「FM補完放送」という言葉を聞いたことがある人は、そんなに多くないのでは
 と思います。
 これは、AMラジオの放送を同時にFM波でも送信する、つまり「補完」する放送です。
 何のために、そういう放送をするかというと「都市型難聴対策」「外国波混信対策」
「災
害対策」などのためということが挙げられています。
 その「FM補完放送」を親しみやすい言い方にしたのが「ワイドFM」です。
「ワイドFM」は関東地区でも年内に開始される予定ですが、いまひとつ世の中に
 知られていないという印象があり、高校生のころからのラジオファンとしては、
 やきもきしていますが、ここはひとつ「勝手に応援団」として、微力ながら
 多くのみなさんに知っていただこうとパソコンに向かうことにしました。

「都市型難聴」とは、ビルが増えたり、電気機器などが原因でAMラジオの放送に
  雑音が入ることを言います。
「外国波混信」とは、説明するまでもなく、たとえば韓国、北朝鮮などからの電波と
  混信するため、ラジオが聞きにくいケースです。
 そして「災害対策」AMラジオの送信所は河川や海の近くにあることが多いのですが、
 津波などの自然災害で、その送信所が大きな被害を受けることがあっても、
 別の場所に設置されたFMの送信設備で放送を継続することができるということです。

すでに始まっている「FM補完放送」

ちょっとおカタい話をしますと、2014年1月に総務省が「AMラジオ放送を補完する
FM中継局に関する制度整備の基本的方針」というものを公表しました。
その後、全国のAMラジオ局のいくつかの局が予備免許を申請し、同年7月に
南日本放送(鹿児島)に、8月には北日本放送(富山)に、10月には南海放送(愛媛)対して
予備免許が交付され、12月1日、北日本放送と南海放送が、全国初のFM補完放送を
開始しました。
いずれ、全国のAMラジオ局が「FM補完放送」を開始することになります。
予備免許を交付されたAMラジオ局は、ホームページでそのことを伝えるとともに、
本放送の開始予定の時期などを告知していると思います。
では、その放送の内容はどういうものなのでしょう。

AMラジオで放送しているものをFMでも同時に放送する。

「FM補完放送」通称「ワイドFM」は、まったく新しいFM放送というわけでは
ありません。その目的が難聴対策、災害対策であるということは、AM放送が
いかなる条件のもとでも無事に放送を継続することができることに主眼が
置かれているわけで、そこで新たにコストを負担して別の番組を制作、放送する
必要はない、ということでしょうか。
まさに「補完」という名にふさわしく、AMラジオで放送する番組をCMも含めて、
そのまま同時放送します。
しかし、これは、ラジオ局にとっては、多少の費用負担でFM波を持つことができる
という
側面も持っています。
スポンサーに対して、「AM、FM、ふたつの電波で放送していますから、
これまで以上に多数のリスナーに、しかもFMではクリアな音質でお聞き頂いています」
というセールストークを展開することもできるでしょう。

また、携帯型音楽プレーヤーなどにはFMチューナー付きのものがあります。
AMラジオ局にとっては、いままでカヤの外だった分野にまで入って行けるわけです。

その点で、「ワイドFM」は、ここ20年、ラジオ局の売り上げにあたる広告費が
年々減少している状況から反転攻勢に打って出る絶好のチャンスだと言うことも
できます。

受信機は90MHz以上の周波数に対応しているラジオでOK

何年か前、「ラジオのデジタル化」ということが言われ、ラジオ局側が
そのための組織まで作って、研究や官庁、メーカーとの折衝、実用化に向けた実験
などを行ってきたものの、結局、メーカー側が、そのデジタル放送を受信する
ラジオやラジカセを作るに至らなかったため、それが実現しなかったという
ことがあります。
受信機がない、つまり誰も聞かない放送などあり得ないわけですから、
この「ワイドFM」もキモはそこ、でしょう。

「ワイド」という言葉には、FM放送の聞ける周波数帯域が広くなる、
という意味も込められています。
これまで日本のFM放送の周波数は76.1MHZから90MHzまでの範囲で
割り当てられていました。ところが「ワイドFM」は、90.1MHzから
94.9MHzの部分を利用するため、国内向けに限定した製品として作られた
ラジオのなかには、チューナーが90MHzまでのものがあり、それでは
「ワイドFM」は聞けないということになってしまいます。
この90.1MHzから上の周波数帯域は、これまで、テレビのアナログ放送の
1チャンネルから3チャンネルまでのチャンネルに割り当てられていたもので、
テレビの「地デジ化」によりアナログテレビの放送が終了し、この帯域を
有効に利用する方法として、「FM補完放送」という考え方が生まれた
というわけです。

