推理小説の世界では常識! 『ヴァン・ダインの二十則』

『ヴァン・ダインの二十則』と呼ばれるものを知っているだろうか。
 これはベンスン殺人事件等を執筆した推理小説作家ウィラード・ハンティントン・ライト(以降S・S・ヴァン=ダイン)が、1982年に『世界短編傑作集』内で提唱した、推理小説を書く際の基本的な決まり事をまとめたもの。
 推理小説家を目指す者が謎を考える際の指針であり、良質な作品であると判断するための基準ともなっています。

『ヴァン。ダインの二十則』の内容は以下の通り。これは1990年にKKベストセラーズより出版された『真夜中のミステリー読本』内において、著者の藤原宰太郎氏によって翻訳されたものとなっています。

1.事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
3.不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
4.探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
5.論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
6.探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
7.長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
8.占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
9.探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
10.犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
11.端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
12.いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
13.冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
14.殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
15.事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
16.よけいな情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。
17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
18.事件の結末を事故死とか自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
19.犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀とか政治的な動機はスパイ小説に属する。
20.自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
  犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
  インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
  指紋の偽造トリック
  替え玉によるアリバイ工作
  番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
  双子の替え玉トリック
  皮下注射や即死する毒薬の使用
  警官が踏み込んだ後での密室殺人
  言葉の連想テストで犯人を指摘すること
  土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

出典真夜中のミステリー読本 著:藤原宰太郎

 どうでしょう? あなたが推理小説やドラマを見ていて「これはないなぁ……」と思ったものが数多く含まれているはずです。ようするにこの規則は、推理小説における読者のネガティブな意見をまとめ上げたものと言えるかもしれません。
 とはいえ、必ずしもこれを守らなければいけないということはないのです。かく言うS・S・ヴァン=ダイン自身の作品にも、この規則を守っていない作品は存在していますし、逆にこの規則をあえて守ることなく名作と呼ばれる作品だって存在しています。
 技術の進歩で電子的であったり機械的な殺人も可能となっている現代では少々通用しなくなってきているとはいえ、面白いと思える推理小説の多くは、この『ヴァン・ダインの二十則』に当てはまっているように感じられます。
 それだけS・S・ヴァン=ダインが推理小説の本質を見抜いていたということなのでしょうね。

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バンタンゲームアカデミーにて日々勉強している、特撮と推理小説を愛するライター見習いです。

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