチする瞬間に暴れて逃げられた。

間近で見て、ブラックバスの暴れ方に驚いた。大暴れに暴れて、しかし、その割に小振りだ。これがビックなものだったらと考えると、期待とともに緊張感が湧き上がる。以前西武園であげた、42㎝のトラウトとは重量感も暴れ方も、比較にならないであろう。

しかしバサーは動く。今横にいたと思ったら、いつの間にか遠くに移動し、気が付くと視界から消えている。これがChaseでありHuntと呼ばれる所以なのであろう。正にスポーツフィッシング、体力と知力が試されるダイナミックな釣りだ。

さらに移動した前川で、K氏が36㎝とスモールの計2匹を吊り、その後移動した鰐川で、この日最大の42㎝を、拓ちゃんがHuntした。持たせてもらったが、重い。その重量感は、やはり、トラウトの比ではなかった。

拓ちゃんとBB42㎝

鰐川にて42㎝のラージマウスバス。大きさはこの後、メジャー測定で確認。大会では表になっているメジャーの上にブラックバスを寝かし、写真に納めて提出することも多いそうだ。ちなみにブラックバスは“キャッチ&リリース”その場で逃がすことが掟。

こちらはと言えば、投げること。遠くにも投げれるように。そして状況に合せて巻くこと。ただし根掛りしないように、と、悪戦苦闘していた。ようやく軌道が安定して投げ込めることが出来るようになった時には、もう10時になっていた。早い、時間が飛ぶように過ぎていく。ちょうど小原も空いてきたので、腹ごなしにコンビニへ。バサーは時間をHuntに、Chaseに寸暇を惜しんで費やす。ちょっとファミレスに腰を落ち着けて食べれるかな…と変な色気を出したこと自体、シロウト丸出しだなと一人ゴチながら、コンビニおにぎりをぱくついた。ノンアルコールビールで乾杯しながら、こいつらはタフだと思わずにはいられなかった。K氏も拓ちゃんも、前日は遅くまで仕事に従事している。で、深夜1時過ぎから行動を開始し、疲労感は微塵にも感じさせない。

確かに男にとって、ChaseとHuntという行為は、生来その身に深く刻まれた、本来的な衝動を満たす行為なのかもしれない。目前でノンアルコールビールを煽り、サッと食事をすます彼らの眼光は、ChaserでありHunterそのものだ。

コンビニで食事を澄ました我々は、潮来釣り具センターへ移動した。

この程度の広さの河川が、霞ヶ浦には沢山ある。

バサー2名が釣具を購入している間に、こちらは釣り糸にルアーを装着することに悪戦苦闘していた。釣り師は手先も器用でなければいっぱしの釣り師にはなれないのだ。

さて、潮来釣具センターを後にした我々一向は、潮来駅付近の常陸利根川にデポした。
こちらは橋脚と橋脚の真ん中を陣取った。ちょうど橋脚すれすれにルアーを打ち込むには最適の場所だ。

橋脚すれすれにルアーを打ち込めることが出来ると、満足感が湧き上がる。こんなではあたりがくるのは、相当先だなと自嘲した刹那、ルアーがまた根掛りしてしまった。あぁ、とうとうエバーグリーンの、お気に入りとなったスピンムーブシャッドともおさらばかと思った途端、キュルキュルキュルと猛烈な速度で糸が流れ出した。止まると今度は、ロッドが弓のようにしなり曲がる。この時点でようやく、西武園の42㎝を思い出した。掛った、あたった。しかも左に右に、猛烈に振られる。リールを巻きながら、周りを眺めると、K氏が100m左手に見えた。
「あたった」
と叫び、更に格闘する。

腕力にはまだまだ自信があった、リールを巻いて、振られないようカウンターを合せる。と、魚が顔を出した。腹には緑のライン。ブラックバスだ。しかも大きい。さあ、上がるかという瞬間。すぐの川岸にも関わらずバスは暴れて右に動いた。こちらも逃げられないよう右に竿を合せた瞬間、
“ブチッ”
という感触と共に彼は水中にもくずと消えた、腕にズッシリと重い、Huntの感触だけを残して。

あぁ、逃げられたと、むなしくリールを巻くと、スピンムーブシャッドは無事で、しかしUの字の針が、ハの字に曲げられていた。駆けつけた針をK氏に見せると彼も、アァという顔で同情した。
後から知ったが、最後の、バスが逃げる方向に竿を合せたのが敗因だったようだ。重いバスであればあるほど、針を曲げて離脱する強い力があるので、反対に竿を向けるのが鉄則だそうだ。だが、不思議に満足感はいつまでも消えなかった。ビギナーズラックのランカーバスは幻に終わったが、この達成感は他に得難いものだ。

白鳥のつがいが悠然と泳ぐ。野鳥と魚は実に豊富だ。

気が付けば時間は16時を過ぎていた。
我々は最後の移動を終わらせ、八間川中流にデポした。

この八間川は魚の活性が見事だった。白いハラを見せてフナや小魚が宙を舞った。だが、逃げている気配はない。本日最後の活性化する時間であるが、ブラックバスはどこに身を潜めているのであろうか。

ブラックバスの魚影を求めて、我々は更に上流に遡った。
この最後のデポ時に、拓ちゃんはルアーに着いた草を取ろうとジャブジャブ竿を振っている刹那36㎝ブラックバスを吊り上げる芸当を魅せた。さすがだ。ちなみに彼は先々週多摩川で50㎝オーバーの雷魚をHuntし、大会ではランカーサイズをHuntしている。こういうバサーを
“もっているHunter”
というのであろう。

至る所にBBの恰好の隠れ場所がある、霞ヶ浦

こうして18時30分、Hunt&Chaseの旅は終わりを告げた。これまで筆者はスポーツといえば、ロッククライミングとボクシングしか経験がなかった。しかし両者とも、アドレナリンの噴出量といえば他のスポーツに比較するものはなく、達成感という点では比肩するものはないとたかをくくっていた。

だが、この取材を終えて、ブラックバスのHuntとChaseは、更に根源的な、クライミングやボクシングに比肩する、かっとくる魅力と達成感、充実感が満載のスポーツだった。川岸に椅子をおいて、どっかりと腰をおろす爺様にはなれないけれども、このHunt&Chaseの醍醐味は自分にもわかる。静かな釣りとは、まったく別物にあることを身をもって知らされた。

帰宅してサイトの画像を見ると、ランカーを釣り上げたバサーの笑顔は一応に、達成感や充実感が溢れている良い笑顔だった。

男は達成感を味わい、女は過程を味わうというが、このブラックバスのChaseとHuntは正に、男のスポーツだ。サイトに情報を過多に流すこともせず、知力と体力で勝負する。事実、帰宅は20時30分。18時間のロングランだが、帰路の車に乗った瞬間意識を失った筆者と異なり、2人はひと時も眠らなかった。正にHunterが板についている。だから今度はこちらも取材を忘れて、置いてきたフィニッシュの喜びを取り戻しに、Chase&Huntにドップリと浸かりに、霞ヶ浦に出向うと思う。

2015.6.29 Special Thanks:taku&K

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