では、90.1MHz以上の周波数に対応しているラジオがないのかというと、
そんなことはなくて、今現在、数多くの「ワイドFM対応」ラジオや
ラジカセが市場に、当然、家庭にも存在しています。
これは、欧米など外国ではFM放送用の周波数を108MHzまでとしている
国がほとんどで、日本のメーカーは輸出用に、それに対応した製品も
作っていますから、それが国内用として販売されていて、
(そういう製品は、「テレビの1から3チャンネルの音声が聞ける」というPRを
していました)今後は、「ワイドFM」が聞ける受信機になる、ということですね。
もちろん、今後発売される新製品は「ワイドFM」の周波数に対応したものに
なるものと思います。
その点で、「ワイドFM」の受信インフラは、デジタルラジオのケースと
くらべてみても、はるかに整っていると言っていいでしょう。

各メーカーは「ワイドFM対応」ラジオをそろえ準備万端。

ソニー、東芝などラジオやラジカセのメーカーは、それぞれのホームページで、
「ワイドFM」の説明も入れて、その放送が聞ける受信機のラインナップを
紹介しています。

また、家電量販店大手のビックカメラは、ネットショッピング用のサイトで、
ラジオやラジカセのひとつひとつが、ワイドFMに対応しているかどうかが分かるように
表記しています。
お客の利便性を考えているわけです。

あとは新規リスナーを獲得する魅力的な番組かがポイント。

東京のラジオ局、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の3社は昨年9月に
予備免許が交付され、年内の本放送開始に向けて、東京スカイツリーに
共同で送信用アンテナを設置する工事を行っています。
いろいろな作業を共同で行うということは、コスト削減のためという理由も
あると思いますが、このプロジェクトを絶対に成功させなければならない、
そのためには各社単独で動くよりも3社が手を携えて、という考え方によるものでは
ないかと思います。

文化放送は、「ワイドFM」の開局にあたって、新しいコミュニケーションロゴを
一般公募で募集し、5,000通をこえる応募の中から武蔵野美術大学の学生(当時。
今春、デザイン会社に就職)の作品を採用しました。
そのロゴは、社名の下にAMとFMふたつの周波数を入れて、「ワイドFM」と
その周波数をPRするものになっていて、すでに古いロゴからの移行が進んでいます。

それだけ、この「開局」に対する気合いが入っているということなのでしょうが、
いきなり3つのFM局が増えるかたちになる、そのことを既存のFM局は、
どう受けとめているのか、気になるところですが、各局とも、ライバルとして
冷やかに見るのではなく、ラジオ業界にとってのカンフル剤になる可能性があり、
「ワイドFM」によってリスナー層も"ワイド”になることを期待している、というのが
大方の見方のようです。
確かに、今や小さなパイを奪い合っている場合ではなく、パイの大きさを少しでも
大きくして行く姿勢が求められていることは間違いないのですから。

若者のラジオ離れ、聴取者層の高齢化、広告媒体としての相対的なパワーの低下、
きびしい現実に囲まれているラジオ界ですが、顧客開拓というところで今まで
足りなかった地道な努力を、この「ワイドFM」の開局をいい機会として、
いろいろ試してみていただきたいと思います。
それには何より、新たなお客さん(リスナー)が「これは面白い」「ラジオって
いいものだな」と感じる番組、テレビやインターネットでは味わえない魅力の
あるラジオワールドを、どれだけ提示できるかということが一番大切なことである
ことは言うまでもありません。
仏様を作ったら魂を入れる、ということですね。

今まで、ラジオはほとんど聞かなかったというあなた、クリアな音で聞けるFM放送、
3つの新しい局のスタートをきっかけに、ちょっと体験してみませんか?

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日々、「ことばのちから」について考えています。
ここでは映像ありきでない、言葉で伝えるいろいろな方法を試してみようかなと
思います。よかったら、ブログも覗いてみてください。キョンキョンについても
書いています。
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